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ヴェルデ・ガルダ〜緑の戦士たち  作者: 石井はっ花


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権禰宜

 北海道神社庁のヒヤリングが不調に終わり、佐久間が飛んで帰ったところ、光の子どもたちを支援する文が何件も届いていた。


 まずはU神社だ。

 江刺(えさし) 嗣郎(しろう)宮司からの文である。


 N神社とU神社であった怪異についての謝罪と加えて、あの光の子どもたちを擁護しこれからの影との戦いがあるとすれば、その一助として成り立つという、進言をしている手紙である。

 その文が、何通も出されていたのだ。


 K神宮の禰宜(ねぎ) 紺屋(こんや) 宏高(ひろたか)からの文は、影の広がりが今後拡がっていくことを示唆し、紫雲山 祇雲神社 加茂谷(かもや) 影近(かげちか)宮司と姪の加茂谷 真白(ましろ)巫女からは、拡がっていく影への対抗策として、光の力がある子どもたちがこれから重要になっていくことを連名で文にしたためてあった。


 また、宮崎 日向天翔宮 権禰宜(ごんねぎ)穂北(ほきた) 海渡(かいと)からは、今すぐにでも、光の子どもたちの力を借りなければ、闇に包まれることを示唆してあった。


 そして、アイヌシャーマンのカムイモシリの会からもすぐさまの光の子どもたちへの対応を希望する旨の連絡が入っていた。


 困惑したのは、北海道神社庁だ。

 まず、”魔法”というものが存在することすら疑わしい上、全て高校生の未成年だ。

 そして、ある一定の”能力者”であれば、政府のデータベースに名前があるだろう。


 けれども、型通り調べては見たものの、誰一人、名前が載ったものは居なかった。


 比較的大きな事件となったU神社の出来事から、日が浅いとはいえ、その前に”能力”の発揮があるならば、能力者として載っているはずである。

 だが、”それ”には名前一つも見当たらない。


 だから、眉唾物だろうと言うことで佐久間を翠月学園に向かわせたのだ。


 偽物をあぶり出すのは、佐久間のような人間が一番適役である。

 今回は、返り討ちのようになってしまったが、致し方はあるまい。


 偽物だということが、判るまでは第二第三の佐久間を送り続けることになっていた。

 北海道神社庁としては、秩序の回復を狙ったのだ。


 信憑性もないことを垂れ流す、不届き者にはきつくお灸を据えるような感覚であったのだ。

 そこへあちこちの神社の禰宜や権禰宜などの高い位の神職からの文だ。


 U神社のような小さな神社ならば、捨て置いても問題はないだろう。

 けれど、この事態は、収束は難しいのかもしれないと、北海道神社庁を取り仕切る者たちは思った。


 確かに、北海道神社庁だけでかんがえるのであれば、収束はとてつもなく難しいだろう。


 *


 翌日。北海道神社庁にとある来訪者が、あった。

 神社本庁の是常(これつね) 純久(すみひさ)だ。


 通常は、強化部次長という役職であるが、北海道神社庁とは違い、神社本庁は即座に動いた。

 是常をトップとする新体制を築いたのだ。


 これにより、是常は特別調査担当官として、部下である苑田(そのだ) 晃典(こうすけ)と北海道神社庁を訪れた。

 白鳳稲荷神社の権禰宜 久留間(くるま) 慎一郎(しんいちろう)と共にだ。


 餅は餅屋に作らせるべきだと言うのが是常の持論だ。神社本庁など、所詮サポート役だと言うのだ。

 主はあくまで神社そのものであり、統括をしている神社庁が主体ではならないのだ。


 ところがだ。

 今回の北海道神社庁の行いは、是常の考えとは真っ向から違っている。


 再三再四のU神社宮司、江刺からの要請を無視した上、その要求を押さえつけようと役にも立たない調査官を送っていたのだ。

 是常からしてみたら、言語道断である。


 事態の収束など、望めずにかえって事態が広がるだろうと予測ができた。


 案の定、光の子どもたちが通う学園での発光事件だ。

 きちんと話を聞くべき大人が、これほどの事態を起こすくらい煽ってどうするのかと問い詰めたくなる。


 それでも、その事態を引き起こした佐久間という任官は、自宅待機をしているらしい。


 罰は下っているのだろう。それならば、いい。


 今回の是常の仕事は、調査のみなのだ。

 うまいこといけば、そのまま東京に帰れるのだと思ってはいる。


 が、同行者に問題があるのだ。


 同行者その一は、神社本庁の部下 苑田だ。

 今回の飛行機やJRなどの手配も言う前に手配してくれている。


 非常に優秀な部下だった。


 一番の問題点は、奴だ。

 久留間だ。


 生家の神社の権禰宜に上り詰めたかと思いきや、昔と同じように血の気が多い。

 カッと来たら何をしでかすかわからないところは、全く変わっていないのだ。


 今回の特別調査担当官にしてもそうだが、頭に血が上った、久留間が神社本庁に乗り込み、直訴したのがきっかけだった。


 その前に何度も書面もかいたという。

 それでも、梨の礫であったらしい。


 あまりの神社本庁及び北海道神社庁の態度に、本人曰くかちんと来て、その日神社本庁に出向いたのだという。


 最初は、本人曰く猫なで声であったという。

 だが、どう話しても、対応できかねます、お帰りくださいと冷たくあしらわれ、段々とキレはじめたとの事だ。


 ただのカスタマーハラスメントである。


 そこに、珍しい外回りから帰庁した是常が、大揉めしている、職員と久留間に遭遇したのだった。

 久留間は、是常ににじり寄り、ここでも迫った。


