会合
「あのさ、前、俺の練習試合見に来てたろ。そん時さ、俺が、あれだって気づいたか?」
満園 一樹が尋ねる。
植村 燈乃は、その唐突な物言いに、瞬間首を傾げた。
「あれって?あれってなによ」
「てか、イェレだって、俺のこと気づいたかよ」
燈乃は首をひねった。
「ううん。全然。あんたが、私の精神のツインだってわかったの、昨夜の夢だしね」
「そうなのか。俺もそうなんだ。だから、すげー実感がない」
二人同時に首を振った。
「精神のツインって、結局はなんなんだろうな。そこがわかんないうちに目が覚めちまってよ」
「あー。私もおんなじ。ほとんど同じタイミングで夢見てたら、気持ち悪くない?」
「だよなぁ。って、あんたと、俺。ほとんど話したことないはずだよな?なんかさっきから、普通に会話しちゃってるけど」
「あ。そうだった。なんか、そんなに気にしてなかったわ。こうやって話してるのが、ほんとに自然な感じがして。ごめん。嫌だったら、敬語とかにするけど」
「あ?敬語ってソッチのほうが気持ち悪いわ」
といって、一樹が笑った。つられて燈乃も笑う。
固唾を呑んで、端から見ていた弓達 吹雪をはじめ、楠浦 滉、岩室 亜結は崩れ落ちていた。
「もう、なんなの。普通に話してるんじゃない」
「あ?俺達が、拗れて喧嘩でもすると思ったのかよ」
「ごめん、そう思ってた」吹雪が答えた。
「だって、一樹、夢の話されるの嫌がってたから。植村さんに対しても、そんな態度取るんじゃないかって思った」
「取らねーよ」
「取らないよ」
燈乃と一樹、二人が同じタイミングまた笑った。
「ちょっと、二人同時で、同じ事言わないでくれる」そう言って、亜結が笑った。
「それよりも、飯だな。腹減っちまってよ」
一樹が教室に向かって歩いていく。
「あんた、待ちなさいよ」
自然に燈乃も一樹の後を追いかけていった。
*
海老塚 香那美は2-A、古久保 秀亮は2-Bの教室で──
そして、燈乃、一樹、滉、亜結、吹雪──
また、1-Aの教室で燈乃の弟の植村 仰が、一斉にとあるビジョンを見た。
──荒廃した巨大ビル群。
燃え盛る木々、苦しんで絶命した人々──
「なんだ、これ!」
各々が、絶叫すると──
場面はいつもの校舎の中だ。
視線が周囲から集まってくるが、それどころではない。
腐臭や、埃っぽさ、木々の焦げる匂い、燃えた木の倒れる音──
どこか、埃っぽさが口に残るような感覚もある。
亜結が咳き込んで、身を縮こませる。
「……いまの、なんだったの?」
「わからない……」
そこへ──
「お姉ちゃん!」
前世でも燈乃の弟、クリスティアンでもあった仰がなんとかなんとか、やってきた。
「仰!もしかして、あんたも見たの?いまの」
「お姉ちゃん達も、見たんだ……」
そして、香那美、秀亮も集まってきた。
「私まで、いまの見たわ。なんだったの?」と、香那美が聞いた。
「わからない……。なぁ。だれか、今みたいな映像って見たことあるか?」
秀亮が周りに尋ねた。
だが、それに答えられる人物は誰もいなかった。
*
昨日、秀亮が提案したように、土曜日昼過ぎに全員が2年C組の教室に集まってきた。
仰はヴェルデ・ガルダの一員ではないが、同じビジョンを見た仲間として、参加している。
そして、同じ夢をみているのだ。
……集まらない理由は、なかった。
翠月学園の土曜日の練習は、昼前には終わる。
通常であれば、個人練習をしたいところではあるが、この事態だ。
それよりも、しなければいけないことが差し迫っていることを誰しもが感じていた。
「海老塚さん。ブランクあんまり感じなかったね。さすがヴァルマ」
吹雪が気安く香那美に声をかけた。
「ヴァルマって、呼ばないでって、言うところなんでしょうけど。もういいわ。抵抗するだけ、意味がないことに気がついたもの」
ふ……と気の晴れたような笑みを浮かべると、
「あー、あんなに抵抗してた自分ってなんだったのって思っちゃう。弓達くんが言ってた、オスクは自分だっていうのもすごくわかるし」
「そうだね。僕もそう思うよ」
吹雪はうなずいた。
横から亜結が口を挟む。
「じゃあ、香那美ちゃんはもう、ヴァルマって呼んでも怒らないの?」
「だって、それも自分なんだもの。もう、抵抗しても無駄って感じ」
香那美と亜結は顔を見合わせて笑いあった。
「イェレ──満園くんはどうなんだ?夢はだいぶ進んだ?」
秀亮が問いかける。
「俺の方は、それほどでもないかもしれないな。吹雪によく話を聞くが、まだ、護衛出動の夢とかが多いし。終末の夢まではいってない。みんなはみているんだろう?自分の死ぬとこ」
一樹は、仲間を見渡した。
亜結、香那美、秀亮、滉、そして吹雪と仰がうなずいた。
「俺と植村が、まだ、か」
秀亮が自分の腕を組む。
「精神のツインだから、かな。覚醒が同じタイミングになるのは」
「そう、かもしれない。イェレは昔から、サナとのリンクがすごかったから」と吹雪。
燈乃は困ったように笑った。
「正直、私、まだ、サナである実感もないし、聖女でもないから今みたいにこうしてみんなで集まっても、役に立てるのかって悩んじゃう」
そして、吹っ切ったように笑う。
