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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 魔王編
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魔王編2 友達

「それは、俺が魔王だからだ!」



「???????????」



 今こいつなんて言った。

 魔王?魔物の王?つまり、眷属王たちのさらに上の存在?



 はっ……はははっ、そんなわけないよな。


「すまん、うまく聞こえなかったみたいだ。もう一回言ってくれ。」


 俺の問いかけに対して、再び胸を張って自慢げに答える。


「俺が魔王だからだ!!」


「……」


 ……どうやら聞き間違いではなかったようだ。相当頭がお花畑になっているのだろう。

 自分のことを魔王だって言い張るだなんて頭ハッピーを極めている。


 見た目の年齢で言えば俺と大差ないだろうに。

 だがなぜだろうか、これまで様々な面倒ごとにかかわってきたからだろうか。嫌な予感がする。頭の中はそんなこと絶対あり得るわけないといっていても、体からの冷汗は止まらなかった。


 そんな俺は少しだけ中二病を患っているガイアをなだめるように苦笑いで、ガイアの肩に手を置く。


「……いいか、ガイア。そんな年で自分は魔王だなんて想像するぐらいはいいかもしれないが、人にそれを言うのはいいことではないと思うぞ。魔王っていうのは、俺たち人間を殺そうとする魔族たちの真の王。

 そんな奴が人界のしかもこんなところにいるはずないだろう。もうちょっと設定を考えこんで来い。それになんで魔王なのに見た目が完全に人間なんだ。俺と同い年くらいの見た目じゃないか。」


 ……いや待てよ。俺は二人の眷属王を見たことがある。ゴブリンとサーペントの眷属王を見たことがあるが、……どちらも人型だった。見た目は完全に人間なのだ。

 ……ま、そうだとしてもおかしいけど。


 俺の否定的な意見にガイアは両手を組んで首を傾ける。


「かたくなに信じようとしないなぁ。」


「それにな、ガイア。

 俺は冒険者だ。もしもお前が本当に魔王なんだとすれば、俺はお前を殺さなきゃいけなくなる。

 そういう冗談はやめておいた方がいい。」


 俺がそう言った瞬間、ガイアは俺の肩を両手で抑え目を輝かせながら唐突に距離を縮める。

 花と鼻がくっついてしまうんじゃないかと思うほど。


「ど、どうしたんだよ。」


「そう、それだ!それなんだよ!よくわかってるじゃないか!!キリアス!」


 ますます訳が分からなくなってきた。そう言いながら俺の背中をバシバシと叩くガイア。


「頼みがあるんだキリアス!

