第3話_必要な分だけを
洞窟を出ました!さぁ外はどうなってる!!
ダンジョンの出口から外に出た瞬間、強烈な光が目を襲った。
「目がーーー! 目がーーー!」
思わず両手で顔を覆いながら叫ぶ。まるで太陽を直視したような痛みが走る。
(……空に浮かぶ城のアニメの悪役ですね)
「え?」
(貴方の記憶を参照しました。飛行石のシーンの)
「あ、ああ……無意識に言ってた」
なんか恥ずかしい。でも、本当に目が痛かった。
(夜目能力が働いているためです。調整いたします)
ナビゲーターの声と共に、徐々に光の強さが和らいでいく。数秒後、ようやく目を開けることができた。
「ありがとう、ナビ」
目の前に広がっていたのは——
「森?」
見渡す限り木々が続いている。背の高い針葉樹が空を覆い、木漏れ日がところどころに光の筋を作っている。鳥のさえずりが聞こえ、風が葉を揺らす音が心地よい。
でも、同時に不安も込み上げてくる。
「ここ、どこ?」
(申し訳ありませんが、正確な場所は分かりません。マップ機能がないため、現在位置を特定できないのです)
「マジで?」
周りを見回すが、建物どころか人工的なものは何一つ見えない。完全に自然の中だ。
「人里は? 街は?」
(探す必要がありますね。ただし)
ナビの声が少し重くなる。
(その前に、現実的な問題があります)
「現実的な問題?」
お腹がグゥーと鳴った。
「あ……」
どれほど時間が経ったかは分からないが、少なくとも朝飯を食べた時から相当時間は経ったはずだ。この空腹の度合い的にも。
(食料と水の確保が最優先です)
「でも、ここ森だよ? コンビニもスーパーもないし……」
(この世界では、自然から食料を得る必要があります)
「自然から? 木の実とか?」
(それもありますが……より確実な方法があります)
「確実な方法?」
(狩猟です)
「狩猟って……」
動物を狩るということか。ゲームの中ではよくやったことだが、現実となると話は別だ。
「でも俺、動物を殺したことなんて……」
(分かります。でも、貴方なら大丈夫です)
ナビの声が、いつものように淡々としている。前回のスライム戦を思い出す。あの時も最初は怖かったが、やってみると案外できた。
(生存のために必要な判断です。ただし、無駄な殺生は避けてください)
「必要な分だけ……」
そうか。むやみに殺すのではない。生きるために、必要な分だけを頂く。そして、その命に感謝する。
その時、茂みがガサリと音を立てた。
振り返ると、美しい鹿が姿を現した。
茶色の毛並みに白い斑点、大きな黒い瞳。警戒している様子だが、こちらを見つめている。野生動物らしい美しさがある。
鹿は俺を見つめた後、特に逃げることもなく草を食べ始めた。
(好機です)
「え?」
(狐火で仕留めることができます。確実に、苦痛なく)
「でも……」
可愛い。というか、美しい。こんな生き物を殺すなんて。
でも、お腹はまた鳴いた。このままでは確実に飢え死にする。街がどこにあるかも分からないこの状況で、食料を得る手段は限られている。
「分かった」
右手を前に向ける。なんとなく、こうした方がいい気がした。
「でも、苦しませたくない」
(狐火は魂に直接作用します。苦痛はありません)
「本当に?」
(はい。むしろ、苦痛のない最も慈悲深い方法です)
深呼吸をする。心を落ち着かせて、覚悟を決める。
「鹿さん……ごめんなさい。でも、生きるために……」
手のひらに意識を集中させる。青い炎がふわりと現れた。前回より大きく、より安定している。
鹿がこちらを見た。一瞬目が合うが、すぐに草を食べ続ける。普通の野生の鹿だ。
「狐火」
技名を口にした瞬間、青い炎が手から離れた。初めて自分で意識的に使う能力だからか、なんとなく名前を言った方が集中しやすい気がした。でも、ちょっと恥ずかしい。
青い炎は真っ直ぐ鹿に向かい、鹿の体を包み込んだ。炎は鹿の毛を焦がすことなく、まるで体の内側から燃えているかのように青白く光っている。数秒後、炎が消えると同時に鹿が静かに倒れた。外傷は一切なく、まるで眠っているかのようだった。
倒れた鹿から、微かに光の粒子が立ち上り、俺の方に流れてくる。スライムの時と同じ感覚。でも、今回はそれほど重く感じなかった。
案外、こういうことに慣れるのが早いのかもしれない。
「ありがとう」
それでも、感謝は忘れたくない。鹿のそばに歩み寄り、軽く手を合わせた。
(お疲れ様でした。これで食料の確保は完了です)
「うん。思ったより……普通だった」
自分でも意外だが、そこまで動揺していない。必要なことだと理解できれば、案外できるものらしい。
(貴方の適応能力は高いようですね)
「そうなのかな」
ただし、感謝の気持ちは忘れずにいたい。それが最低限の礼儀だと思う。
(では、解体の準備をしましょう。詳細な手順については後ほど説明いたします)
「解体か……」
ゲームなら「鹿肉ゲット!」で終わりだが、現実はそうはいかない。
「よし、やってみる」
(基本的な手順をご案内します)
「ああ、でも『狐火』って言うの、ちょっと恥ずかしいな」
(技名を発声することで精神集中が安定します。また、決まったポーズを取ることで魔力の流れが整いやすくなります)
「そうなんだ。でも慣れれば必要ないの?」
(はい。熟練すれば無言・無動作でも発動できます。ただし、規模の大きな術を無詠唱で使うと精神的な負荷がかかります)
「精神的な負荷?」
(頭痛や思考の乱れが発生します。規模の小さなものなら問題ありませんが、大技になるほど危険です。慣れである程度は軽減できますが)
「なるほど……じゃあ普段は言わないでおこう」
実際、なんか中二病っぽくて恥ずかしい。でも、集中したい時には使えるかもしれない。
青い炎が再び手に現れた。今度は技名なしで、小さな調理用の炎として。これくらい控えめな規模なら、無詠唱でも特に問題ないようだ。
新しい生活の第一歩を踏み出した。
おめでとう!人生初の殺生どうでしたか、主人公!(煽り)
執筆が実質初めてな者なので、コメントやらブクマは大いに嬉しいです。
更新は毎日2本予定です。気長な気持ちで読んでってください。