「でも、今、この世界がセイリュウだかって人にぐちゃぐちゃにされるんなら、黙ってられない。私にその力があるなら、戦うわ」
「さすが、サナだな」
「さすがの無鉄砲さ」
周りの仲間達は、それぞれうなずいた。
「なにそれ!褒めてるって言うより呆れてる?」
燈乃は言いながら笑った。
*
「とはいえ、件のセイリュウの居場所とか、わかんないよね。仰くんは、なにも感じなかった?」
吹雪が尋ねる。
「あ、はい。一度ものすごい変な気、みたいなものは感じたことがあったんですけど、それがセイリュウなのかもわかりませんし」
「うん。そっか。もしかしたら、それ、僕も感じたかも。なんか、すごく異質でどす黒くてヒリヒリした感じだった」
「あ、それです。多分。ホント気持ち悪かった」
「仰、いつの間にそんなの感じてたの?」燈乃が尋ねた。
「いつだったかは忘れちゃったけど。いつもみたいにヴァルッテリと料理してた時、だったかも」
「なんか、ほんと、みんなすごいなぁ」
燈乃はただただ感心するばかりだ。
「ほんと、出来たら、二度と会いたくない感じの奴。って、そういうわけにいかないんだよね」
亜結がため息をつきながら話す。
「やっぱり、強いか?ヤツは」
一樹が身を乗り出して聞く。亜結は、ひたすらにうなずいた。
「今でも、勝てない気がした。でも、あいつに勝たなきゃいけないんだよね。満園くん。今度、アタシと手合わせしてよ。アタシもなまっちゃうから」
「ああ、いいぜ。けど、俺も大会前だから、お手柔らかに頼むぜ」
「あ、僕も鍛えたいんだけど、なにしたらいい?」
滉が一樹に尋ねた。
滉である、マウヌ自体は情報戦の達人であっても、剣技が優れているわけではない。
他の者の足を引っ張るわけにはいかないのだ。
その思いは、仰も一緒だった。
仰──クリスティアンは非戦闘員である。
剣をもって戦うのではなく、一般市民として命を落としている。
だが、ここに来て、戦わずにはいられない。
ましてや、前世とはいえ自分の兄だ。
なんとか決着を付けたくはあるだろう。
「滉さんがやるなら、僕も一緒に鍛えたいです。教えてください!」
燃えるような目で、一樹をみつめた。
「ああ、こちらこそ頼む。植村はどうする?参加するか?」
「ええ、出来たら。サナは剣士だったのでしょう?私も戦えるようにならないと」
一樹は、ゆっくりとうなずいた。
*
『ヴェルデ・ガルダの者たちよ──』
その時、全員の脳裏に耳ではなく頭の奥を爪で引っかくような男の声が響いた──
「なに?これ!」
燈乃も亜結も耳を抑えるが、声の響きは止まらない。
『お前たちは、我をどうするか相談しているのだろう』
「なに……?セイリュウ」
吹雪が、頭が割れるほどの痛みに耐えるようにしっかりと立ち上がった。
『ほお、お前は我がわかるのか。褒めてやろう』
「褒められても、嬉しくないね」
『お前たち、この世界はどんなもので出来ているのか、知っているのか』
それぞれの脳裏にセイリュウの顔が写っている。赤い唇が邪悪に歪む。
『巨悪と、欺瞞だ。それよりも醜いもの、嘘だ。人々は、嘘をついて生きている。その人間たちをお前達は命をかけて、我と対峙しようというのか?面白いな』
香那美がイメージで作ったその矢を引き絞る。セイリュウは、鋼のように光る剣で叩き落とした。
『ふん。まだまだ、お前達はこれほどの力しかないのか。これでは、我を倒すことなど出来はしない』
と、邪悪な笑みを深くする。
『よいか、力というのは、こう使うのだ』
念話に加えて、ある平和な牧歌的な町の様子が映し出された。
日本では、ないだろう。どこか、ヨーロッパのそれだ。
変哲もないその町のあちこちの家々が、突如として燃え上がった。
同時にである。
屋内から体中に火のついた人々が屋外に逃げ出てきた。
骨が軋む音が満ち、辺りは叫び声でいっぱいになった。
そして──、屋外に出てきた人々は、その瞬間に倒れ、二度と立ち上がることはなかった。
『どうだ。お前達。我を止められるか?』
セイリュウは、心底楽しい顔を貼り付けて
『楽しみにしている』
そして、念話が切れた。
「……な、に……いまの……」
燈乃が震えながら、床に座り込んだ。
「セイリュウ、こんな事してくるんだ。面白いね。それにしても、禍々しいったらありゃしない」
亜結は二度目の対峙だ。
それなりに免疫があるのか、唯一飄々としている。
「あれが、セイリュウよ。アタシたちの敵」
「……ああ、僕達は、あいつと戦わなきゃいけないんだな」
アウノ──秀亮が次に立ち直った。さすがは、ヴェルデ・ガルダのリーダーである。
「燃やされた、町はどうなるんだろう……調べてみるよ」マウヌ──滉が請け負う。
「あいつが、俺達の敵、なのか」
イェレ──一樹が舌なめずりをした。標的が決まった時に、イェレがよくやっていた癖だ。
それを見たオスク──吹雪が、ホッとした顔で一樹の方を向いた。
「いまの私じゃ、本当に刃が立たないのね」
唯一セイリュウへ攻撃を仕掛けたヴァルマ──香那美が落ち込んでいる。
「私も鍛錬頑張るわ!」その次の瞬間、顔をしっかりと上げた。
「あんなのを野放しに出来ない」
誰しもがうなずいたその時、燈乃だけがうつむき震えていた──
その、心にあったのは恐怖だけであった。




