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第5話_人の灯り

焚き火の残り火が、朝の冷たい空気にかすかな温もりを残している。


昨夜見えた光のことを思い出しながら、私は簡単な朝食を取った。保存肉を小さく切って、火で炙っただけの質素なものだけれど、空腹には十分だった。


(今日こそは人に会えるかもしれませんね)


「そうだといいんだけど」


昨夜の期待感は、朝になっても変わらずに胸の奥にある。でも同時に、不安も大きくなっていた。


もし本当に人がいる場所だったとして、私のような獣人を受け入れてくれるだろうか。


異世界ものの小説では、獣人なんて珍しくもない存在だったはず。冒険者ギルドとかに普通にいたりして、人間と一緒に仕事してたっけ。


でも、たまに迫害される立場として描かれていた作品もあったような気がする。人間に奴隷にされたり、差別されたりする設定の。


「うーん、どっちなのかしら」


この世界がどういう世界なのか、まだ全然分からない。もしかしたら、この狐の耳と尻尾を見た瞬間に攻撃されるかもしれない。


「考えても仕方ないか」


焚き火の残り火を土で消し、簡単な荷物をまとめる。古い街道は確かにあの光の方向に続いているはずだ。


歩き始めてしばらくすると、街道の状態が少し良くなってきた。草に覆われてはいるものの、石畳の跡がはっきりと見えるようになる。


「昔はちゃんとした道だったのね」


人が通った痕跡が、なぜか心を落ち着けてくれる。私一人だけじゃない。ここを歩いた人がいるのだ。


しばらく歩いていると、狐火の練習でもしてみようかという気になった。昨日発見した鞭のような形は、まだ不安定だったから。


「出てきて」


手のひらに青い炎が浮かぶ。相変わらず美しい色だ。


「今度は、こんな感じで」


集中して、手のひらの炎を細く伸ばしてみる。青い炎が手から細長く伸びて、まるで光る糸のようになった。昨日よりも少しだけ安定している気がする。長さは1メートルほど。鞭というよりは、青く光る柔らかいロープのような感じだ。


「おお、上手くいった」


(練習の成果ですね。集中力が上がっているようです)


「そうかしら?」


試しに、道端の高い枝にひっかかっている何かを取ってみることにした。狐火を鞭状に伸ばして、器用に絡めて引っ張る。


「あ、取れた」


小さな木の実だった。特に必要はなかったけれど、なんだか嬉しい。


「これ、意外と便利かも」


(実用性が高いですね。道具として使えそうです)


狐火を消して、また歩き始める。


午前中いっぱい歩いただろうか。太陽が真上に近づいた頃、前方の景色が変わった。


「あれは」


丘の向こうに、何か大きな建物が見える。木でできた高い塀と、その向こうに屋根が見えた。


「街じゃない。砦?」


期待していた街とは違う。高い木の柵に囲まれて、見張り台があちこちに建っている。明らかに軍事的な建物だった。商人や旅人が行き交う賑やかな街を想像していたのに、これは完全に要塞だ。


私の心臓が早鐘を打つ。期待と不安が入り混じって、足が止まってしまう。


(軍事施設のようですね)


「軍事施設って」


つまり、兵士がいるということだ。武器を持った人たちが。


急に怖くなった。


もし獣人に敵意を持つ人たちだったら? 私を見つけた瞬間に攻撃してくるかもしれない。


「どうしよう」


でも、ここまで来て引き返すのも悔しい。それに、食料だって残り少ない。いつまでも森で一人でいるわけにはいかない。


私は茂みに隠れて、砦の様子を観察することにした。


しばらく見ていると、門のところで人影が動いているのが見えた。確かに人間だ。金属の鎧を着て、槍を持っている。


赤いドラゴンの旗が風にはためいている。


「人間の軍事組織」


想像していた平和な街とは全然違う。でも、確実に人がいる場所だった。


私は迷った。


逃げ出したい気持ちと、誰かと話したい気持ちが戦っている。


(どうしますか?)


「分からない」


このまま隠れていても仕方がない。でも、いきなり姿を現すのも危険すぎる。


私は深呼吸をした。


「勇気を出さなきゃ」


そう自分に言い聞かせる。


確かに怖い。兵士たちがどんな反応をするか分からない。敵視されるかもしれない。追い払われるかもしれない。


でも、もしかしたら、話を聞いてくれるかもしれない。


「私、何もしてないんだから」


武器も持っていないし、誰かを傷つけるつもりもない。ただ、迷子になって困っているだけなんだから。


それを伝えれば、きっと分かってもらえる。


「よし」


私は立ち上がった。


足が震えているのが分かる。心臓の音が自分でも聞こえるほど大きい。


でも、このまま一人でいるのはもう限界だった。


「行こう」


茂みから出て、砦に向かって歩き始める。


まずは様子を見てもらおう。私が敵ではないことを、態度で示そう。


両手を上げて、武器を持っていないことを示しながら、ゆっくりと砦の門に近づいていく。


「こんにちは」


まだ距離があるけれど、声をかけてみた。


兵士の一人が、私に気づいたようだった。


執筆が実質初めてな者なので、コメントやらブクマは大いに嬉しいです。

更新は毎日2本予定です。気長な気持ちで読んでってください。

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