5話 事情聴取 その1
放課後、自宅にて。
後輩とモニターの前で並んで対戦ゲームをしてると、画面を見つめたまま後輩が尋ねてくる。
「そういえばルキ兄は?」
「あいつならラブレター貰ったとかで、断りの返事をしに行ったぞ」
「ルキ兄は真面目だなぁー」
後輩は画面から視線を動かさずに続ける。
「興味ない人なら無視しちゃえばいいのに」
それは酷いだろ。
そう言いかけたが、考えてみれば告白される側は勝手に呼び出されて、勝手に思いを告げられるのだ。
応じない。それも1つの選択肢としては正しい気がする。
「お前もラブレターとか貰うのか?」
「まぁーねー」
「どれくらい貰ってるんだ?」
尋ねると、後輩は小悪魔のような笑みを浮かべてオレを見る。
「な〜に、せんぱい〜。気になるの〜?」
「……今日の晩飯の次くらいには」
「今日の晩ごはんはコロッケらしいですよ? 楽しみですね!」
「……また食っていく気か」
「ごちになります〜」
「はぁ…」
……憂鬱だ。
また母親に『レナちゃんみたいな素敵な子がお嫁さんに来てくれたらね〜』と茶化される地獄の時間を耐え抜かなければならないのか。
何を隠そう、うちの母親は典型的な思春期息子キラーなのだ。
後輩はコントローラーから左手を離してピースする。
「今日は2通ラブレター貰いました〜」
「ふーん」
……デジタルな時代に恋文とは、よくやるな。
「メッセなら今日だけで8人に告られちゃいましたけど」
「……これだから美男美女は」
これが生まれながらの格差。
そう。
この世界は理不尽で構成されているのだ。
すると、後輩が手を止めてオレに尋ねてくる。
「せ、先輩だって、モテるみたいじゃないですか……?」
「オレが?」
後輩が何を言っているのか理解できない。
「今までの人生でそんな甘い経験をした覚えはないんだが」
「あの巨乳ちゃんとは、どうなんですか……?」
あの巨乳ちゃん。
オレの周りにいるそんな特徴を持っている人は限られている。
「紗世ちゃんのことか?」
「さ、紗世ちゃん……⁉︎」
「なんだよ、その『母親に熟女モノのエロ本を見つけられたとき』のような反応は」
「……何ですかその喩え。掠ってもないですよ」
マジか。
「へ、へぇー先輩って、あの巨乳ちゃんのこと『ちゃん』付けで呼んでるんですね」
「まぁ、この年でちゃん付けは少し気恥ずかしいけど、昔からそう呼んでるしな。今更変えるのも変だろ」
「……昔って、どれくらい昔なんですか?」
「幼稚園くらいからじゃないか。あんま覚えてないけど」
「ふ、ふーん」
「なんだよ、さっきから……」
今日の後輩はどこか変だ。
「先輩」
「ん?」
「あたし『レナ』っていいます」
「知ってるぞー後輩ー」
隣を見ると、後輩が何故か頬を膨らませていた。
「先輩、踏んであげるので横になってください」
「……いやだよ」
なに怒ってるんだ。
訳がわからん。
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