12. 神官長ルカ・フェンリス
そのまま巫女のあとに続き、神殿の中へ向かう。朱の柱が並ぶ渡り廊下。敷石に触れる足の冷たさ。
目に映る景色のすべてが、自分の知っている日常とはかけ離れていた。
――そんな時だった。
石畳の向こうから、一団が近づいてくる。先頭に立つのは、赤みがかった髪を後ろで束ねた、引き締まった体躯の男だった。精悍な顔立ちに鋭い目。大柄な杖を背負い、褐色の神官服が風をはらんで揺れていた。
巫女が小さく息をのむ。
「……ルカ神官長様です。こちらにおいでです、道をお譲りしましょう」
ユナは言われるままに通路の端に立ち止まり、頭を下げた。
整った足音が、石を打って近づいてくる――そして、ユナのすぐ前で、その足音が止まった。
「……あんた、そこで何をしている?」
低く、どこか威圧的な声だった。
顔を上げると、神官長ルカ・フェンリスが、じっとユナを見下ろしていた。
その視線には、冷たい警戒心がはっきりと宿っていた。
「その格好、見ない服装だな。どこから来た?」
問いかけは粗雑ではあるが、注意深く間合いを測るような調子だった。
ユナは数秒の沈黙のあと、落ち着いた声で答えた。
「旅の者です。少し、事情がありまして……これは寝間着です」
ルカは腕を組み、視線を逸らすことなくユナを見つめ続ける。
「そうか……似たような服を着た女を、つい最近、別の場所で見た覚えがあってな」
ユナの心臓が、一瞬止まりそうになる。
「色は違ったが……その袖口と襟元、見覚えがある。あんたのと、よく似ていた」
ユナの瞳が揺れる。
――色違いのパジャマ。マナとお揃いにしようと選んだ、あの日の記憶がよみがえる。
「……その方は、今どこに?」
ユナの声は静かだったが、震えを帯びていた。
ルカは少しだけ目を細める。
「詳しいことは言えないが、この国で特別な存在として保護されている」
「……特別な存在として?……」
(マナが……この世界にいる……)
疑念が確信に変わる。胸の奥が、かすかに熱を帯びる。
ルカはユナの様子をじっと観察するように見つめていた。
その目はどこか、探るように細められていた。
「……あんた、名前は?」
「ユナと、石神……ユナ、といいます」
「ユナ、か」
ルカは短くうなずくと、後ろに控えていた巫女に声をかけた。
「この人に着替えを出してやれ。靴もだ」
巫女は慌てて頷き、はいと小さな声で返事をする。
ユナは軽く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「礼はいい……」
その言葉に、ユナは静かに頷いた。 自分の中で、少しずつ現実が形を成しはじめていた




