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出会いと"幻影"

 突如現れた男はこちらの反応を待たずにズンズンと歩いて、

アルドたちの隣へやって来た。

爽やかな男前、といった印象の金髪の男は身綺麗ではあるが、篭手や胸当て、腰蓑に短剣などの装備から冒険者であるようだ。アルドより少し年上、エレナと同じくらいだろうか。


「いきなり悪いね。俺は―」

「ノックもせず無断で入室とは、偉くなったもんだな、ロイ」

眉間に深々とシワをつくったギルドマスターの低い唸り声が男の言葉を遮った。

やっぱりこの人、怖すぎではないか?


「いやいや!すみません!テンション上がっちゃって、つい!」

しかしロイと呼ばれた男は髭の大男の迫力にも全く怯まず、

人懐っこい笑顔で笑い飛ばす。


「第一印象は大事でしょう?良いタイミングをうかがってたら、つい!すみません!」

手を合わせて謝る姿にギルドマスターがため息をつく。

「まあいい。お前ら、こいつが一緒に遺跡を探索してほしいんだそうだ」


金髪が咳払いをしてアルドとエレナに向き直る。

「俺はロイ。調査や探索を生業にしている。協会から古い遺跡の調査を依頼されたんだが、生憎今はパーティーに入っていなくてね」

「それで、なんで私たち?」

ロイはサラサラの前髪をかきあげながら笑う。

「このところ評判の2人だぞ?無茶苦茶な創造をして軍と協会にも声をかけられたってな。こいつは楽しそうだと思ったのさ」

「今日の今日で、もう知ってるのか?」

「調査を生業にしているって言っただろう?情報収集には自信あるぜ?もちろん、ソロで、美人で、バリバリの武闘派っていう激レアな冒険者のエレナさんのことも前から知っている」


