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12話 Birthday Present for My Sister その3


 6月10日は、妹の誕生日である。

 その日にオレは妹にプレゼントを渡すと、紗世ちゃんと約束した。


 しかし何を渡せばいいか分からない。妹の誕生日まで一週間以上はあるが、方針は何も決まっていない。

 当然のことだが、相手が喜んでくれるものが望ましい。

 しかしオレがよく知るのは、小学生までの妹で、中学生3年の現在の妹のことは何一つ知らない。


 そんな体たらくでまともなプレゼント選びが出来るわけがない。


 そこで、次の休日に紗世ちゃんとプレゼントを買いに行く事になった。

 おそらく今の妹のことを誰よりもよく知っているだろう。

 本当に助かる。


「先輩…」

「……」

「先輩…」

「……」

「先輩!」

「ん? なんだ?」


 呼ばれてオレは隣に視線を送る。

 現在は下校中。

 隣には後輩が並んで歩いている。


 後輩は綺麗な青い瞳の目を細めて言う。


「あたしの話、聞いてました?」

「あぁ、○○党の〇○○〇が実は、×××ってカミングアウトした話だろ?」

「……そんな危ない話、してませんよ」


 後輩はオレの前に立ち塞がって言う。


「考え事ですか?」

「まぁそんなところだ」

「何か悩み事があるならあたし聞きますよ?」

「実はな……今日の風呂は頭と体どっちから先に洗えばいいか悩ましくて」

「……とりあえず頭の汚れから先に落とした方がいいじゃないですか。先天性ならどうしようもないですけど」

「そうだな。そうしよう」


 前を見ると、後輩は頬を膨らませていた。


「む、先輩のくせに隠し事なんて生意気ですね」


 やはりバレていたか。

 けれど、これはオレと妹の問題だ。わざわざ後輩に話すこともないだろう。

 しかし、ぼかして聞いてみるのは、いいかもしれない。


「なぁ、プレゼント貰うなら何がいい?」

「え──」


 後輩の表情が停止する。

 そして何故か俯く。


「そ、それって、あたしに、ってことですか……?」

「あー」


 そうなるのか。


「いつも世話になっている(……かは微妙なところだが)お前に日頃の感謝を伝えたいと思ってな」

「先輩が心の綺麗な人みたいなこと言ってる……⁉︎」


 分かってはいたが、失礼なやつだな。


「ふーん。そうですかー。先輩はあたしにプレゼント贈りたいんですね。ふーん」


 ……何故わざわざ口にするのだろうか。


 後輩とオレは再び並んで歩き出す。


「でも先輩〜。プレゼントを渡す相手に何がいいか聞くなんて実にナンセンスですよ〜?」


 ……さっきから嬉しそうだな、こいつ。


「もちろん最終的には自分で選ぶつもりだ。ただ、プレゼント選びのコツを聞きたいというか」

「なるほど、そういう事ですか」


 後輩は考える。


「そうですね。プレゼントは心がこもっていれば何でもいいとは言いますけど、それは詭弁だとあたしは思ってます」

「ほう」

「例えば、心がこもったプレゼントがあります。でも中身はパンツでした。どうですか?」

「……キモいな。即お巡りさんコールもんだ」

「これは極端な例ですけど、やっぱりプレゼントには最低限のエチケットがあると思んです」

「なるほど」

「特に女性にプレゼントを贈るときは服やアクセサリー系は避けた方がいいです」

「なぜだ? ドラマではアクセサリーとか恋人によく送ってるだろ?」

「所詮はフィクションですよ。女性は自分が身につけるものは自分で決めたいものです。一緒に選ぶなら別ですけど、そうでないなら避けるべきかと」

「ほうほう」

「食べ物もあまりお勧めしません。関係性が薄い相手ならいいですけど、親しい女性にあげるなら、やっぱり残るものがいいと思います」

「確かにそうかもな」


 そこでオレは思いつく。


「ならゲーム──」

「もちろん、自分の趣味嗜好を押し付けるようなものなんて論外ですよ?」

「……そうだな」

「そういったエチケットさえ守ってもらえれば、あたしはなんでも嬉しいですっ!」


 後輩はそう言ってはにかむ。

 ……地味に要求してる事が厳しいんだよなぁ。


「それじゃあ先輩、プレゼント期待してますね!」

「あ、あぁ…」


 面倒な宿題を課されてしまった。


 ……とりあえず、妹のプレゼントと一緒に買っておくか。


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