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ヴェルデ・ガルダ〜緑の戦士たち  作者: 石井はっ花


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ドライブ

「おい。神社本庁から調査員派遣されてるって本当か」

 会議前の喫煙室。スーツ姿の男性たちが、車座になって話している。


「ああ、そうらしいぜ。見たこともないやつが何人かで庁に入っていくの見たから、あいつらそうだろ」

「げー。本当に勘弁してほしいよな。札幌とか都会ならまだしも過疎地だぞ。人的被害だってそんなになかったのに」

 男たちは喫煙室から会議室に向かう。


「本当にな。あいつら地方のことなんかお構いなしのクセして異変があるときだけ、注目してくるんだ」

 と言った瞬間に男は、前に立っていた男性にぶつかった。


「あ、失礼」

 ぶつかられた男性は、身長175cmの見事な体躯をしていた。


 そしてにこりと笑うと。


「地方のことも本庁は十分に調べていますよ」と、その男たちを一瞥した。

 神社本庁からの特別調査担当官 是常(これつね) 純久(すみひさ)だ。

 その横には白鳳稲荷神社で権禰宜(ごんねぎ)を務めている久留間(くるま) 慎一郎(しんいちろう)と是常の部下である苑田(そのだ) 晃典(こうすけ)もいた。


 一様に冷蔑した視線を向けてはいたが、これから会議が始まる。

 いま、事を構えるわけにはいかないと三者三様に押さえた。


 会議は紛糾した。


 是常たちは、きちんとした調査が必要と順序立てて申し出ているのだが、北海道神社庁側はどうにも首を縦に振らない。

 あまつさえこの件は北海道の出来事だと、こちらで調査し報告書を出せばそれでいいだろうと押し切ろうとしている。


 しかし、それではなあなあの紙一枚で済むような薄い内容の報告書がぺろんと出されるだけで終わるだろう。

 光の子どもたちの調査も必要なのだが、それすらもしないで終わるだろう。


 その部分を問い詰めても、結局は”北海道のことは北海道神社庁で調べます”で押し通そうという気でいるようだった。


 久留間は、焦れた。


 是常からは「お前は事態をややこしくするから、何も言うな」ときつく言われているが。

 それでも、限界というものがある。


「ふざけんな! てめえらの保身で済む話じゃねえんだ! このまま見過ごせば、次に飲み込まれるのは庁の人間じゃねえぞ、国全体だ!」

「は?何言ってるんです?北海道の小さな神社の話ですよ?国全体?そんな馬鹿な」


 北海道神社庁のお偉方が、全員失笑する。


「お前ら……。それに”北海道でやる”だと? じゃあ聞くが、これまでお前らが何か一つでも守れたのか。U神社、子どもたちがいなきゃ全滅だったんだぞ。N神社の電気工事人達の話も伝わってねえとは言わせねえぞ」


 お偉方は顔を見合わせた。

 そこまで話が伝わっているとは思っていなかったからである。


「まだあるぞ。どの件も力を尽くしてくれたのは、高校生だぞ!? まだ未来のあるガキだ! その子らが命張って闇を押し返してんのに、大人が尻込みしてどうすんだ!」

「な、何が言いたいんですか」


 久留間の剣幕にお偉方は尻込みしだした。


「ああ?俺らがこの高校生たちに接触したり調査しても、文句なんか出るわけがねえよな?全部なあなあで済ます北海道神社庁さんたち?」

 お偉方どもは渋々受け入れ体制をとった。


 会議室に沈黙が落ちたその瞬間。

「……はぁ。やっぱり言ったな、久留間」

 是常が額を押さえながらも、微かに笑った。


「だがまあ、これで話は動く。お前の乱暴な言い分も、今回は正解ってところか」

 久留間は肩をすくめて、ふっと息を吐いた。


「最初からそう言ってりゃ、俺だって吠えずに済んだんだよ」


 *


 苑田が借りたレンタカーは翌日朝、東へと向けて走り出した。

 北海道日高地方U町へと進路を向けたのだ。


 三時間半の道のりである。


 眠気防止のおやつを買い込んでの道のりだ。

 途中、民家もない場所を走っていくと聞いたからだ。


 それを聞いた苑田は気の抜けないドライブになると、覚悟を決めた。


「苑田。そんなに気負うな。いざとなったら俺も運転する」

「って。是常さん。ほぼペーパードライバーじゃないですか」

「じゃあ、俺が運転だな」


「お前はだめだ」


 焦った是常が勢いよく制止する。


「なんでだ?ああ?」

「お前の運転では、みんな車酔いする」


「そ、そんなに運転荒いんですか……」

 苑田は覚悟を決めたようだ。


「わかりました。しっかり、おれが運転します」


 *


 片側一車線の高規格道路まで車は進む。風景の中、道を歩く人々はほぼゼロで。

 辺り一面に畑作と牧草地、牧場が混在している。


 あちこちに茶色い点が見えるが、あれはきっと馬だろう。

 北海道日高地方は軽種馬の生産地でもあるらしい。


 他の地域ではあまり見られない、のどかな様子に、会議中はヒートアップしていた久留間ものんびりした表情だ。


 大変なのは、苑田だ。

 牧歌的な光景というのは、得てして眠くなりやすい。


 ましてや運転中はなおのことだ。


「おい!あっち遠いけど海じゃねえか?こっからもう、海が見えるんだなぁ」

「おお、そうだな」と是常が後部座席から相づちを打つ。


「なあ。高校生たちには連絡してあんのか?」

「いや、まだだ。佐久間という北海道神社庁の職員が接触したんだそうだが、何もヒアリングしないでかえって怒らせて終了したらしい。俺だったら、まず、連絡先から聞くがね」


