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ヴェルデ・ガルダ〜緑の戦士たち  作者: 石井はっ花


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生徒指導室

 今日も岩室(いわむろ) 亜結(あゆ)は、海老塚(えびつか) 香那美(かなみ)と話をするだけに、時間を費やしていた。


 とはいえ、亜結は直情径行のある性格である。ひたすらアタックしていれば、そのうち、香那美が心を開いて話をしてくれるだろうと思っての行動だった。


 その行動は。香那美のとある行動へと導いてしまった。


 香那美が同級生から聞いた方法というのが、それだった。

 保健室に備えてある投書箱に、クラスと名前を紙に書いてそこに入れるというものだった。


 亜結にこれ以上付きまとわれるのが、嫌だった香那美はその方法に飛びついた。


 おそらくは、保健室の先生か誰かが、亜結の素行などを判断して、今よりももっときつい注意をしてくれるくらいだと思ったのだ。


 だって。何度断っても伝わらないし、ちょっと怖くなってきた……。

 だから、香那美は放課後に保健室に行き、名前を書いた。


 そして、投書箱に亜結の名前が入れられた。


 *


 その日の夜遅く。


 Zaphrex(ザフラックス)社の北海道日高プラントの特別対応班が動き出した。

 彼らの役割は、顕著な事例が現れた様々な対象者のデータを精査し、水準以上の対象者であれば、即座に対応をしに行くというものだった。


 今回ピックアップされたのは、女生徒だ。


 特別対応班のリーダーは、翠月学園の健康診断のデータをその係に出させた。

「……ほほぉ、この数値は特筆すべきものだな。良い数値だ。アルファに近しい。うむ、十七歳でこの数値……国家的資源だな」


「そうですね、この数値を出せるものが、こうして埋もれていたなんて。宝の持ち腐れですね」

「うむ。だが、このプラントであれば、この数値を100倍にも1000倍にも跳ね上げられる。よし」


 リーダーが、後ろに控えている捕獲係に合図した。


「本日は、この女生徒をお連れしろ。例のスクールバス用意しておけ。カモフラージュは教育委員会名義だ」

 捕獲係は、頷いて数名が動いた。


 *


「二年C組 岩室 亜結さん 二年C組 岩室 亜結さん 生徒指導室へ来てください」

 亜結は、いつもの通り香那美を追いかけて声をかけていた。


 時間は三時間目に入る前の休み時間だ。

 それを聞いた香那美は、亜結に言った。


「……ねえ、私なんか構ってないで、生徒指導室呼ばれてるよ。行ったほうがいいんじゃない?」


「あ!ようやく、話してくれた!うん!ありがとう!戻ってきたら、話したいこといっぱいあるの。あとで話そうね!」


 亜結は、本当に嬉しそうに笑いながらそう言うと同じ階の生徒指導室に向かった。

 香那美は見るともなしに、亜結が廊下の先を曲がるまで、見送っていた。


 *


 教室に戻った香那美は、

「ねえ、さっきの放送聞いた?とうとう二年の子もアレの対象になったみたいね」と同級生から話しかけられた。


「アレって、なによ」

「んー。三時間目の生徒指導室って聞いた事ない?生徒指導室にこの時間に向かった生徒は帰ってこなくなるって噂。まぁ、あくまで噂なんだけど」


「え?」

「だからー。なんかね。先生にも聞いたんだけど、この時間って、ただの授業の切り替わりってだけじゃん。だけど、たまに、生徒指導室に呼び出される放送が鳴るんだって先生たちは、誰も、呼び出ししてないんだって。でも、呼び出しがあってその後、生徒がいなくなるんだって」


