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第4話_ちょっとした実験

手のひらの青い炎を見つめながら、私は森の奥へと歩き続けていた。


使いこなすため、か。確かにこの狐火は思った以上に便利だ。解体にも火起こしにも使えるし、今も道しるべ代わりになってくれている。でも、街はどっちにあるんだろう。


見渡す限り、木々が続いている。どの方向に向かえばいいのかも分からない。


(申し訳ありませんが、マップ機能がないため正確な方角は分かりません)


「やっぱりそうか」


とりあえず、なんとなく開けていそうな方向に向かって歩いている。根拠はないが、直感を信じるしかない。


足元の草をかき分けながら進む。獣道らしきものもない茂みの中、私の足音だけが静かに響いている。時折、鳥のさえずりが聞こえるが、それ以外は本当に静寂だ。


思ったより、この森は深い。


「結構歩いたかな」


狐火の明かりで時計を確認する。もう2時間近く歩き続けていた。


「あれ、足が痛い……」


立ち止まって足を見下ろす。スニーカーは履いているが、慣れない森歩きで足の裏が痛み始めていた。


「男の時はもっと歩けたと思うんだけど……」


やはり女性の体は、体力も男性とは違うらしい。思ったより疲れやすい。


「ちょっと休憩しよう」


大きな木の根元に腰を下ろす。保存袋から鹿肉を少しだけ口に運ぶ。塩気はないが、自分で狩った肉の味は悪くない。


(いかがですか? 体調は)


「疲れてるけど、大丈夫」


それより、この狐火をもっと使いこなせないかな、と思いながら手のひらの炎を見つめる。


「ナビ、狐火って他にも形を変えられるの?」


(はい。イメージと集中力次第で様々な形状に変化可能です)


「じゃあ、試してみよう」


炎に意識を集中させて、細く長く伸ばしてみる。すると、狐火がゆらゆらと形を変えて——


「おお、鞭みたいになった」


青い光の鞭が、手から1メートルほど伸びている。触ってみると、やはり熱くない。


「これは便利かも」


今度は、もう少し違う使い方を試してみる。狐火を周囲に向けて、何かを探るように意識してみると——


「あ、何か感じる」


微かだが、生き物の気配のようなものを感じ取ることができた。


「これは……」


(生命感知の応用ですね。狐火は魂に作用するため、生き物の存在を感じ取ることができます)


「すごいな、この能力」


試しに気配の方向を見ると、茂みの奥からリスが顔を出した。


「あ、可愛い」


そのリスは、なぜか私を警戒する様子もなく、むしろ近づいてくる。


「この森の動物、人懐っこいな」


手を伸ばすと、リスは逃げることなく私の手のひらに乗った。ふわふわの毛が手のひらをくすぐる。


「不思議だね」


その後も、ウサギが近くまで寄ってきたり、小鳥が肩に止まったりした。まるで動物たちが私を怖がっていないようだ。


でも、せっかくだから狐火の威力も確認しておきたい。新しい力を手に入れたら、どれくらいの威力なのか試してみたくなるのは当然だろう。


ちょっと実験してみよう。


近くにいたウサギに向けて、小さな狐火を放ってみる。青い炎がウサギを包み、静かに倒れた。鹿の時と同様、苦痛はないようだ。


やっぱり効果的だな。


もう一匹、リスでも試してみる。同じように、狐火は確実に効果を発揮した。威力は十分だね、と満足して狐火を消す。これで緊急時にも対応できるだろう。


しかし、しばらくすると気がついた。


「あれ? さっきまで近寄ってきたのに……」


さっきまで人懐っこかった動物たちが、明らかに私を避けるようになっている。


「まあ、野生動物だし気まぐれなのかな」


特に気にせず、再び歩き始める。


それから1時間ほど歩いていると、狐火の感覚で妙な違和感を覚えた。


「何だろう、この感じ」


茂みをかき分けて進むと——


「これは……」


苔に覆われた石畳が顔を見せていた。


「道だ!」


風化しているが、明らかに人工物。昔の街道の一部らしい。


(古い街道の一部かもしれませんね)


「ということは、この道を辿れば……」


人里に辿り着く可能性がある。希望が湧いてきた。


所々に石柱も残っている。道標のようだが、文字は風化して読めない。でも、確実に人が通った道だ。


「これで迷子にならずに済みそう」


石畳を辿って歩き始める。道は所々途切れているが、方向は分かる。足取りも軽くなる。


そうして古い街道を歩き続けていると、空が夕焼け色に染まり始めた。


「もう夕方か」


気がつけば、かなりの時間が経っている。


「今夜は外で寝ることになるのか……」


初めての野宿。少し不安だが、仕方がない。


安全な場所を探して、大きな木の根元に決めた。風も遮れるし、背中を預けられる。


先ほど覚えた方法で火起こしをする。狐火で火種を作り、集めた薪に燃え移らせる。


「上手くできた」


オレンジ色の炎が心地よく燃えている。


夕食は、また保存肉。近くで湧き水も見つけたので、喉も潤せた。


「明日は街に着けるかな」


焚き火を見つめながら、ナビに話しかける。


(可能性は高いと思います)


「そうだね」


ふと夜空を見上げる。星がきれいだ。地球で見た星座とは違う配置に、改めて異世界にいることを実感する。


「お父さんとお母さん、心配してるかな……」


家を出てから、もうどれくらい経ったんだろう。突然いなくなった私を、両親はどう思っているだろう。きっと探し回っているに違いない。でも、今の私はもう帰れない。この世界で生きていくしかない。


火を小さくして、休もうとした時だった。


「あれは……」


木々の隙間から、遠くに小さな光が見えた。


「街の明かり?」


まだ距離はありそうだが、確実に人の存在を示している。


「明日こそは人に会えるかも」


希望が湧いてくる。街があるということは、文明がある。調味料も、もしかしたら新しい出会いもあるかもしれない。


狐火を小さく手のひらに灯して、安心感に包まれながら眠りにつく。


(お疲れ様でした。明日はきっと良い日になりますよ)


「ありがとう、ナビ」


青い炎の優しい光に包まれて、私の森での初日が終わった。

執筆が実質初めてな者なので、コメントやらブクマは大いに嬉しいです。

更新は毎日2本予定です。気長な気持ちで読んでってください。

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