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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
12/20

12 聖夜

 12月25日 福岡県 特殊怪異対策庁

作戦ブリーフィングルーム。PM16:27


ブリーフィングルーム。

 壁面モニターに、衛星写真が映る。


 犬泣トンネル


 ——心霊スポットとして有名な場所。

 事故。失踪。怪談。

 噂はいくらでもある。


 だが、庁の分類では——

 《準・6号領域型怪異 発生疑い》


 つまり。

 “場所そのものが怪異化しかけている”。


 最悪に近い。


 山間部。

 細い県道。

 長いトンネル。


 その先に——

 小さな集落。


 ぽつぽつと、家。

 畑。

 神社らしき影。


 「……村?」

 俺が小さく呟く。


 「思ったより、ちゃんと住んでた痕跡あるな」

 赤霧が腕を組む。


 東雲が頷く。

 「正式名称なし」

 「地図にも、ほぼ載ってない」

 「行政記録も途切れてる」


 「意図的に消されてますね」

 三雲が冷静に言う。


 氷室が資料をめくる。

 「通称、“犬泣奥村”」

 「地元でも、触れちゃいけない扱いです」


 「……名前からしてアウトだろ」

 虫喰が苦笑する。

 嫌な名前だ。


 氷室が続ける。

 「三か月前から」

 「住民の連絡が途絶」

 「調査班、二度失踪」


 「二度って……」

 赤霧が顔をしかめる。

 「上も、よく三度目出したな」


 「我々が“三度目”ですから」

 三雲が淡々と言う。


 ……重い。


 「生存者は?」

 俺が聞く。


 「未確認」

 氷室が即答する。

 「死亡確認も取れてません」


 「生きてる可能性もあるってことか」

 赤霧。


 久我は、壁にもたれたまま無言。

 ……目が死んでいる。

 いつも通り。


 「怪異傾向は?」

 赤霧が続ける。


 東雲が操作する。

 映像が切り替わる。


 ドライブレコーダー映像。

 夜。

 トンネル内部。

 ヘッドライト。


 ——出口が、ない。

 ずっと、同じ壁。

 同じ落書き。

 同じ亀裂。


 何分走っても、出られない。


 「……ループか」

 赤霧が低く言う。


 「空間固定型ですね」

 三雲が分析する。


 「王道すぎて逆に怖い」

 虫喰が肩をすくめる。


 「それだけじゃない」

 東雲。


 次の映像。

 民家の防犯カメラ。


 縁側。

 夜中。

 誰かが、立っている。


 ……家族全員。

 微動だにせず。

 全員、こちらを見ている。

 何時間も。


 「……無理」

 虫喰が即答。

 「夢に出るやつだろ、これ」


 「逃げられないんだな」

 赤霧が歯を噛みしめる。


 「住民の一部は」

 氷室が淡々と続ける。

 「“土地に固定”されています」

 「意識はある」

 「体は、動かない」

 「ほぼ、半同化状態」


 「……生き地獄じゃないか」

 俺が呟く。

 胸が、重くなる。


 「救出は……」

 俺が聞く。


 氷室が即答する。

 「理論上は可能」

 「成功例はゼロ」


 「ゼロかよ……」

 赤霧が天井を見る。


 「前例がないなら」

 三雲。

 「作るしかありません」


 東雲が、軽く手を叩く。

 「はい」


 「今回の目的」

 モニターに表示。

 《第一:領域中枢の特定》

 《第二:拡大阻止》

 《第三:可能なら解除》

 「戦闘は最小限」

 「生存優先」


 「聞いたか?」

 赤霧が俺を見る。

 「無茶すんなよ」


 「……はい」


 氷室が、俺を見る。

 「……聞きました?」


 「はい」


 「今回は“撃てない”じゃ済みませんよ」

 にこり。


 「判断を誤れば」

 「あなたが“対象”になります」


 凍る。


 久我が、ぽつり。

 「……奥に、“祠”がある」


 全員が、そちらを見る。

 「三年前」

 「偵察で確認した」

 「触った隊員が」

 「翌日、消えた」


 「……呪い系か」

 虫喰が眉をひそめる。


 「典型的ですね」

 三雲。


 「そこが中枢の可能性大だねぇ」

 東雲が言う。

 「触るのは禁止ね」

 「絶対」


 ◆ ◆ ◆

12月25日 福岡県某所 犬泣峠

            PM20:48

 山道。

 霧。

 雪まじりの雨。


 「視界、最悪だな」

 赤霧が窓を見る。


 「天候と怪異、相性最悪です」

 三雲。


 「もう帰りたい」

 虫喰。


 誰も同意しない。

 装甲車が、トンネル前で止まる。


 ——犬泣トンネル。

 古い。

 狭い。

 ひび割れだらけ。


 「……崩れそう」

 俺が呟く。


 「実際、部分崩落してる」

 東雲。


 入口に、札。

 剥がれかけた結界符。


 「……効いてないですね」

 三雲が言う。


 「十年前のだな」

 東雲。

 「更新されてない結界は」

 「ただの紙だよ」


 久我は、すでに銃を構えている。

 「……いつでも行ける」


 氷室が無線を確認。

 「通信、減衰」

 「帰り道、マーカー設置して」

 「十分ごとに確認」


 赤霧が頷く。

 「了解」

 「アタシが先導する」


 虫喰が笑う。

 「死亡フラグっぽいな」


 「黙れ」


 俺は、トンネルの闇を見る。

 ……吸い込まれそうだ。


 『……いやな……かんじ……』


 マモリガミが震える。


 「……俺も、そう思う」


 「無理すんなよ」

 赤霧が小声で言う。


 東雲が前に出る。

 「よし」

 「最終確認」

 「戻れなくなったら——」


 一瞬、間を置く。

 「気合で戻る」


 「雑すぎません?」

 三雲。


 「はは」

 東雲は笑う。

 「行こうか」

 「迷ったら」


 にやっと笑う。


 「死ぬからね」


 「脅しになってません」

 虫喰。

 誰も笑わなかった。


 そして。

 俺たちは、

 犬泣トンネルへ、

 足を踏み入れた。


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