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「―――いいえ、ディラン様。お会いしたことはありませんが、私はずっと昔から、あなたに、あなたのご家族に、お会いしたいと思っておりましたわ」


リュシーの言葉に、ディランは混乱した。


「えっ?俺のこと…っていうか、俺の両親のことも知ってる?え、え?いや……人違いでは?」


「いいえ。間違いございません。ですが、まさかこうしてお会いすることになるとは思ってもみませんでした」


リュシーの目にうっすらと涙の膜が見え、ディランは狼狽えた。


「いや、本当に待ってくれ!全然心当たりがないんだ。何度も死に戻ったと思ったら、今度は妖精やら、初めて会うリュシーみたいな明らかに良いところのお嬢様に会いたかったって言われたり、自分でも訳がわからない。一体何が起こってるんだ……」


死ぬこと6回。

7回目の今日は、新しい事が起こりすぎる。


頭を抱えるディランの言葉に、リュシーも驚きを示す。


「――え。何度も死に戻った……?それはどういうことですか?」


「ええっと……」


問われたディランは、言葉に詰まる。

今までは、何かを深く考える暇もなく死んでは戻ってを繰り返していた。


誰かに状況を打ち明けたことはなかったけれど、こうして今回リュシーと出会えたも何かの縁なのだろう。


信じてもらえないかもしれないけれど、今回こうして鏡越しに話したりしている時点で物凄く可笑しな事が起きている訳だし、ディランの話も少しは信憑性があるかもしれない。


何より、今まで一人で行き詰まっていたから、誰かに話せば、何か変わるかもしれない。


というか、もしまたこの後死んでまた戻ってしまったら、その時にリュシーと会えるかはわからない。


いちかばちか、話してみよう。

ディランは口を開いた。


「――ええと、俺、今からすごく変な話をすると思うんだけど、これは嘘でもなんでもなくて、実際に起こったことなんだ。たぶん、信じられないと思うけど……俺は、今日死んで、今日の朝にもどるっていうのを何度も繰り返しているんだ。いや、あの、まだ今回は死んでないんだけど。今のところ、6回くらい死んでいて、今日の朝に戻るのを繰り返してる。俺にとって今日は7回目になるんだ」


ディランの話に、リュシーは驚きに目を見開いた。


当然だろう。

突然こんなことを言い出すなんて、頭のおかしな奴だと思われたかもしれない。


混乱するリュシーを、ディランも不安な気持ちで見つめていると、リュシーは、何度か口を開け閉めした後、ようやく言葉を絞り出した。


「――待って、待ってください。あの、ディラン様の話を信じないというのではありません。ありませんが……死んでしまう、それも6回もというのはどういう……それに、今日を繰り返しているということは、私はあなたに既に何度も会っていたということですか?」


「いや!リュシーと会うのは今回が初めて!というか、妖精?が見えたのも今回が初めてなんだ。今までは普通に朝起きて、職場にいく途中で殺されたり、働いてて死んじゃったりしてて……しかも前回はなんか急に心臓痛くなって死んじゃったし」


前回の死に方は、特にショックだった。

事件は避けられても、病は避けようが無いからだ。


「待って!待ってください……ディランは、その、死んでしまうというのは、毎回違う形で、ということですか?同じ死を繰り返すのではなく?」


「俺も、死ぬことになった原因は避けたりしたんだけど、避けるとまた別の事件とかが起きて死んじゃうんだ。しかも前回は病死ときて、もうどうしようもないし」


対策のしようもなく、お手上げだ。


「そんな……そんなに何度も命を落とすなんて………そんなことが」


リュシーはディランの話に、血の気の引いた顔で黙ってしまった。


真っ青な顔で考え込む様子に、ディランは申し訳なさを感じた。


初対面の相手に話すには重たすぎる内容だ。


ディランを嘘つき扱いもせず話を聞いてくれただけでもありがたいのに、悩ませてしまった。


「あの、ごめん。その、そんな深刻に考えないで。まだ今回は死んで無いし、その、死んだとしても多分また繰り返すと思うし……」


「――いえ!私は、あなたが何かに困っているなら助けたいんです。だから、話してくださってありがとうございます」


弾かれたように顔を上げて、その金色の瞳でこちらを真摯に見つめるリュシーに、ディランは自分の頬がうっすら赤くなるのを感じた。


どうして初めて会った自分にそこまで親身になってくれるのだろうか。


「あの、私にもまだ、確かな事は言えません。ですが、おそらく死に戻っているのは、あなたを助けようとしている妖精の守護の力によるものだと思います。それもとても強い力を持つ妖精の」


「守護……?え、俺を守ろうとしてくれてる妖精がいるってこと?それってさっきまで見えてた光の玉みたいなやつ?」


「おそらくは……。たぶん1番最初のときから、貴方のそばにいたはずです。あなたを死から救おうとして、上手く行かず、時を戻しているのだと思います」


「えっ、時を戻す?妖精ってそんなことができるのか?」


「妖精の力は色々あるんですが、時を戻すなんて、並大抵の妖精にはできません。余程の力をもった方が側についているんだと思います」


「でも俺は、今まで生きてきて妖精と関わったこともないし、見えたことすらもないんだけど……そんなにすごい妖精が何で俺なんかを守ろうとしているんだ?俺は、ただの大工見習いなんだけど……」


「――その、詳しく説明はできませんけれど、ディラン様は妖精と縁があるのです。だから、妖精たちがディラン様を守ろうとしても不思議ではありません」


「……それに、そもそも、そんなに何度も違う形で命を落とすなんて……。何か、不可視の力が働いているような気がします。それが何なのかが分かれば、解決の糸口になるかもしれません」


そう言って考え込んだリュシーは、意を決したように切り出した。


「あの、ディラン様、私のお願いを一つ、聞いてくれますか?」


「え、あ、何?」


「私が戻るまで、家から出ないで。そこにいて下さいませんか」


「えっ!?でも俺、仕事にいかないと……」


大工見習いとして採用されたディランには、毎日仕事が山のようにある。


一日でも休もうものなら、親方からゲンコツを喰らうことは間違いない。


「ご無理をお願いしてすみません。ですが、今日のお仕事はお休みして頂けませんか。私の父が、妖精の事に誰よりも詳しい専門家なんです。相談すれば何かわかるかもしれません。でもその間にディラン様が命を落としてしまったら……次もまた繰り返すという、確実な保証もないですし、繰り返したとして、私とまた会えるかもわかりません。ですから、お願いします。そこで、待っていてほしいのです」


必死に訴えるリュシーの姿に、ディランは親方の鉄拳を恐れた自分を恥じた。


見ず知らず――いやリュシーは何故かディランのことを知っていたらしいが――とにかく、会ったこともないディランのために、リュシーは力になろうとしてくれている。


それに、リュシーの言う通り、次も必ずあるとは限らない。


「――わかった。ごめん。初めて会うのに、俺の事情に巻き込んじゃって。俺、ここで待つよ。仕事は、今日は休む。あ、でもここで病気になって死んじゃったらごめん……」


そこばかりはちょっと、自信がない。


そんなディランに、リュシーはほっとしたような笑みを浮かべた。


「家の中にいれば、おそらく大丈夫です。安全だと思います。とにかく父と相談して、できる限り早く戻ってきます……!」


そうしてリュシーの姿は、慌ただしく見えなくなった。


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