10話 Birthday Present for My Sister その1
妹の友達、紗世ちゃんがうちにやってきた。
テストが終わったら、おすすめのゲームを教えるという約束をしていたということもあり、今日は一日、紗世ちゃんとゲームをする予定である。
懸念すべき我が妹は、母親と少し遠出しているため、夜まで帰ってこない。つまり、それまでこの天使をオレが占有できるという訳だ。
紗世ちゃんは靴を脱いで家に上がると、鞄から小さな紙袋を取り出して、前に差し出す。
「く、クッキー作ってきたのでよければ!」
思わず涙が出てしまう。
……最高だ。
オレはクッキーの入った紙袋を受け取って自室まで案内する。
紗世ちゃんは部屋の中に入ると、落ち着きがない様子で辺りを見渡した。
そういえば紗世ちゃんを部屋に入れたのは初めてだったか。
そんな紗世ちゃんにオレは声をかける。
「ベッドの上にでも座っていてくれ」
「は、はい!」
「飲み物持ってくるが、麦茶でいいか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
緊張しながらも、律儀に頭を下げる紗世ちゃん。
なんていい子だ。
ミチョを要求してくるどこかの後輩とは大違いだ。
オレは麦茶とお菓子をとりに、一階のキッチンに向かった。
そしてそれらを手に部屋に戻ると、そこには笑顔の紗世ちゃんがいた。
「お兄さん」
「?」
麦茶とお菓子を机の上に置くと、紗世ちゃんが笑顔で尋ねてくる。
「これ、何ですか?」
紗世ちゃんは一本の長い毛を摘んでオレに見せた。
「髪の毛だな」
「綺麗なブロンドですね」
「あ、あぁ…」
確かに綺麗だ。見ているだけで、艶やかなのがよく分かる。
「……レナがよくそこで寝転がっているからな」
「なるほど、そうなんですね」
そう言うと、紗世ちゃんはその髪の毛を近くのゴミ箱にぽいと捨てた。
これは紗世ちゃんが時折見せる擬似笑顔だ。表面上は笑顔だが、内側ではかなり怒っている状態。
紗世ちゃんが綺麗好きなのは知っていたが、髪の毛一本が落ちている程度でこのモードになってしまうのか?
……掃除、しておくべきだったか。
気を取り直して、オレはゲーム機の電源を付ける。
「紗世ちゃんにおすすめのゲームっていうのはこれなんだ」
オレはパッケージを紗世ちゃんに渡した。
「わぁ〜可愛いですね〜!」
そこには愛くるしいビジュアルの動物たちが描かれている。
そのゲームは動物たちとの生活を体験できる、いわゆるシュミレーションゲームだ。
動物好きな紗世ちゃんなら興味を示してくれると思っていた。
ソフトを起動した事を確認したオレは、コントローラーを紗世ちゃんに渡す。
名前やアバターなどの初期設定を済ませ、ゲームを始める。
このゲームに登場する動物は、ペット、家畜、野生動物の三つに大別される。
しかし家畜というと紗世ちゃんが引いてしまうかもしれないので、この場では『生活を助けてくれる動物さん』という事で説明を進める。
ネットでは、可愛らしいビジュアルの動物たちが登場するにもかかわらず、時折ブラックな要素が垣間見れるゲームシステムが、話題になっていた。
もっとも、深く考えなければ、普通に動物たちと仲良く生活するだけのゲームなので、おそらく紗世ちゃんも気にいることだろう。
始めは動物を貰うところから始まる。
まずはこの動物を元手に、自身の生活レベルを高めていくのだが、ここはあえて効率を追求するような助言をしないようにする。
オープンワールドの醍醐味は、何と言ってもその自由さだ。
紗世ちゃんには好きなようにプレイしてもらおう。




