26話 限界学習
一学期の期末試験が迫っているため、学校が終わったオレは、早々に帰宅して勉強をする。
ここ数日、ゲームをやっていない。やりたい気持ちを抑えて、テーブルに向かっている。
成績を落とすわけにはいかないので、ここが我慢のし所だろう。
内心でそんな葛藤をしていると、向かい側に座っている後輩が頭をわしゃわしゃとし始めた。
「先輩〜! もう勉強イヤです〜‼︎」
何故テスト期間だというのに、オレがこの生意気な後輩と一緒にいるのかというと、それは後輩に、勉強を教えて欲しいと頼まれたからである。
今回の期末試験で赤点を取った生徒は、夏休み中に補習授業が組まれるという。それは絶対に避けたいらしい。
後輩はテーブルの下で自分の足をオレの脚の上にのせてくる。
「先輩〜、暗○パン出してくださいよ〜」
「あれって確か排泄すると、全部リセットされるんじゃなかったか? まぁ、便秘気味ならワンチャンあるか」
「……先輩、それセクハラです」
「え、セクハラか? ……あぁセクハラかすまん」
「先輩がいつにも増しておかしくなってるっ‼︎」
勉強がイヤ。その気持ちはオレにも痛いほどよくわかる。オレも教科書やペンをさっさと爆破して、気兼ねなくゲームをしたいものだ。
すると、後輩が四つん這いなってゲーム機に手を伸ばした。
「そんなに勉強ばかりやってても効率悪いですよ? たまには息抜きにゲームでも……て、あれ?」
後輩電源ボタンを何度も押す。
しかし一向に起動しない。
「……あぁ、ゲームならできないぞ」
「できない?」
オレの言葉に、後輩は首を傾げる。
「どういうことですか?」
仕方なくオレはペンを止めて、後輩に視線を向けた。
「──ゲーム機のケーブルを全て、北海道の祖父母の家に郵送したから、ゲームはできないぞ?」
「……え、」
後輩が一瞬固まった。
「な、なんでそんな事を……?」
「なんでって……」
そんなの決まっているだろ。
「そうしないと──勉強ができないだろ?」
そう言ってオレはペンを再び高速で走らせた。
そんなオレがどんなふうに映ったのかは知らないが、後輩は静かに席に着いて自分の勉強を再開した。
……あぁ、寝不足で瞼や肩が重い。
さっき鏡を見た時なんて、大きなクマができていて、何故かそれを面白いと思って、1人で笑ってしまったぞ。
勉強は嫌いだ。
けれど、苦痛には感じない。
過去に一度、オレは成績を大幅に落としたことがある。
原因はテスト前に発売したゲームをやり込み、勉強を疎かにしたためだ。
その結果、親に、持っているゲーム機全てをメル○リに出品され、得た金で学習塾に放り込まれた。
当然、しばらくの間、ゲームはできなかった。
……あの時の地獄のような日々に比べれば、こんなものは苦痛の内にはいらない。
***
勉強を再開した後輩たが、それでも限界がきたようで、頭をオーバーヒートさせて、机の上に突っ伏した。
「先輩……」
「……なんだ?」
「モチベーションをください」
「……」
モチベーション、ね。
「赤点回避したら、100円やる」
「……あたしの頑張りって100円程度なんですか〜」
「オレ的には」
「……先輩のバカちんちん」
「それ、セクハラだぞ」
「え、セクハラ? あぁそうですね。セクハラですねごめんなさい」
ついに後輩がガラにもなく、寒い下ネタを言い始めた。
相当限界が来ているようだ。
「じゃあ、何して欲しいんだ?」
「……そうですね」
そんな後輩は少しの間、考える。
「じゃあ、海に連れていってください」
「……電車賃はオレもちってことか?」
「プラス焼きそばとコーラとかき氷も先輩もちです」
ご褒美というより、たかられているだけな気がする。
「……オレのモチベーションが下がりそうだ」
「そうでもないかもしれませんよ?」
「?」
そう言うと、後輩は身をのりだし、オレの耳元で囁いた。
「あたしの新しい水着で先輩を悩殺させてあげます……」
弱った後輩の声だからか、いつものよう小悪魔成分は少なめだった。その代わり、その声には大人びた色気のようなものを感じた気がした。
「……」
水着?
あぁ、水着か。おっけーおっけー水着ね。
水着……水着……あれ……水着って、なんだっけ?
お水様が着る服だっけ?
オレもかなり限界に来ていた。




