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街と”ギルド”

 三度の野宿を経た、初めての一人旅。

上空からの落下以降は目立った危険もなく、終点の街が遠くに見えた。


 地方都市モルガ。

整備された道と大きな建物、何よりも人の数。

”のどかさ”一本槍の村とは大違いだ。

昔、父に手を引かれ一度だけ来たことがあるが、今はひとり、自らの意思で足を踏み入れる。

同行者は小さな緊張と大きな希望。



「わたしは田舎者じゃありませんよーっと」

できるだけキョロキョロしないように、胸を張り、堂々と歩くことを意識して進む。


―おっ、冒険者っぽいひと発見。

剣や盾などの装備、使い込まれた見た目の革鎧、野営の道具や戦利品が詰め込まれているのであろうザック。

いかにもな3人組を見つけた。


別に誰かに道を尋ねればよいだけなのだが、彼らの後をつけることにした。

―冒険者なら自助努力の精神が大事だからね、決して大きな街にビビッているとかじゃない。



 幸いにも彼らはまっすぐに思惑通りの目的地へ向かってくれた。

到着したのは周りよりも少し大きな建物。

表の大きな看板には【モルガ 冒険者ギルド】とある。

 さて、アニメやマンガの主人公たちはこういったシーンでは

「頼もうー!」なんていって意気揚々と入っていくものだ。


「……よし。」

重厚な木の扉を押し開ける。


「あ、こんにちはー……」

―挨拶は大事だから。



 ギルドの中、入ってすぐはロビーになっていた。

目の前には受付。

脇にはいくつかのテーブルと椅子、冒険者が2組。

休憩か、打合せか。

反対側の壁には掲示板のようなものが見える。

2人組が指差しながら何やら相談中だ。

無言の案内役になってもらった3人組は受付でカウンターの向こうにいる人と話し込んでいる様子だ。

向かって右隣、空いている受付には綺麗な髪を肩まで伸ばした、ぱっちりした目の女性が姿勢良く座っていた。

荒くれのような冒険者とは一味違う、礼儀正しい入室も見ていたのだろうか、

目が合うとニコリと微笑みかけられた。


 ひとつ咳払いをして受付へ。

「はじめまして!冒険者になりに来ました!」

受付の女性は少し目を細めた笑顔で書類を取り出した。


「承知いたしました。お名前を教えていただけますか?」

「アルドといいます!エイシ村から来ました!えーと……16です!」

「ありがとうございます」


スラスラと書類に書き込む、白くしなやかな指先につい目を奪われる。

村は余計だったか?美人は苦手だ、緊張する。

痒くもない頬をポリポリ。


「ここまではお一人で?」

慌てて視線を戻す。

「はいっフリーです!」


一瞬キョトンとした顔を見せた後、小さく笑ってくれた。

「それではギルドへの登録を進めますので、少しの間ロビーでお待ちください。」

いくばくかの登録料を支払い、一度受付を離れる。掲示板でも見てみようか。



 受付から見て右側の壁には大きな掲示板がふたつ打ち付けられていた。

ひとつはギルドの簡単なルールや連絡事項、冒険にまつわる標語のようなものが書かれた紙が張り出されている。


もうひとつの掲示板には仕事の募集、いわゆる冒険者への依頼書。

場所や目標、報酬の概要が決まったフォームで記載されているようだ。

「気になった依頼書を取って受付で詳細をきくって感じかな」

魔物退治、採集、護衛。


目の前に迫る冒険の始まりに口角は上がり、足先がそわそわと地面を蹴る。

最初はどんな依頼がいいのだろうか。

「一番上の【危険度高!】って書いてあるのはベテラン向けか……?それ以外は難易度がわかりにくいな……。」


「アルドさんー」

凛とよく通る声に名前を呼ばれ、再度受付へ戻る。



「お待たせいたしました。こちらは冒険者ギルドで発行する登録証です。」

番号だけが表面に刻まれた小さなカードを受け取る。

触れたことのない質感。確かな重み。