 俺を殺してくれ!!」



 満面の笑み。これほどの笑顔を見たのは久しぶりかもしれない。それほどに、こいつの笑顔は百点満点だった。

 ただ、言っていることが自殺願望者のそれ。


 俺はどうやら、また面倒なことに巻き込まれるらしい。





「そこまでいったら……何というか冗談にすら聞こえなくなってきた。」


「実際に冗談じゃないんだぞ。」


「もしそれが本心なら勝手に自殺でもなんでもすればいいじゃないか。」


 俺がそう言うと少し溜息をした後に、ガックシとなりながら俺の問いに対しての答えを返す。


「それができたら苦労してない。

 契約上、自殺できないんだよ。」


「契約?お前、何か変な奴と契約してるのか?」


「魔王になる直前にちょっとな。」


 魔王になる前?魔王は生まれた時から魔王ってわけじゃないんだな。魔物というのは人間とはだいぶ違うものらしい。


「何と契約したんだ?契約を解除しようと思ったらできそうな気も……。」


 あいや、確か精霊と契約したら死ぬまでその契約は続くんだっけ。じゃあ無理だな。

 というかほんとに何と契約したんだこの男。


「それが何と契約したかは忘れたんだよな。」


 そんな重要なことを忘れるとは、なんて吞気な奴なんだ。

 にしても、自殺ができない契約……か。


「まぁ、その契約があるからほかのやつに殺してもらわなきゃならない、と。

 ……知性を持つ魔物にでも頼んで、殺してもらえばいいだろ。部下なんて何百万といるんだし。」


「頼んでも魔物が俺を殺すと思うか?魔王なんだぞ。」


 確かにそうだ。我らの王様を殺す、なんていう奴いないよな。

 それで、何もできないからこんなところで隠居してんのかな。


「ちなみになんでこの洞窟なんだ?魔界の住み心地がいい所、魔王城……だっけ、とかにでも住んでりゃいいじゃねえか。」


「実家がここだった……気がする。関係性が強い所だから居心地がよくてな。今じゃ見る影もないけど。

 それに魔王城は住み心地最悪だ。一生見張られてたからな。」


「魔王も魔王で大変なんだな。」


 うーむ……。

 こんな感じで俺が質問してたら、問答が終わる気がしない。


「これまで何があったのかを教えてくれ。簡単にでいいから。」


 そうして、この問答を終わらせるために俺はガイアにこれまで何があったのかを聞くことにした。

 正直、経緯を聞かなきゃ何も始まらない。


「簡単に、だな。わかった。」


 そうして、ガイアはこれまでの経緯を話し始めた。


「まず目が覚めたら、そこは魔王城だった。

 記憶があいまいだったから覚えてないことが多かったんだが俺が魔王だったってことは覚えてる。」


 やはり、記憶がなかったのか。

 先ほどからの問答でそんな気がしていた。いろいろと不正確なところが多いし。



「そこで気づいたことがあったんだ。これまで俺の中にあった人間たちへの恨み?みたいなものが全部なくなってたってことにさ。ただ、人間対魔物って関係はこの世界に根付いていたらしい。

 できれば、俺は人間と魔物には共存して平和になってほしいと思っている。なのに、魔界と人界での境界面では常に戦争しているらしい。」


 境界付近で常に戦争状態……か。初めて知ったな。

 それに俺も人間と魔物には共存してほしいと思ってる。


「でも、俺がいたらその関係をより悪くすることしかできない。実際俺が復活すると魔王軍の士気が上がって、それを見た人王軍の方も戦力を上げてくる。被害件数、死者数はどんどん増えていった。

 俺が願う平和とは程遠いものだ。

 だから死ぬために魔王城を無理やりにでも抜け出して人界に行って、人間に殺してもらおうと思って人界に行った。さっきも言ったが死ねないし誰も殺してくれないからな。

 そしたら、それを察知した部下の魔物たちが一斉についてきて、魔王軍進軍みたいになったんだよ。

 魔王城にいても死ねないし何なら士気が上がって被害が増える。人間に近づいたら人間にも迷惑になる。

 だから隠居して俺のことを殺してくれる奴を待ってた。……ってのが簡単な説明、かな?」


「……えぇ?」


 一気に情報を詰め込まれた俺はそこそこ困惑していた。


 確かにグルークが言っていた。この前、魔王軍進軍があってBランク冒険者の多くが戦死した、と。どうやら本当のようだ。

 話だけ聞いてやろうと思ってたが、こいつが本当に魔王のような気がしてならなくなってきた。


「お前、もしかしてほんとに魔王なのか?」


「だから最初からそう言ってるだろ。」


 うへぇ~こりゃほんもんだな。

 ただし、なんで俺?俺が見つけたから?


「ていうか、死にたいんならそこら辺から人間を搔っ攫ってきて殺してもらえばよかったのでは?」


「どうやら俺はあれらしいんだよ。神の加護を持ってるやつが近づいてきたら魔物たちが察知するらしい。俺が人界へ逃げて部下たちに捕まえられたときに脅しみたいな感じで言われた。」


 魔王は苦労が絶えないものらしい。自分の意思を突き通させてくれないんだな。


「それで、俺みたいな神の加護が薄いやつを探してた、ということであってる?」


「そうだ、そういうやつがいることを願ってここで待ってたんだ。お前がいてくれて本当に良かったよ!

 ということで俺を殺してくれ。」


「……」


 こいつは、これまでの話。といってもそれもほんの一部だろうがここにいたるまでの話をした後に再度俺に対して殺せといった。それもすがすがっしく。


 そんな俺は、ガイアに対して投げかける言葉としてよいものが浮かばなかった。

 こいつの意見はまっとうなのかもしれない。自分が目指しているのは魔物と人間の共存で……その目指す場所を達成するには自分という存在が邪魔だからこそ死のうとする。こんなバカそうなのに結構理論的だ。


 だが……。俺は理論的になれない。



「お前は……それでいいのかよ。人間の誰にも近づくことができなくて、ようやく話せる奴が現れたのにそいつに殺されたい、だなんて。その感じなんだったら誰も殺してないんだろ?じゃあ、お前は悪くない。お前に罪なんてないだろ。」