水を向けられたエレナはフンと鼻を鳴らす。

「”最近噂の冒険者”に私は含まれていないと思うんだけど、私はいらないんじゃない?」

ロイは意外な返答だという表情をして見せた。

「まあ、ぶっちゃけ、そうだな。アルドくんが来てくれれば、もう1人か2人、適当な奴を捕まえるが……」

「遺跡って、ダンジョンってこと?」

アルドは好奇心の高まりを隠しもせずロイへ問いかける。


「まだその判断もついていない段階だな。ただの廃虚か、ダンジョンと呼ぶに相応しい遺物や危険があるのか。それを見てこいって依頼さ」

「おれ、行きたい!」

「あんたねぇ……。危険度未知数なんて―」

「ワクワクするだろう?」

「うん!」

「バカ……」

エレナはうなだれてかぶりを振る。


「だいたい、楽しそうとか、適当に捕まえるとか、あんた本気?」

「冒険は面白くなきゃあ、冒険とは言えないだろ?」

「そうだそうだ!」

合いの手を入れるアルドの頭をエレナが鷲掴みする。

「私は、あんたの、ためを思って、言ってるんですけど?」

「痛い痛い!暴力反対!」

ため息をついてアルドの頭を解放したエレナはロイをジト目で睨む。

「……報酬はいいんでしょうね?」

「協会が出してる個人指名の依頼だからな。1回の依頼で、と思えば、なかなかだと思うぞ」

ロイが終始静観していた受付嬢へ目配せすると

1枚の紙がエレナへ手渡された。


「……私はあんたのこと知らないんだけど」

彼女は険しい顔で依頼詳細が記載されているのであろう書類に目を落としながら、ちらっとギルドマスターの方をうかがう。

「当然リスクがないとは言わないが、あまりにもめちゃくちゃをしようとしているなら、お前らを指名した時点で止めている。軽薄に見えるが実績のある男だ」

「協会が俺を名指ししているんだ。任せとけ」

「へぇ、ロイさんすごい人なのか……?」

アルドの羨望の眼差しにロイは爽やかな笑みで応える。

「ロイでいいぞ。―さあ、あんたはどうする」


アルドとロイを交互に見ながら、うぅと唸るエレナ。

彼女はどちらかといえば弁の立つ方だと思っていたが

終始ロイのペースで話が進んでいく。

しかし嫌味がないというか、周りを嫌な気持ちにはさせず、

それでいて完全に場を支配していた。

―陽キャ。

前世の記憶から妙な単語が頭をよぎった。


やがて観念したようにため息をついて、手に持った書類をアルドへ渡した。

「……明日、早朝出発ね。手に負えないと思ったらすぐに撤退だからね」

「決まりだな。よろしく、2人とも!」

頭を抱えるエレナを横目にアルドとロイはがっちりと握手をするのだった。


***


 目的地は街から東へ数日かかる山中。

しばらくは徒歩や馬車での移動続きだ。

「しかし、あんな言われ方をしてよく来てくれたな」

乗り合い馬車の中でロイがエレナを茶化して言った。

「知らない仲じゃない奴が目の前で死にに行こうとしてるの、見捨てたら気分悪いでしょ……」

ロイはククッと喉を鳴らすように笑う。

「いいヤツだなあ」

「そうなんだよ、エレナは優しいんだよ」

「うるさい。着いたら起こして」

ロイと顔を見合わせ2人で肩をすくめる。



「ロイは、ロイの前世の記憶はどんな記憶なの?」

そうだなぁなどと言いながらロイは荷袋をまさぐり、

子供の握り拳のようなコロンとしたパンを2つ取り出した。

ひとつをアルドへ渡し、ひとつを自分の口へ運ぶ。

「突出したところのない創造者だな。それなりに鮮明だから当たりの部類だとは思うが」

朝食は済ませてきたが、ありがたくいただく。

木の実が入っている。うまい。

ロイはパンを持っていない方の手でアルドを指差す。

「俺の力は後でのお楽しみだ。それよりも、お前の記憶の方が気になるな。破茶滅茶な創造の源を教えろよ」


アルドは毎度のことながら説明の難しさに悩みつつ

異世界の物語の記憶をかいつまんで説明する。

そしていつも通り、”何言ってんだこいつ”という困惑の反応を受け取るのだった。


***


 街を出て3日目、一行は遺跡が発見されたという山の麓を行軍していた。

近隣には村や集落もなく、峠道すらない。

ロイに続いて草木をかき分け進む。

先行きの不確かさが視界を一段暗くするような気がした。



「俺のできることについて話しておこう」

ロイが足を止めて振り返る。

「何を想像しているのかはさておき、音を知覚するのが得意でな。姿の見えない距離でも捕捉できる」

エレナが右手に長剣を創造する。

「魔物?」

「ボアだ。7体」

魔物の群れという情報に、アルドとエレナは一気に緊張感を高める。

―訓練の成果を発揮するんだ……!

グッと拳を握るアルドにロイが笑いかける。

「おいおい。そんなに力むな。本番はまだ先だぞ?」

アルドとエレナの肩にポンと手を置いたロイは

道中の雑談と同じテンションで話す。

「言ったろう?俺のできることを説明するって」

金髪をなびかせる風が辺りの空気を柔らかくするような気がした。

「ま、お兄さんに任せなさい」



 まるで勝手知ったる道を行くように、ロイがズカズカと進む。

しかしすぐ後ろを歩くアルド達にさえ、足音も木の葉を踏む音もほとんど聞こえてこない。

音を聞くだけではなく、消すこともできる高度な創造に感心していたアルドが不意に木の枝を踏み抜く。

やばい、と思った時にはすでに遅く、枝の折れる音が―

―音がしない!

ちらっと振り返ったロイはイタズラでもしようとしている子供のように、人差し指を口元に当てて、静かに、のジェスチャーを取る。

―これが協会に名指しで依頼される創造者か……。


さらに驚くことに、それなりの速度で歩いているにもかかわらず

なかなか魔物の姿が見えてこないのである。

いったいどれほど遠くから、何が何体いるのかわかるほど詳細な音を拾ったというのだろうか。


 戦いの予感から間が開いたことでアルドの力みが適度に取れてきた頃、小さな崖の淵で一行は足を止めた。

ロイの身振りに従い崖下を慎重に覗き込むと、暗い緑色の体毛の魔物が集まっているのが見えた。

巨大な猪のような姿のそれは、真っすぐ前に伸びた2本の牙とギラついた瞳が、人に害を為す生き物であることをわかりやすく示していた。


ロイのおかげで高所を取ることができた。

次の行動指針を目で尋ねる。

「それじゃあ、俺がかく乱するから。お前らは安全な位置からトドメさせたら、よろしく」

言うが早いか、2人の反応を待たずロイは目の前の空気を掻くように腕をゆっくりと動かし始めた。

腕の動きに伴って眼下の魔物の一帯に白い霧が立ち込める。


突然視界を奪われた魔物たちは、鳴き声を上げて周囲を警戒する様子を見せる。

そこにロイが手をかざすような仕草を見せると

霧の中にゆらりと黒い人影が現れた。


途端に魔物が叫ぶように声を上げて影に向かい突進する。

しかしそこに人間はおらず、鋭い牙は別の魔物の横腹に突き刺さった。

あっという間にパニックを起こした群れは、まさに阿鼻叫喚といった様相で、次々に同士討ちをしていく。


数が減ってきたところに、エレナが創造した大きな弓で矢を放つ。

射抜かれた魔物は横たわり動かなくなった。

残りは2体。


アルドには狩猟用以上の威力の弓矢を扱う能力はない。

この依頼へ参加することを決めた時点でわかりきっていたことだ。

覚悟も心の準備もできている。

右手を突き出し手のひらに意識を集中する。

ふわりと火の玉が漂う。


エレナの矢がさらに魔物を射抜く。

残りは最後の1体。


火の玉は徐々に大きく、勢いよく燃え上がり、熱風が唸りを上げる。

アルドは一瞬息を止めて、投擲するイメージで腕を振るった。


火球が矢のような速度で崖下の魔物へ向かう。

炸裂する直前、魔物が炎を認識して顔を上げた。

威嚇か、恐怖か、魔物の鳴き声はかき消され、

次の瞬間、炎が全身を圧し潰した。


散逸する火の粉。

黒く焼け焦げた地面の中心には僅かな炭のような塊以外に何も残っていない。


半ば呆然とするアルドの肩がポンと叩かれた。

「いい連携だったんじゃないか?上手くやっていけそうだな」


アルドの様子を心配するエレナの視線を感じながら

精一杯明るい声でロイの笑みに応える。

「っすごいな、ロイ!霧と幻覚の創造か?!」

「水と光を……まあ、ちょちょいとな」


まるで何事もなかったかのように

変わらぬ調子でロイは楽しそうに声をあげる。

「さあ、準備はいいな?遺跡はもうすぐだ」


―よし。戦える。おれは冒険者で……創造者だ。

エレナへ心配はいらないという意図を込めて頷いてみせる。


困ったような、呆れたような笑顔を浮かべたエレナが

アルドの頭をやや乱暴に撫でる。

「はりきりすぎ。あんなに威力いらないでしょ」


「恥ずかしいから、やめてよ」

犬じゃないんだから、とまだ少し震えている手で振り払う。

ロイも愉快そうに笑い2人のやり取りを眺めていた。

炎の熱は引き、心地よい風が3人の間を通り抜けていく。


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