「んじゃ、どうするんだよ」


「U神社の江刺(えさし)宮司に会う。そこからなら子どもたちに接触してもおかしくはないだろうからな」

「なるほどな。U神社の事件もその宮司が子どもたちに連絡してくれたおかげで、あまり大きな被害にならなかったと聞くしな」


 三人はうなずいた。


 海はまだ遠かった。


 *


 昼下がり。ようやくレンタカーは、U神社に着いた。

 海特有の風、そして匂いが鼻につく。


 古びたチャコールグレイの大きな鳥居を通り抜けると阿吽の狛犬が一対。

 そして目につくのは、サラブレッドのブロンズ像だ。


 あの事件がなければ、参道から古びた社まで百一段の階段が連なっていただろう。


 あの異変のせいで、山の上にあった社は地中深く落ち、今ではその形を望むことは出来ない。

 境内の中の社務所では、江刺 嗣郎(しろう)宮司が待ち構えていた。

 ようやく話の分かりそうな人が訪れてくれたと安心したような顔をしていた。


 江刺は、よく来てくださったと昼食の用意までしてくれていた。

 近隣の海産物を用意してくれていたのだ。


 その時の昼飯は、ちょっとしたパーティのようだったと、後になって苑田は振り返った。


 *


 昼食後、江刺の案内で翠月学園まで、四人はやってきた。


 広い敷地の高校の白い校舎はそれなりの威圧感があった。


 苑田は、車を来客用駐車場に止めた。

 来客用名簿に名前を記すと、茶色いスリッパに履き替えた。


 会議室は二階にあるようだった。

 廊下を歩くと、数名の生徒が明るく挨拶を交わしてくれている。


 四人はそれぞれ頭を下げながら、廊下を進んでいく。

 会議室に入ると、校長が現れた。


「これは佐藤校長。何度もお邪魔しましてすみません。こちらは東京からいらした」

「今回の調査をしています、神社本庁。特別調査担当官を務めております、是常 住久と申します。こちらは、白鳳稲荷神社 久留間 慎一郎。と。私の部下の苑田 晃典。今回、お邪魔することになったのは、少し前のU神社での事件のことをお伺いしたいことがありましたので、お伺いしました。ぜひ、生徒さんたちに会わせていただけますでしょうか」

 佐藤校長は、丸々とした額に脂汗のようなものを垂らしながら、忙しなくハンカチで拭きながら言った。


「これは、ご丁寧にありがとうございます。本校の生徒がかえってご迷惑をおかけするようなことになって申し訳ありません。江刺宮司からご連絡いただいて、もうすぐ生徒たちが来ると思いますので、もうしばらくお待ちください」

 佐藤校長は、深々と礼をして荒い息遣いをしながら、会議室を出ていった。


 しばらくして。

 遠慮がちにノックが数回された。


「はい。どうぞ」と、是常が答え、苑田が会議室のドアを開けた。


 そこに姿を表したのは、七人の生徒たちだ。


 先陣を切ったのは、満園(みつぞの) 一樹(かずき)だ。前世名はイェレ。

 剣術に長けていて、ソードマスターを名乗るほどだ。


 続いては、植村(うえむら) 燈乃(ひの)

 前世名はサナだ。サナは、歴代聖女の数倍もの力がある聖女であった。


 その隣の少女は、岩室(いわむら) 亜結(あゆ)、前世名はシルカだ。

 レイピアの使い手にして、索敵能力が高かった。


 その後ろにいる少女は、静かに会議室の中を窺っているように見えた。


 海老塚(えびつか) 香那美(かなみ)は前世名ヴェルマ。

 現在も弓の鍛錬を欠かせない弓の名手だ。

 その視線はまさに矢を射るような鋭さを保っている。


 続けては、楠浦(くすうら) (こう)、情報戦が得意な男なのは、昔も今も変わらない。

 前世名はマウヌだった。

 戦闘中は、短剣を操り、その俊敏な動きでは誰にも負けたことはなかったのだ。


 弓達(ゆだて) 吹雪(ふぶき)も、弓の名手だ。

 こちらもマスタークラスの腕を持っていた。

 前世名はオスクだ。


 今も全国大会に個人として名を連ねるほどの猛者である。


 最後に現れたのは、燈乃の実の弟だ。

 名は、植村(うえむら) (あおぐ)という。


 前世名はクリスティアンだ。前世でも、サナの実の弟である。

 彼は、非戦闘員であったが、今世での鍛錬により、相当な実力をつけている。


 彼らには、タンクであった古久保(ふるくぼ) 秀亮(ひであき)というかけがえのないリーダーがいたのだが、彼は敵である、闇の存在セイリュウの手にかかり、一足先に逝ってしまった。


 彼らは、まだ、秀亮の死を乗り越えられずにいた。

 けれども、日々は残酷だった。


 悲しみの底にいても、容赦なく色々なことを引き起こし、心を軽く押し上げようとしてくる。

 それが、かえって七人には何よりも辛かったのだ。


「君たち。入りなさい」

 是常に促されて、ようやく、会議室に七人は足を踏み入れた。


 何しろ、前回のヒアリングとやらは、失礼すぎたおじさんが、高飛車に話を聞くだけだったのだ。

 あまりの態度に、魔法を披露しただけで、転がるように逃げていった。


 あれは、少し笑えた。と一樹が意地の悪い笑みを浮かべた。

 だが、今回はどうだろうな。


 七人は慎重に事を構えることにしていた。

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