 ガイアの話を聞いた感想としてまっとうなことを言ったはずだ。

 だが、返答は俺が思ってたものとは少し違った。


「……いいや、俺は悪い。俺は悪なんだ。悪は罰せられるのが世の常。だから殺してくれ!」


 ガイアは両手を広げ、いつまでも笑顔のままでいる。

 自然と握るこぶしには力が入っていた。腹が立ったとは少し違うが、それでもガイアに対して少しは負の感情を抱いたのだ。


 そんなガイアの言い分、言い方は俺を納得させようとするものではなく、自分を納得させようとするかのような言い方だ。自分のことを悪だっていう奴なんて……。自分を納得させて死のうとするなんてそんなの……。


「そんな自己犠牲、認められない。」


 これが俺の答えだ。それを認めてしまったら、俺が俺でなくなってしまう気がする。

 だから……


「俺はお前の力にはなれない。」


 俺の言葉を聞いたガイアはその広げた両手をゆっくりと下に下げ、少しの沈黙の後口を開く。


「…………。そう、…か。

 すまんな。時間取らせて。」


 それでも、ガイアは笑顔なままだった。だが、その張り付けた笑顔の奥にある感情がとても寂しそうなものであることは分かった。さっきまでの元気そうな満面の笑みではない。そもそもとしてそのこと自体がおかしかったのだ。こいつが常に笑顔だったこと自体が。

 ずっと一人で、これまで誰とのかかわりもなかった。

 そんな奴が誰かとの関りを持てたと思った瞬間に、その関係を切られることはとてもつらいはずだ。だからこそ今、これだけの孤独を感じている。

 このまま何もせずに見て見ぬふりすることも、俺にはできそうにないな。



「お前さ、トンカツ食ったことあるか?」


 俺の唐突な問いに困惑したような表情を浮かべるガイア。だがしっかりと返答はしてくれた。


「……ない、な。初めて聞いた。」


 続けて俺は問う。


「そうか、それじゃ遊戯はしたことがあるか?」


「それも、ないな。」


「歌や楽器、祭りなんかは知ってるか?」


「それもあんまり……」


「そうか。それじゃ、トンカツを食わせてやる。それと遊戯もいくつか教えてやるし、楽器とかも持ってこよう。

 俺もしたことがない楽器がいくつもあるから一緒にやろう。あとはほかには何だろうな……。」


 そんな俺にかぶせるようにガイアは口を開き、問う。


「ど、どういうことだ?さっきから何のことを言ってるんだ?」



 困惑しているガイアに俺は俺の意見をぶつけた。

 こいつに対して抱いていた不満みたいなことなものかもしれない。


「お前にこの世界の楽しみってやつを教えてやるんだよ。この世界には楽しいことが多い。娯楽が多いんだよ。この世界にある物語なんかも面白いのがたくさんある。だからそれをお前に教えてやるんだ。」


 俺のしたいことやりたいことを聞いたガイアは、それでも困惑していた。


「なんで、お前は俺にそこまでしてくれようとするんだよ。俺は魔王なんだぞ。早く死んだほうがいいやつで、人間と魔物の共存を邪魔するものでしかない。俺はお前にそんなことをしてほしいんじゃない、俺はお前に殺して……。」


 まったく、こりゃため息が出ても仕方ないな。こいつは一つも自分の意見を曲げないらしい。頭の固い奴め。

 そうして、ガイアの言葉にかぶせるように俺は口を開く。


「俺はお前を殺したくない!俺はお前の友達になりたいんだ。」


 その言葉を聞いたガイアは心底驚いたような表情になった。この短い会話の中で初めて見た表情だ。


「お前はこの世界の娯楽を全く知らない。それらをまだ体験していないのに死のうとするだなんて、そんなのひどい我儘だ。

 全部教えてやる。全部一緒にやってやる。

 そうして、この世界の楽しみをいっぱい知ってからもう一回聞いてやるよ。本当に死にたいのか?ってな。」


「キリアス、お前……。」


 ガイアは俺の眼を見ている。やはり不安なのだろう。これまで一人だったからこそ、誰かと友人のようになるのが憚れるのだろう。何となく、前世の頃の俺もこんな感じだった気がする。


 そうして、俺はガイアの不安をすべて消し去るように満面の笑みを浮かべ、答えるようにガイアの目を見る。

 そんな俺を見て、ガイアはようやく納得してくれたらしい。


「あぁ、よろしく頼む。

 教えてくれよ、この世界の楽しみとやらを。」



 ガイアは……笑っていた。

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