魔王編3 魔界へ行こう
その後、ギルドに対しては嘘をつく形になってしまった。調査クエストの依頼は問題なし、とだけ伝えておいたのだ。それに実際問題はない。魔王がいただけで、その魔王は何も街を加えてくることはないのだから。ただ、そんなこと言ったら混乱してしまうし、もっと面倒なことになるのは確定だ。ラズだけにはこの件を伝えておいた。
「なぁ、ラズ。あそこにいたの魔王だったわ。」
なんていう俺の顔をじっと見た後、深く息を吸い……これまで見たことがないほどの大きなため息をついた。もちろん俺だってため息をつきたい。ただし、ため息なんてついてられないから俺はこうしてラズに話しているのだ。
「主ってなんでこう……めんどくさいの?普通に生きらんないわけ?」
「何がめんどくさいだ。俺だって普通に生きようとしてる!」
ただし、普通に生きることができないのが俺の性なんだろう。もちろん普通に生きようとはしてる。普通に冒険者してたら、なんか普通に冒険者できなくなるようなことが起きるってだけで……。それは大問題では?
そうして、俺が魔王と友達になりこの世界の魅力だったりなんなりを教えることになったことを話すと、これまでため息をつきそうになったが納得はしてくれたそうだ。
「まぁ、うん。事情は分かったよ。どうせ、ほかのみんなには言わないで敵な感じでしょ。分かってますよ、分かってますよ。もう五年は一緒ですからね。
あ、ちなみにだけど私は一緒に行かないからね。主の友達が魔王のせいで魔力のパスがつながってるだけで気持ち悪いんだから。」
嫌味風に言ってくるラズはそのまま霊体化していってしまった。
これまた申し訳ないことをしてしまったのかもな。
あの日以降はできるだけガイアのもとへ向かうようにした。
一日に一つ、人界でできる楽しみをガイアに伝えている。できるだけ多く伝えたいんだが、なにぶん人界にはいても、実際に人と話したりするのはできないので世界の楽しみを伝える。であったり、実際に体験できるものは体験してもらっている。こうして実際に一人でできる楽しみを探そうとすると、それが結構少ないということが分かった。
グルークやドンキたちの宴会に行けばきっと楽しいと思うんだが……。それをすることはできない。
「プピイイイイイイ!」
今日の洞窟の中は下手くそなリコーダーの音で常に満たされていた。
「なぁ、キリアス。そんなにリコーダーって難しいか?」
「リコーダーは運指が難かしすぎる。
それに高い音を出すときに力みすぎて音が飛ぶんだよなぁ。」
前世の頃も現在も音楽なんてものには全く興味がなかったのでまったく吹ける気がしない。
二つのリコーダーと楽譜を買ってきた俺はそれを必死に吹いているのだが、上達している様子はない。下手くそなリコーダーの音はとんでもなくあほらしいので聞くだけであれば面白い。ただし実際に自分がやるとなるとうまくできないので腹が立つ。
「あああああぁぁぁぁ!!全然できねえ!!」
「はははっ!!キリアス、ずっとそこで音が飛んでるな!」
そんな俺に比べ、ガイアはリコーダーをそこそこ吹けていた。初めて見るはずの楽譜なのにそれなりの形になっている。だが、やはり俺は無理だ。一か所……だけじゃないけど、難しいところがある。
「無理に決まってるだろ!ここの低い音から一気に音が上がってるんだよ。
運指も一気に変な運指になるからより難しいのに。
……なぁ、何かコツとかないのか?」
俺がそう言うと、俺の楽譜を見ながらまったく俺ができないところを難なく吹き上げる。
何だこいつ自分の実力を自慢したいだけなのか?