「このカードがあなたの情報を記録して、各地のギルドに共有されます。依頼が別の街や国へ向かうものでも現地で報酬を受け取ることができるようになっています」

実に合理的な機能だ。ただの身分証ではないという訳か。


「便利だなあ。創造物ですか?」

「これ自体は違いますが、創造物の力を利用して作られているらしいですよ」

やはりギルドの要職なども優秀な創造者(クリエイター)なのだろう。

カードを光にかざしてみたりするが、特に変わった様子はない。


「成人の儀で水晶のようなものを持たされたんじゃないですか?」

―あ、つまり

「記憶を見る力?」

「それに近いものとのことです」

なるほど協会製か。

儀式で有望な記憶を発現したひとをギルドへ紹介したりもするらしいし、浅からぬ関係にあるようだ。


「でも、そんなに難しい任務をいきなり受けてはだめですよ?」

長期の遠征というのはそれだけでも旅慣れていないと難しいものであることは理解できる。

そのため当然しばらくはこの街を拠点にするつもりだったが


「しっかり経験を積むまでは、ちゃんとわたしのところへ帰って来てくださいね」


年上のあざとかわいい綺麗なお姉さん、か…。



「それから、出来るだけパーティーでの行動をお勧めしています。消息不明、もしくは仕事が出来なくなった冒険者さんの多くは、3人未満で行動していた方たちです」

緩みきった気持ちと表情をグッと引き締める。

仕事ができなくなるというのは、つまりそういうことだろう。

「少なからず人員の募集は絶えずありますので、声をかけて周ってみてはいかがでしょう?」


***


 掲示板の依頼の難易度は、上に張ってあるものほど高難易度と判断されたものらしい。

戦力の問題以前にも、こういったギルド内のルールなどの細々したことを把握するのにも、

やはり経験を積んだパーティーへ参加するのが効率が良さそうだ。


さて、どうやって加入先を探そうか、と掲示板の前で思案していると


「新人かい?」

ぽんっと肩に手を置かれ、気の良さそうな男に声をかけられた。

「もし一人で行くつもりなら、なるべく下にはられた魔物が絡んでなさそうなやつにしろよ?」

「ありがとうございます。そのつもりです。」


優しいひともいるもんだ。でも、

「おれって、見るからに新人っぽいですか?」


ハハッと軽く笑って男が答える。

「まあ、装備がいかにも軽装だし、なによりも見ない顔だったからな」

なるほどそれなりにベテランなのだろう。


「おれはジェイ」

「アルドです。よろしく」

差し出された手に自然と握手で応じる。

アルドよりも一回りは年上だろう男の手は、

物腰の柔らかさに反してガッチリとした冒険者の手だった。

……親切なベテランか。


「ジェイさんは、パーティー組んでるんですか?」

「ああ。3人で組んでる。」

「普段はどんな依頼を受けてるんですか?」

腕を組んだジェイはおれの質問の意図を理解したようで、ニヤリとして続ける。


「魔物退治が多いな。やはり稼ぎがいい。」

冒険者=魔物退治、とは限らない。

しかしアルドの憧れる冒険者像は一般的な少年らしく、

恐ろしい魔物を派手な創造物で打ち負かす、”戦う冒険者”だった。


つまり、うってつけだ。

「ジェイさん、おれをパーティーに入れてみない?」


「怪我はつきものだし、最悪命を落とす。儲かるってことはリスクもでかいってことだ。想像できてるか?」

「子供のころからずっとしてるさ」


ジェイは呆れたように笑いながらも、満足そうに頷いて

「まあ、声をかけたのは同じ要件だ」

「ただし!」と、わざとらしく語気を強めて続ける

「まずは何か創造してみせてくれ。何ができる?」


自分の力を他人に評価される緊張以上に、見せつけたい気持ちが前面に出てしまい、

生意気な笑みで返す。


「よし!広いところに行きましょう!」

次回 7月28日(月) 7時更新

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