 だが、ここで、是常は、久留間の瞳の中にある必死さを見て取った。

(これは、なにかあるのだ)と。


 是常は、周囲から引き離し、久留間を自室に呼び入れた。


「今回も、やばいこと、起こっているのか」


 開口一番。是常は久留間に尋ねた。

 久留間は、カッとすると何をしでかすかわからないやつであるが、それでも一応の分別はあるのだ。


 今回の様なカスタマーハラスメントを起こすやつでは、決して無いのだ。


 だとすると──学生の頃に起こったあの事のような、大事件が起こっているのか。

 そう考えるのが、自然だった。


 *


 幼い頃から、家が近所だった是常と久留間は、自然と親しくなっていった。

 遊び場はいつも広い敷地のある久留間の生家、白鳳稲荷神社の境内だった。


 活火山のような性格の久留間だったが、それが発揮されるのは、なにか誰かにとって理不尽で不都合なことが起こったときだった。


 見える事も見えないこともである。


 ある時、学内にある噂が広まった。

 講堂に行くと、急病人が出たり、講堂帰りに事故に遭い、大怪我をする人が増えたのだ。


 おかしいと大学側は、除霊師などを呼んだようだが、効き目はイマイチだったようだ。

 そして、重症者が数名あらわれる事態にまで発展した。


 一人で動いていた久留間は、とうとうその正体を発見した。


 学内に潜む怨霊の異変に気づいた久留間は、暴走気味に力ずくで祓い、結果として校舎の一部を崩壊させ、周囲を騒然とさせたのだった。

 そうとは知らない、教授陣は久留間の即刻の退学を言い渡そうとしたが、事情を知った是常ら数名の学生に寄って、その退学は阻止された。


 この事もあって、久留間にとっては是常は大事な相棒になったのだ。


 数年後、思い出として話を聞いてみると、あの時暴れたのは、次のターゲットが是常であり、命をも奪うようなことをその怨霊から聞いたからだという。


「あまりのことに、頭に血が登っちゃってよ。押さえ効かなかったわ」と、力強く笑っていた。

 久留間という男は、情に厚く導火線も短いのであった。


 *


 その久留間が、今回一も二も無く自分の神社をうっちゃって神社本庁にまで乗り出してくるのだ。

 ここはよっぽどのことがあると考えて自然だった。


「久留間。ここまで、お前が必死になるなんてよっぽどのなにかがあるのか?」

 久留間は、苑田が用意してくれた冷たいお茶を一気に飲むと、一息ついて。


「お前は、霊感ゼロだから感じないかもしれないが、五月くらいから、地球に異物が紛れ込んでいる感じがあってな。それが、今月の頭くらいに東京に来たんだ。そんな感覚がして仕方ないんだよ」

「それは、お前の考えすぎなんじゃないのか」


「俺もそうと、思いたい。だけれども、そうとは言い切れないんだ。お前、北海道で起きた神社での事件知っているか?」

「ああ、庁でも話題になってはいたが。それが?」


「あれが、予兆なんだ。まず起きた小さな神社の電気が消えなかった事件。あれも影……いや、闇……だな。闇が起こした事件だ」

「闇……」


 少しついていけない話の流れに、是常は戸惑っている。


「そうだ。闇としかいえないものだ。人間では、ここまでの闇は抱えきれない」

 久留間はお構い無しに話を続けていく。


「続けて起きた、U神社が、その周辺の神社が陥没した事件。それだって闇が手を伸ばしたから起きた事件だ」

 久留間は、一旦ため息をついた。


「もし、あの子どもたちがいなければ、人的被害は今の倍以上にのぼっただろう。それほどひどい状態だった」

 久留間は、そっと目を閉じ、感慨深げに話した。


「あの少年たちがいなければ、闇はそのまま日本全土に拡がっていただろう。今回はその子達に救われたが。次回以降も同じように力を発揮してくれるかは、わからない。そうすると、地球人の完全な敗北だな」

「そうなのか。それで、お前は何をしたいんだ。こんなところまで押しかける理由を話せよ」


「俺は、北海道神社庁に問い合わせてみた。だが、門前払いを喰らったのさ。答える義務はないと。そこで、わかった。答える義務がないんじゃなく。そもそも真剣に取り上げていないことを」

「取り上げていない……」


「確かに、今の地球人は魔法と聞くと眉唾物でしか無いと思う。けれども、俺等神社にいる者たちが、そういう力のこと、有る無いで見方を絞っちゃだめだろう」

「たしかにな」


「もし、その少年たちが本当に魔法の力を発揮し、今、東京にいる闇の存在ともしかして戦ってくれるなら、俺は!何も言わずサポートをする!必ずだ!」

「そうか」


「だから、俺は、ここにきたんだ。少年たちの力になりたくてな」

 そこまで熱弁を振るっていた久留間が、とたんにしょぼんとする。


「だが、ここに来て、カスタマーハラスメントまがいのことを、平気でしてしまった。お前にも、申し訳ないことをしたな。是常、済まなかった」


 深々と久留間が頭を下げた。是常は笑顔を見せた。


「わかっているなら、いいんじゃないか?で、お前さんの情熱とやらは、消えちまったのか?」

「いいや?……ってまさか」


 久留間は、ハッとした。


「少し、お前の時間もらうぜ」

 是常は、すぐさまアポイントを取ると久留間を連れ出した。


 目指すは庁の長官室だった。

 そうして、神社本庁として、調査団が組まれ、そのトップに是常がついた。


 役職としては特別調査担当官だ。

 監査役として、久留間 慎一郎権禰宜が就いたというわけだ。


 その二人が、北海道神社庁へ乗り込んできたのだ。


 暴風が吹き荒れるのは自明の理であった。

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