「コツなぁ……。俺は全部感覚でやってるし、そもそもリコーダーを吹いたことなんて……ない、と思う。」
歯切れの悪いガイア。そんなガイアは俺の視点からすれば、確かに感覚でやっているんだろうが、リコーダーを吹いたことがないのは嘘だろ。
「絶対記憶失う前に使ったことくらいあるだろ。いくら魔王でも娯楽の一つはしてたんじゃないか?」
「まぁそうだかもな。」
「記憶喪失ってのはつらいな。」
というような日々を送っていた。だが、さっきも言ったようにこの世界の楽しさはみんなといるときにできることの方が圧倒的に多い。逆に一人で楽しむことができるものは少ないのだ。
つまり、……持っていくものがなくなってきた。
「よぉ、ガイア。今日も来たぞ。
今日は俺のおすすめのカレーだ。」
「ほぉ、カレーがあるのか。それはいいな!」
お昼時。そうして俺たちは二人でカレーを食べ始めた。
カレーを食べるとき、ガイアに考えていたことを聞いてみた。
「なぁ、ガイア。魔界にはこういうおもしろいことだったり、魅力はないのか?俺が持ってこれるものもなくなっててな、今度は俺に教えてほしいんだ。魔界の楽しみみたいなものを」
俺がそう言うと、ガイアは困ったような表情を見せる。
「うーん……。……いけないことはない。ただ、俺自身が魔界の楽しみを知らないってのはある。でも面白いだろうな。
だが……もしも魔界に行ってることが見つかったら、今度こそ拘束されると思うんだよ。」
「拘束?!王様を拘束するとかやばいだろ。さすがにそれはないんじゃないのか?」
「いやぁ、……いるんだよな。平気でそういうことするやつが。
ただ、そういうやつがいるのは得てして、魔王城なわけで実際に俺のことを知ってるような奴は下町にはいない。だって俺がした街に行ったことがないんだから。」
そんなガイアの意見を聞いたところで、俺には一つのアイデアが思いついていた。
このアイデアは通常の人間であれば、あまりの危行であり、奇行。まさに目の前にいるこの男のような自殺志願者がすることであろう。
だが、もう一度言おう。その異常行動が異常行動になるのは「普通の人間であれば」だ。
「……だとしたらさ。俺もついていっていいか?」
俺の発言に脳がフリーズしたのか、顔面の動きが一瞬止まるガイア。
その直後、ガイアは本当に俺の頭がどうかしていると言わんばかりの顔で俺にこう尋ねてくる。
「キリアス、お前。何言ってるのかわかってるのか?魔物ってのは人間への恨みだけで生きてるやつなんだぞ。」
そうだ。魔物の生きる原動力は人間への恨み。深くは知らないがそれが原動力であるという風にこれまでの冒険では認識している。
だが、それと同時にこの俺が異常であるということもこれまでの冒険で認識しているのだ。
「俺はこれまでになぁ眷属王や知性のある魔物と何度かあったことがある。だが、そこでそいつらからなんて言われたか知ってるか?お前は神の加護が判別できないから、ぱっと見人間には見えない。だから恨みも出てこないって言われたんだよ。
だったら俺がついていっても大丈夫なんじゃないか?っていう話だ。」
正直、魔界には興味がある。それに俺の中では知性のある魔物は敵じゃない。それをこの五年間で理解したのだ。どうやらほかの人間たちはそう思わないらしいが。
なので、魔物たちがどういう世界で生きているのか、どんな生活を送ってるのかはとても気になる。
「お前……。ふっ、はははっ!!なかなかの度胸だな。
……確かに楽しそうだ!お前が人間と判別されることなんてないだろう!」
大声で笑い終わった後、ガイアは俺の方へその満面の笑みを浮かべた状態でこぶしを前に突き出す。
「よっしゃ、行くか!」
「あぁ!行ってやろうぜ!」
20になってようやくこういうノリができる友達ができた。シータに同年代が少なかったしこういうノリは俺に似合わないと思ってたが、何かと高揚感がある気がする。なぜだか、楽しいのだ。ガイアと一緒にいるというのは。




