序章8 弱者の反撃
……その場所は、とてもじゃないが人が住んでいるように見える場所ではなかった。人里からあまりにも離れた洞窟。ここを拠点にしていたからこそ、これまで傭兵たちに捕まらなかったのだろうか。
そんな洞窟の中、四人の男たちはたくさんの財宝や武器を囲んで酒を飲んでいるようだった。
あの中にきっと父さんや母さんのものだったものがあるはずだ、そう思うと一気に俺の中にある殺意が増した。それにその横には縛られて眠っているリアがいる。あれだけ元気だったリアの顔が苦しんでいるように見える。あいつらのことを許すことは絶対にできない。
そして、俺は大きな足音を立て、こう宣言した。
「妹を返せ!このくそ野郎ども!」
俺が叫んだ瞬間男たちはこちらを向き、この間俺を殴り飛ばした男は口角をあげながらこういった。
「なんだ、クソガキ。生かしてやったのに、殺されに来たのか?それとも晩酌でもしに来たか?確か今年で成人だろう。」
「お前には耳がついていないのか。……妹を返せ!」
「はぁ……。……まったく面白くねえガキだ。俺はこのまま酒を飲む。お前らがやれ。」
そういって、その男は周りにいる男に命令した。すると三人の男たちは置いてあった武器の中から武器を取り出し、俺の方を向いた。
「こっちは楽しんでんだよ、ガキんちょ。何もできねえ奴は引っ込んでろ。」
そういって、男たち剣を構え、俺に対して切りかかってくる。
(最初は耐えるだけでいい。ラダーバが罠を作動させてから、だ。)
俺にも少しくらいの剣術があり、耐えるだけならできる。それにこの男たちは素人同然。まったく強さを感じられない。
どうしてこんなやつらが盗賊をやってこれたのかわからないほどに。……理由はきっとあの男だ。あの男が噂で聞いた実力者。業腹だが実際に実力がある。あの時の男の目は、人を殺したことがあるやつの目のように感じる。あいつが動き出す前に罠が作動してくれれば、………。
戦闘が始まってからしばらくの時がたった。
さて、もう少しで罠が作動するはずだ。合図自体はもう出してある。
…………………………。
だが、いくら待っても罠は作動しなかった。どのような罠なのかは聞いていないが、まったくそんな雰囲気がない。
これだけ時間がたっても、罠が作動しないということは、……。
(くっ!ラダーバ、あいつ!逃げたのか!?)
耐えられるといっても三対一。いくら相手が弱いからといっても不利な状況を耐えるのは骨が折れる。
あいつの罠がないのなら、もうおとりになる必要すらなくなった。
「お前らみたいなぐずに、負けてたまるか!」
俺はその剣で三人の男を切り伏せた。やはりただの素人だ。
だが、問題はあの男。今も片手に杯を持ちながら余裕しゃくしゃくの笑みでこちらを見ているあの男。
「なんだ、お前剣術はできるんじゃねえか。
さて、あのカスどもが倒れたんなら俺が出るしかねえな。」
そういって、男は腰に下げた剣を鞘から抜いた。その剣はそこら辺にある有象無象とは違う何かを持っているような気がした。あれは人からの盗みものじゃなく、奴が使いこなしてきたものであるというのが感覚で分かった。
「ここに来たってことは殺される覚悟があるってことだよな。お前も両親みてえに無残に殺してやるよ。」
「お前を、殺す……!!」
頭に血が上った俺は剣を構え、すぐに地面をけった。男との間合いがどんどん近くなる。そして、俺は剣を振り上げる。
「死ね!くそ野郎!」
だが、
「鈍いな、お前の剣は。」
俺の剣はいとも容易くいなされてしまう。何度剣を振ってもいなされる。
「死ね!死ね!死ね!死ね!!」
「無駄なんだよ。お前の剣には志がない。」