 そこまで言うと同級生は、声をひそめた。

「でも、それ教えてくれた先生、先週いなくなっちゃったんだけど。ね。」

 後ろから、そう教えてくれた同級生を呼ぶ声がして、彼女は離れていった。


 香那美は、ざわつきを覚えた。


 まさか。そんなはずはない。


 香那美は、チャイムの音を背に、教室を飛び出した。

 “まさか”は、現実にあるかもしれない──そう思いながら。


 *


 亜結は、生徒指導室に向かっている。


 さっきは香那美が、ようやく声を返してくれた。

 亜結は飛び上がるような嬉しさを感じていた。


 生徒指導室かー。

 ……何を言われるんだろう。


 注意だけで済めばいいけど、先生たちがあんなに怖い顔してたの、見たことないんだよね。

 この頃、香那美にはつきまといすぎていたかもしれない。


 反省はしているのだ。


 けれども、セイリュウのことがある。

 亜結の記憶の中では、夢は既に最終局面を迎えているのだ。


 セイリュウの起こした非道。自分たちの非力さ。そして、命を失っていく仲間たち──

 今生では、もう、味わいたくなどないのだ。


 だから、夢に拒絶反応がある香那美をなんとか説得して、十分な戦力にしたかった。


 この地球で、セイリュウを野放しには出来ない。

 だから、亜結は焦って、何度も香那美に声をかけていたのだ。


 早く、力になってもらえるように。


 ──それにしても、生徒指導室かー。

 なんか、大目玉を食らいそう。


 怒られるとしたら、藍場先生か重光先生かなぁ。三時間目、潰れちゃいそう……。

 幾分しょぼんとして、生徒指導室の引き戸に手をかけ──


 *


 香那美はチャイムの鳴る廊下を走った。

 途中、教室へ向かっている先生たちから、注意を受けてはいたが、そんなことなど構いはしなかった。


 それよりも、自分が書いた”保健室への投書”のせいで亜結がその標的になるなんて、考えたくはなかった。


 香那美がようやく、生徒指導室の引き戸を開けようとした時──

 弓道部顧問の加賀谷(かがたに) 泰尚(やすひさ)から声をかけられた。


 無視、なぞできるわけもなかった。


「おい、海老塚。お前、授業はどうしたんだ」

「……加賀谷先生」


「サボりか?部活は、まあ、いいとして。って決して良くはないんだけども」

 苦笑して続ける。


「授業だけはしっかり受けないとな。なんか悩んでることあるなら、先生、なんぼでも話聞いてやるからな」

「悩んでること、言っても、先生にはわかってもらえないかも」


 香那美は俯いた。


「ううん。そうか……。でもな、話すだけでも、考えていることが自分の中でまとまって、それでだいぶ楽になるんだぞ。先生もそれで強くなったこと、あるからな」

「……そうなんですか」

「うん。先生だって伊達に年取ってないからな」


 そう言って、加賀谷は笑った。つられて、香那美も笑顔になった。


 負けそうな試合の時も、どうしてか、この加賀谷の笑顔で励まされて、集中力を取り戻し、勝てたということがあった。

 弓道部の中では、お守りの加賀谷と言われているくらいだ。


 さっきまでの不安感が落ち着いた香那美だったが、当初の目的をつい、忘れそうになっていた。


 亜結を追いかけて、生徒指導室まで来たのだ。

 加賀谷が驚くのも構わずに、生徒指導室の引き戸を開けた。


 だが、そこにはもう誰もいなかった。


 床にポツリと2-Cのクラス章だけが落ちていた。


「おいおい、海老塚。サボるなら、生徒指導室はないだろう」と加賀谷は笑った。

「先生!友達が」


 そこまで、香那美が言って、自分の口から”友達”という単語が出てきたのに驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。


「いや、あの、”友達”が、さっき生徒指導室に呼ばれて、用事があったので、追いかけてきたんですけど、もういないんです。どこに行ったか、知りませんか?」

 加賀谷は首を大きくひねった。


「ああ、さっきの放送か。別の教室に移ったんじゃないか?誰かいたことは確かなのか?」

「わかりません……、でも、その子、ここに来たのは間違いないと思うんです。その後、私もすぐにここに来たから」

「そうか?うーん。だとしたら、また、どっかから戻ってくるんじゃないか?」


 その時、加賀谷の持っていたスマートフォンが鳴った。

 香那美は、先生はいつもスマホを持てていいなと思った。


 香那美は頭を振ると、誰もいない生徒指導室に向かった。


 中に入ってもやはり誰もいない。


 奇妙だった。


 チャイムが鳴るまで、鳴ってから、加賀谷に話しかけられてから、

 たぶんだが、香那美以外は出入りがないと思う。


 けれども、もう誰もいない。


「亜結……?亜結ちゃん……!」

 香那美は呼びかけても、静寂が返ってくるだけだ。


 香那美は、その場でへたり込んだ。


 これで、亜結が帰ってこなかったら──自分のせいだ……。


「おい!海老塚!」

 香那美は、目の奥がじわじわと熱くなって、呼吸がうまくできなかった。


 胸の奥が重くて、ただ静かにその場にうずくまった。


 *


 亜結の意識は、全身を駆け巡った痛みで呼び起こされた。

 慌てて起き上がろうとしても、手足、首元全てに取り付けられた拘束具のせいで起き上がることなど出来ない。


 そこへさらなる痛みが走る──


「被験者5238。眼を覚ましたようです。──実験を続けます」


 また、今度はさっきよりも強く、全身が跳ね上がる。

 声をあげたいが、猿轡というものだろうか、口にはめ込まれて唸り声しか出てこない。


 頭は、何かの装置のせいで自由に上げることもままならなかった。


「おお、先程よりも良い数値が上がってますね」

「うむ。さすがにアルファに準ずるいい被検体だ。──このまま、実験を続けよう」


 痛みが波のように、際限なく押し寄せてくる。

 耐えられなくなった亜結の意識は、また彼方に落ちていった。


 *


「シルカ!何してんだ、こんなとこで」

 シルカが目を上げると、澄んだ水辺が見えた。


 ああ、いつもの夢だ。亜結の意識は、そう認識した。

 水辺の水はどこまでも透明で、サラサラと音を立てて流れていく。


 空気も冷涼で爽やかだった。ただ一人シルカだけが雨模様だ。


「アウノ……なんでも、ないよ……」

「ふふ。嘘が下手だな、シルカは。イェレにこっぴどく怒られたんだろ」


「イェレは悪くない!……悪いのは、足を引っ張っちゃう、アタシだから」

「確かに、イェレは強い。ソードマスターだしな。でも、シルカ、お前もヴェルデ・ガルダの一員だ。お前自身だってかなり強いんだぞ」


 アウノは、上空を見上げてから、シルカに視線を戻した。


「俺、慰めるの下手でゴメンな。けども、俺だって、サナだって、お前が後方守ってることを心強く思ってる。お前がいてくれるから、ヴァルマもオスクも支援に集中できてるんだぞ」

 泣き顔のシルカは、また新しく涙を落とした。


 しかし、その涙は、アウノが来る前の涙とは違っていた。

「アタシ、ずっと、皆の足を引っ張ってるんじゃないかって。だから、イェレにあんなに怒られるんだって思って……」

「イェレにも、言っとくわ。口悪いの治せってな」


 アウノは苦笑して言う。


「シルカ、お前のことは皆、イェレもな。頼りにしてんだ。お前の機動力と反射誰にも真似できないんだぞ」

 シルカは安心したように笑った。


 ──意識は、また亜結に戻る。そして、身動きもできない中、耐え難い体中の痛みを感じていた。

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