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特異点 -特殊怪異対策庁第10課-  作者: 霜月真
一章 マモリガミ
1/20

1 接触

11月24日 福岡県 北九州市 PM11:20

接触対象 村野智也 27歳 男性


十一月の夜

 昇格試験を目前に控えた俺、

村野智也むらの ともやは、ネクタイを締め直しながら、家の近所の、誰も行かない古びた神社へ歩く。


 別に信心深いわけじゃない。

 ただ 「安泰な給料」 という、やたら現実的な願いが俺の背中を押した。


 パチンコ店に勤めて七年。主任になれば基本給も手当も跳ね上がる。もう現場で扱き使われる生活にはうんざりだ。


「……ボロいな」

鳥居は朱色が褪せ、砂利は草に飲まれ、灯籠は片方欠けている。

まあ、願い事を聞いてくれそうには見えない。


だけど今の俺には、こういう“迷信じみた行動”でもしないと不安で仕方なかった。


 鳥居をくぐると、空気が変わった。

 湿気を含んだ森の匂いと、どこか鉄のような冷たさが鼻を刺す。


 誰もいない境内。時代から取り残されたような寂れた拝殿。


 とくに有名でもない寂れたこの神社に、俺以外の参拝客はまったくいない。


「……上手くいきますように」

賽銭を投げ、二礼二拍一礼。

 頭を下げた刹那、


耳元で声がした。


 「……マモ……る……」


 息が止まった。

 顔を上げても誰もいない。


あまりに自然すぎて、自分の思考だと錯覚した。


 しかし次の瞬間、拝殿の奥の闇が“こちらを覗くように”揺らいだ。


 (……何なんだ、今の)

気のせいだと思い込むように、俺はそそくさと神社を後にした。


 明日の昇格試験のストレスが幻聴を聞かせた……

 そう納得しようとしていた。



―――――――――――――――――――――



 帰り道の交差点で信号を待っていると、

突然、風が荒れた。

 深夜にしては強すぎる、暴れるような突風だ。


 「寒いし眠いな……」


だが面接は明日。帰って準備しよう。

そう思って横断歩道に足をかけた、その瞬間。


 視界の右から、信号無視の車が突っ込んできた。

 ——ヘッドライト。

 ——タイヤの悲鳴。

 クラクションが咆哮のように鳴り響いた。


 視界の端から、赤い車が突っ込んでくる。

 ブレーキの音が遅れて聞こえた。


 ——避け、否、死ぬ。

 そう思った一次の瞬間——


 車が、紙のようにねじれた。

 フロント部分が不自然にねじれ、

 金属音ではなく、布を裂くような音。

 車体は有り得ない角度で折れ曲がり、路面に叩きつけられて止まった。


 車が折れた。


 金属が紙みたいにひしゃげ、丸められていた

赤いナニカが車内から飛び散る


 「あ……?」

 状況を理解するより早く、背後で声がした。

 『——マにあった』


 混乱して振り返るが誰もいない。

何が起こったのかわけもわからず足がすくみ、

しばらく呆然としていた。


 不意に周りから声がした、黒いスーツの男女が四方から現れた。女性から声をかけられる

 「村野智也さん、ですね」


「……は?警察?救急?てかなんで名前——」


 「我々は警察でも救急でもありません」


中心にいた女は、落ち着き払った声で言う。


「特殊怪異対策庁 第10課——

  通称《特異点》の者です。

  あなたを保護します」


 「は? 怪異? 保護?」


 「あなたは“接触”しました。

 怪異11号 マモリガミ

 ……元神格存在に分類される特殊災厄です」


 俺を見つめる彼女の瞳は、仕事として冷静なのに、僅かに焦っている。

 もう一人の初老の男が言った。

 「能力発現を確認したよ。一般環境に置いては危険だね、」

 「ちょっと待て、俺はただ——」

言い終わる前に、頭の奥が熱くなり、視界がぐにゃりと歪む。

 『……まもる。そなたを……まもる……』


 あの声だ。

ノイズがかった男とも女とも言えない、

不気味だが温かい声。


 女職員が俺に近づきながら短くつぶやく。

 「発現過多。急いで、このままだと“怪異化”が進む」


初老の男が俺と女職員の間を割って俺に言う

 「まぁまぁ、わけわからないと思うけど、 とりあえずあっちの車に乗ってくれるかな?」



車内は無機質で、どこか病院の隔離室を思わせた。


 正面に座るのは先ほどいた女。

ショートカット黒髪で目つきが悪く、

 愛想のなさそうな感じだった


名札には “三雲柚葉” とある。


「あなたはすでに怪異11号の“保護対象”です。

 今後は、我々《特異点》の監視下で生活していただきます」


「……そんな勝手に決めないでくださいよ、

こっちにも普通に生活とかあるのに」


「決めたのは、あなたに取り憑いた側です」


 三雲の視線はまっすぐだった。


「村野智也さん。

あなたはもう、“普通の人間”ではありません」


胸の奥で、何かが脈打つ。


 神社で聞いた声。

 その温かさ

 そして車をへし折り丸めた“力”。

 (俺は……どうなってしまったんだ)


 三雲が静かに告げた。

 「怪異11号 マモリガミ——あなたを守る代わりに、あなたを蝕みます。

放置すれば、いずれあなた自身が怪異になる」


 心臓が跳ねた。

俺の人生は、昇格試験どころか、常識の外側へ滑り落ちていく。

 こうして、

 怪異11号 マモリガミと、

それを巡る極秘公的機関《特異点》との関わりが始まった。


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