俺の剣を何度もいなすこの男は不思議そうな顔をして俺に問うた。
「……お前、ほんとにあの男の息子なのか?お前の剣、あまりにも弱すぎる。遅く、軽く、鈍い。」
俺はその言葉により腹を立てた。
「俺は……!アジューダ・ルドルーファの息子だ!」
「はっ!ほんとに才能がないんだな。お前はよ!!」
俺が剣を振るのと同時に男も剣を力強く振った。
俺の剣と男の剣が正面からぶつかり合う。男の力はすさまじいもので俺はすぐに吹き飛ばされてしまう。
あの時と同じだ。この男には勝てない。
「がはっ!」
洞窟の壁に強く打ちつけられた俺は勢いよく吐血した。
「ほらほら、どうした?……さっきの威勢はどこに行っちまったんだよ。」
こいつ強い。
「いくら酒を飲んでるといっても、素人に毛が生えた程度のおまえみてぇなカスに俺が負けるわけねえだろうが。」
男はゆっくりと近づいてくる。
(勝てない相手だ。すべての抵抗が無駄になっている。)
そしてその時、俺はあることを思い出した。
俺は内ポケットの中にあった小瓶を手に取り、男に投げつけた。男はそれをさも当然かのように切り伏せた。
「何してんだよ、クソガキが。こんなもん投げつけても何にも変わらねえ……ぞ。」
男は少しだけ体をぐらつかせた。
「いいや変わるさ。これでお前を殺せる!」
「おい、ちょっと待て、キリアス。」
「なんですか、先生。急いでるんですよ。」
「お前もきっと、地元に残した幼馴染の一人や二人いるはずだ。だからなほら、これ。」
そういうと先生は僕に小瓶を一つ渡してきた。
「ほんとに何ですか、これ?」
「これはな、媚薬だ。」
「…ぶふっ!?び、媚薬!?な、なに渡してんですか!」
「この五年間、お前から色恋沙汰の話を聞いたことがなかったんでな。きっと地元に初恋の相手がいるんだろ?だからこれを使ってうまく落とすんだよ。」
この人確実にふざけてるな。
「そ、そんな人いませんよ。…………。ま、まぁ貰っておきますけど。」
「それと、もう一つ。」
と、言ってもう一つの小瓶を渡してきた。
「これは?」
「こっちは、麻痺薬だ。強い女、勝てない女にはこれがきく。この二つがあればどんな女も落とせる!俺の必殺技。酒を飲ませた後にこれをぶっ掛ければ,いちころだぜ!」
まさか、あの金髪教師のカスみたいな贈り物がここで役に立つとは。
「酒を飲んでる奴にはよく聞くって話だ。こっからだぜ……!反撃、開始だ!」
俺はそういって、また力強く地面をける。麻痺薬の効果があるってことは体が動きにくくなるということ。
つまり正面からの勝負なら俺の方に分がある!
俺が切りかかる寸前、その男は俺の目の前から消えた。
「しょうもねえことしてんじゃねえ。このクソガキが!!」
次の瞬間とんでもない速度の剣戟が俺を襲った。
間一髪のところを剣で防いだが、またも俺は吹き飛ばされ、洞窟の壁に強く体をぶつけた。
その一撃の強さはさっきのものとは比べ物にならないものだ。先ほどまで、どれだけ手を抜いていたのかがよくわかる。そんな攻撃を食らった俺は、簡単に意識を失った。
「はぁ、やっと倒れたか、このガキ。」
こいつが最後に投げてきたのは、きっと麻痺薬だ。なんてものをもってやがる。それにこいつの効き目がとんでもない。腕と足の動きが一気に鈍くなった。酒が入ってる影響か、眠気もしてきた。最後の一撃で意識を失ってくれてよかった。
俺は倒れている仲間たちを起こそう、とあいつらに近づいた。
「おい、起きろ。お前ら。起きてあのガキを…………。」
次の瞬間、洞窟の入り口から足音が聞こえてきた。
そちらの方を見るとひとりの人間の姿が見える。
「また、面倒な奴が来たのか?」




