第6話_危機
兵士の一人が私に気づいて、仲間に声をかけた。
「おい、何者だ!」
槍を構えた兵士たちが警戒するようにこちらを向く。金属の鎧が日光に反射してギラギラと光った。
私の心臓が早鐘を打つ。でも、せっかくここまで来たのだから──。
「こんにちは」
両手を高く上げ、武器を持っていないことを示しながら声をかける。
「獣人か! 何しに来た!」
兵の声には明らかな敵意が込められていた。
「私、迷子になってしまって。道を教えていただけませんか?」
「道だと?」
兵士は鼻で笑った。
「獣風情が人間様に口をきくつもりか!」
胸がズキンと痛む。やっぱり、この世界では獣人は差別される存在なのか。
「待ってください! 本当に道の一つもわからないのです! その『獣風情』というのも何ですか?!」
「なんだとはなんだ! 見るだけで穢らわしい……失せるか。今ここで捕まえてやる!」
兵士はそう言うと、懐から笛のような小物を取り出した。
―――キュルルルルルルル……!
(大変です、門の奥から大勢の足音が聞こえてきます!)
やばい。一対一なら何とかなると思って賭けに出たが、大勢相手にするのは無謀だ。戦う準備もしていないのに、戦闘が始まろうとしている予感がした。
「チッ、一旦逃げるよ!」
私は全速力で森へ走った。
(逃げるは得策だと思います。いくら狐火があるとはいえ、私も今のままだと勝てる見込みがありません)
「けれども収穫はあった。ここでの獣人の立場がよく分かった。それにおそらく人間は……いいや、やめとおこう」
ナビはためらいもなく、残酷とわかっていながらその言葉を放った。
「心、読まないでよ」
(私とあなたは密接につながっていますので、常に心の声が聞こえてきます。ご了承ください)
私は「わかったよ……」とため息をつき、後ろからの足音が響かないことを確認して木に寄りかかった。
体感で三分ほど走った。もしあの場で戦闘を強行して負けていたら、今ごろは捕らわれの身だっただろう。判断を誤らなくてよかった。
(これからどうしますか? 急な動作でしばらく体が痛むと思いますので、一旦隠れて休みましょう)
「ええ、そうしようか」
おそらくこの世界は私にとってハードモードだろう。でも生きるためには、きっと残酷なことにも手を染めないといけない。
あまりそれを選択肢に入れたくない。
しかしその時、私はすべきことをしっかり成せるだろうか……?
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