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31話 ミナ・シュナイツ

*この話は主人公の視点ではなく、ミナ・シュナイツ視点です。


 転校してきて三ヶ月が経ち、私の学校生活は以前のような形を取り戻しつつあった。


 昼休みになると、クラスメイトの男子たちがこぞって私の元にやってくる。


「ミナちゃん、お昼行こうよ! 前に日直手伝ってもらったお礼に、学食で奢るからさ」

「オレもいいか? この前ミナに教えてもらったおすすめの映画の感想を言いたいし」

「あ、僕も僕も! ミナちゃんとご飯食べたいっ!」

「俺も」「じゃあオレも」「僕も」


「そうだね。じゃあみんなで行こっか」


 騒がしい私の学校生活。


 ……けれど、私の周りにいるのは男子だけ。


「先に行ってて。私お手洗いに行ってくるから」

「おう、じゃあ待ってるぜ」


 男子たちが教室を出ていく。


『……今日もお盛んね』

『……お姫様気取り? やだやだ浅ましい』

『……恥ずかしくないのかしら』


 クラスメイトの女子たちが小声で、ただし聞こえるくらいの声量でそんなことを言う。

 転校してきた時は友好的だったけど、いつの間にかこんな感じになっていた。これも以前の学校と全く同じだ。


 私は間違いなく異性にモテる。

 けれど、何故か同性の友達ができづらい。


 ……昔はそんな事なかったんだけどな。


 ***


 自分でいうのもなんだけど、私は結構な人気者だと思う。

 男子に限って言えば、同級生に限らず後輩や先輩とも交流があるし、教師たちからもよくしてもらっていると思う。

 ざっくり言ってしまうと、おおよそ半分の人には好かれている。


 そんな私の他にも、この学校にはもう1人の人気者がいる。

 その人は同じ学年の女子で、交流はないけど、人伝でよく聞くからその人の事はよく知っている。


 彼女の名前は、善光寺紗世。


 可愛らしい容姿に加えて、人当たりがよく、気配りが上手いらしい。

 そしてなんと言っても──あの規格外の胸! 

 一体、何を食べたらあんなものが出来上がるの? 同性の私でも、あの胸に飛び込んでみたいって衝動に駆られたわよ。


 そして胸の他にも、私と彼女には決定的に違うところがある。


 ──彼女は、万人に好かれる。


 彼女の周りには、常に性別問わず多くの人がいる。

 殆どの人に好かれる人。それが善光寺さんだ。


 私と彼女の何が違うんだろ?

 私だって人当たりいいと思うし、気配りだってちゃんとしている。


 けれど、何故か毎回、同性に嫌われてしまう。


 ***


 放課後。

 先生に頼まれ事をされて帰宅が遅くなってしまった。

 窓の外を見ると、既に辺りは赤くなっている。

 私は荷物を取るために自分の教室に戻った。


『ぶっちゃけ。ミナちゃんと善光寺さん。どっちがタイプよ?』


 教室のドアを開けようとした寸前、中からそんな声が聞こえきた。


「……」


 ……私の話題。

 さっさと荷物を取って帰りたいのに、これじゃ教室に入りずらい。


『俺はミナちゃんかな。ハーフだぜハーフ! やっぱり顔っしょ』


 ……聞き覚えのある声だ。多分、今日お昼ご飯を食べた時も一緒にいた権田くんと藤本くんだと思う。


「顔なら善光寺さんだっていいだろ。それに善光寺さんおっぱいでかいし。ふへへ」


 ……下品な会話になってきた。


「まぁ確かにミナちゃんはちっぱいだわな」


 なにをぉ。


「でもそれが逆にいいっていうか」

「なにお前、貧乳派?」

「いや巨乳派」


 巨乳派なんかい!


『でもさ。この前ミナちゃんのブラウスが少し透けてて見えたんだけど、ミナちゃん、ブラつけてんのよ』

『そりゃ中学生なんだしつけてんだろうよ。で、何色?』

『水色。いや、そういうことじゃなくてよ。ミナちゃんみたいなちっぱい持ちがブラつける意味なんてないだろ? なのに見栄張ってつけてる。それってなんかめっちゃ興奮しないか?』

『……。するな』


「……ッ」


 ……き、気持ワルイ。


 分かっていた。相手は異性だ。そういう目で見られることだってあるんだって。

 それでもやっぱり、嫌悪してしまう。


 同性からは嫌気され、異性からはそういう目で見られる。

 私の周りには常に男子がいて、私は賑やかな学校生活を送っている。

 けれど、それを不服に思っている。

 これって、欲張りなのかな?


『でもやっぱり俺はデカい方が好きかな。知ってるか? 善光寺さんのおっぱいって──』


 そのとき、教室の扉が開いた。

 私が開けたわけじゃない。

 いつの間にか私の側にいた人が、開けたのだ。


 その人は長い黒髪に、凛とした雰囲気が特徴的な女子生徒。

 彼女の名前は、天峰朝。


 天峰さんは私の前に立つと、教室に残る男子たちに冷たい声で言う。



「もう下校時刻よ。早く帰りなさい」

「あ、う、うん……」

「わ、分かった……」


 男子たちはすぐさまもう一つの扉から教室を出て行った。

 よほど急いでいたのか、廊下にいる私には気づいていなかった。

 

 天峰さんと二人きりになる。


 一度も面識がないなら、少し緊張する。


 一応、天峰さんも、この学校ではれっきとした有名人だ。

 ただし、悪い意味で。


 私が半分、善光寺さんが全員に好かれるなら、天峰さんは殆ど全員に嫌われている人。


 人から聞くに、天峰さんは目つきが鋭く、人を近寄らせない雰囲気を放っていて、人へのあたりがキツいらしい。


 ……確かに、こうして対面してみて、天峰さんは近寄りがたい雰囲気を持っていると思う。

 けど……


「あ、ありがとう……」


 天峰さんは評判が悪い人だ。けど、私のために行動してくれた。私は、言うほど悪い人じゃないと思う。

 

「……」


 私が感謝を伝えると、天峰さんは私をじっと見る。

 そして何故か首を傾げた。


「あなた、名前は?」

「え、」


 てっきり私は同学年全員には認知されていると思っていたので、少し驚いてしまう。


「ミナ・シュナイツです」

「……シュナイツ。なるほどね」


 何がなるほどなのかは、分からないけど、彼女の中で何を納得したようだ。


「シュナイツさん。もう下校時刻よ。直ちに帰りなさい」


 そう言い残して、天峰さんは立ち去った。


「……」


 それにも天峰さんのあの冷たい目……。


 なんとなく、あの人に似ている気がした。


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