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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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歴史物、和風 短編

ある翁の懺悔

作者: 鴨ロース
掲載日:2025/10/11

読後感の悪い作品だと理解しておりますので、苦手な方はおもどりください。


数多ある作品からこちらに立ち寄り頂きありがとうございます。


村長様


このような書き付けを残し、大変なご迷惑をおかけいたしますこと、まずはお詫び申し上げます。何卒、お許しください。


全ての始まりは、あの満月の夜でした。老いらくの恋の過ちか、天のいたずらか、私とばあさんはこの歳で子宝を授かりました。


村の方々が「恥かき子じゃ」「どこぞから攫ってきたのでは」と陰口を叩く中、ばあさんはただひたすらに耐え、授かった命を慈しんでおりました。


そうして生まれた我らが宝、太郎は、達者な子に育ちました。


しかし、あまりに達者すぎたのかもしれませぬ。


家の芝刈り、粉挽き、洗濯の一つも手伝わず、日がな一日、山野を獣のように駆け回るか、縁側で寝転がるばかり。


口を開けば「いつか都で一旗揚げ、天下に名を轟かせる」と、汗もかかぬうちから実りだけを求める始末。


その姿に、村の方々が「甘やかすから、あのような手に負えぬ野生児に育つ」と、私たちへ投げかける視線は、日に日に冷たくなってゆきました。ばあさんの背中が、また少し小さくなったように見えたものです。


そしてある日、太郎は幾ばくかのきび団子を懐に、ふらりと家を出ていきました。それから数年、便りのない日々が続きました。


私たちは、あの子はもうこの世にいないのだと、そう思うことで、ばあさんの心を慰め、穏やかな日々を取り戻そうとしておりました。


しかし、悪夢は、希望の姿をして舞い戻ってまいりました。


「ただいま! 俺は鬼を退治し、日本一になったぞ!」


そう言って、目も眩むほどの財宝を携え、息子が意気揚々と帰ってきたのです。

あの時、一瞬でも喜んでしまった愚かな自分を、今でも呪わずにはいられません。


その晩のことです。祝いの酒に酔った息子が語り出した武勇伝は、人の口から語られるべきものではございませんでした。


都で腕っぷしの強い若者どもを従え、愚連隊を組んだこと。


都で「鬼ヶ島」と噂されていた、山奥でただ実直に鉄を打つ「たたら職人」たちの隠れ里を襲撃したこと。


抵抗する者たちを容赦なく打ちのめし、女子供の嘆きを背に、財産を根こそぎ奪い去ったこと。


それを、息子は、さも大手柄のように、顔を赤らめながら語るのでございます。

私たちの目の前にいたのは、日本一の英雄などではない。

人の道を踏み外した、まことの悪鬼羅刹そのものでした。


話の半ばで、ばあさんは声もなく卒倒し、そのまま床に伏してしまいました。


罪人の母というあまりに重い荷を、あの優しい人が背負えるはずもございませんでした。


その日を境に、ばあさんの心の灯は、静かに消えてしまったのです。


獣を育てたのは、我々でございます。

ならば、その始末をつけるのも、親の務め。


酔い潰れて眠る息子の首筋へ、私がこの手で、愛用の草刈鎌を振り下ろしました。


もはや人の形をした抜け殻のようになってしまったばあさんも、これ以上苦しませるわけにはまいりませぬ。眠るように、一太刀で。


村長様。


まことに、まことに、面目次第もございません。

どうか、この後の始末、よしなにお取り計らいくださいますよう、伏してお願い申し上げます。


ここに積まれた財宝は、どうかかの「鬼ヶ島」、たたら集落の方々へお返しください。我々には、一片たりとも持つ資格はございません。


長々と書き連ね、申し訳ございません。

これにて、筆を置きます。



一家心中の凄惨な現場で発見された村長宛ての書き置きより。

あるおとぎ話に、いろんなパターンがあるんだなと知り、翁の立場からどう見えたのかなという思いつきベースの物語です。


拙作を最後までお読み頂きありがとうございます。

ありがとうございました。

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