25話 二度染め
朝。
リビングに足を運ぶと、妹とでくわした。
「──死ね」
そう言って、妹はオレの横を通り抜けて玄関に向かう。
いつものことだ。
けれど、靴を履く妹に、オレは後ろから声をかける。
「朝、おはよう」
「……」
靴を履き終えると、妹はそのまま扉を開けて家を出て行った。
返事はなかった。
「まぁ、そうだよな」
***
通学路を歩いていると、声をかけられた。
「おはようございます、お兄さん」
紗世ちゃんだ。
最近はこの道でよく紗世ちゃんと出くわす気がする。
もしかして……いや考えすぎたか。妄想が過ぎるな。我ながら気持ち悪い。
紗世ちゃんと並んで歩く。
「朝ちゃんとはどうですか?」
オレと紗世ちゃんの共通点を考えれば当たり前のことだが、紗夜ちゃんの口からまず出てきたのは妹のことだった。
「特に変わらないな。今朝もいつも通りだった」
「そう、ですか……」
オレはてっきり悪化してしまったと思ったが、そんな事はなかった。
もっとも、悪化するような余地すらオレたちにはないのかもしれないが。
すると、紗世ちゃんはオレの左手を両手で握る。
「お兄さん、次ですよ!」
「次?」
「はい! 友達から水族館のチケットをいただいたんです。これで朝ちゃんを誘って水族館に──」
「あぁ、そのことなんだが」
「──っ」
オレは紗世ちゃんの手を丁寧に引き離す。
「オレはもう何もしない事にしたんだ」
「え、」
紗世ちゃんは一瞬停止する。
「すまんな。紗世ちゃんには色々協力してもらったのに」
「い、いえ、それはいいのですが……でもどうしてですか? お兄さんは朝ちゃんと仲直りできなくてもいいんですか?」
「そういう訳ではないんだが……」
オレは紗世ちゃんに納得してもらえる言葉を探す。
「それは地道にやっていくことにするよ。無理にやってもあいつは嫌がるだろうからな」
「……」
そのとき、紗世ちゃんが何故か立ち止まった。
振り返ると、紗世ちゃんはじっとこちらを見ている。その目には色がなく、一瞬怒っているようにも見えた。
「お兄さん、最近何かありました?」
「最近?」
突然どうしたのだろうか?
しかしそうだな。
何かあったかと聞かれて思い当たることは一つしかない。
「昨日発売したゲームにハマってる、かな?」
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この話で一区切りとなります。
次回からは新章になりますので、引き続きよろしくお願いいたします。




