魔王編1 調査クエスト
「くっ、…ううう。」
俺は馬車から降りた後、思いっきり体を伸ばした。
これだけの距離を馬車で移動しようとすればそりゃ体が固まるに決まってる。
俺はそうして、周りの景色をざーっと見た。田舎も田舎、というかただの森。
周りに人気は全くなく、俺も初めてきたところなのでまったく土地勘がない。シータギルドの担当地区ぎりぎりを攻めてんじゃねえよ、カソールの野郎に後で言っておいてやらないとな。
「何か感じるか?ラズ。」
「なーんにも感じないかなー。ミーちゃんが言ってた禍々しい、ってのもカソール君の勘違いだと思うけどなぁ。」
今から2,3時間ほど前
「調査クエスト?」
俺は今日も今日とて朝っぱらからシータギルドに来ていた。ギルドについた瞬間にミールから告げられたのは最近であれば結構珍しい調査クエスト。
「そう。今さっき猟人のカソールさんが教えてくれたんだけど。場所がすっごく遠くの洞窟なんだよね。それにカソールさんが言うにはとっても禍々しい雰囲気を放ってたらしいの。実力者に行ってほしいけど、……」
そういって、ミールはギルドの床やらテーブルやらで寝ているドンキたちのことを視界の端に入れながら……
「ほかの皆はあんな感じだから。それに遠くの洞窟でもキリアス君の転移魔術があればすぐ帰ってこれると思う。ちょっと行ってきてくれない?」
きっと、ただの調査クエスト。強い魔獣とかが居座っているだけだろう。確認されている被害もあんな場所じゃ絶対にないし、カソールが無事に帰ってきているのだ。
「禍々しいってのがちょっと怖いけど、大丈夫だろうな。」
それに最近はここら一帯では全く事件が起きてない。
俺の人生の中じゃもはや珍しいくらいだ。
「馬車は用意しておくからよろしく。
いってらっしゃい!」
笑顔で送ってくれるミールに対して、俺も同じような顔をしてギルドを出る。
「あぁ、行ってきます。」
という感じで、調査クエストを達成するためこんな森の中に来たわけだが……こんなだだっ広い森の中から洞窟を探さなきゃいけないんだよな。
今回の調査クエストはくそほどアバウト。どこに件の洞窟があるのか全く分からない。猟人のカソールがその時慌てすぎて、まったく場所を覚えていなかったのだとか。
場所がわからないとなれば、動き出そうにも動き出せない。ということもあって、準備中に地図を売っているところにその洞窟の情報と周辺の地図が売ってないかを聞きに行ったのだが、 答えはNO。そんなところの地図を作ったところでだれも買いやしない、だから作ろうともしないね。もちろんそんな洞窟知らない。
、だそうだ。
「とりあえず手分けして探すしかないな。」
俺の提案を肯定的に受け取ったラズはいつも通りの寝起きのような腑抜けた声で、自分たちの調査する場所を決める。
「そだねー。じゃあ主、東。
私、西―。」
「はいよ。」
そうして、俺たちは手分けして森の中からその洞窟とやらを探すことにした。
しばらく探索していた時に気づくことがあった。それは森を進めば進むほど動物の数が少なくなり、魔物の数が増えていることだ。少し妙。こういう特徴は、大体ダンジョンができたりした時に起こることだ。
何もなければ、こんなこと起こるはずがない。
この先に件の洞窟がある。また、その洞窟には魔力的な何かがある。
森がそれを伝えているようだった。
そうして、感覚的に洞窟がある場所へ俺は足を進めた。
そこには一つ、確かに洞窟があった。洞窟の周りに一つの草木も生えておらず、太陽の光が当たっていて一目で洞窟だということが分かった。
調査クエストの内容では禍々しいだとかなんだとか言っていたがそんな風には全く感じない。それどころか拠点として使えそうなほど居心地がよさそうじゃないか。
洞窟というのが少しネックだが……。
なんてことを考えながら俺は洞窟のそばまで行った。
洞窟の中を覗こうとした、その時。
(主、そこから今すぐ逃げて!!)
ラズの念話の声が聞こえた。それもめちゃくちゃ念話の声がでかい。
その言葉の意図に俺が困惑し、反応しようとした時……後ろから一つの声が聞こえた。
「おぉ!待ってたんだよ、お前みたいなやつ!!」
なんてことを言いながら俺に抱き着いてくる若い男がいた。
とてもラフな格好をしていたが体が汚れているわけではなさそうだ。
意味の分からないことが同時に起こってどっちから対処すればいいのやら……。
慌てた俺はとにかく目の前のことを片付けることとなる。
「一体何のことだ?!やめろ、放せ!
誰だよ、お前。急に抱き着いてきやがって。」
そうして、俺は抱き着いてくる男を引っぺがした。
まるで友達感覚のようだ。
「おぉ、すまんすまん。ついテンションが上がっちまってな!」
なんて言いながら顔の前に両手を合わせておちゃらけ風に言ってくる。
そんな姿にまた困惑していると、念話の中でラズが溜息を吐いているのが分かった。
念話でため息ってどゆこと?
全く目の前の件が片付いていないが、ラズを放置するのもあれだろう。
念話を使ってラズの様子をうかがうことにした。
(どうしたんだよラズ。逃げてってもしかしてこの男からか?
殺意とか一つも感じないぞ。)
そんな俺になぜだか、憐みの言葉をかけてくる。
(あるじー。ドンマイ。)
(???)
「とにかく立ち話もなんだし、家の中で話そうぜ。」
そういって、目の前の男は洞窟の中に入っていった。
一度落ち着きたかったし、嫌な気はしなかったので俺は男の後をついていく。
その洞窟の中には人間一人が生きていくのに最低限のものが置いてあった。
簡易な造りだが、ベッドであったり、ソファーがある。
すべて自然のものから手作りしました感満載のものだ。
洞窟の中の感想を抱いている俺にまたも念話で声をかけてくるラズ。
(あるじー、念話で安否確認していたいんだけどさぁ……ずっと念話してたら私が気持ち悪すぎて吐きそうだから念話のパスを切っとくね。)
(は?どういうことだってばよ。
そういうことじゃないのかもだが、念話が嫌ならお前がこっちに来たらいいんじゃないのか?場所は何となくわかるだろ、俺がいるんだから。)
(そんなことしたらいよいよ発狂しちゃうよ私。……まぁ、とにかく今すぐにでも念話を切りたいから切るね。じゃあねー!)
そして、それ以降ラズからの念話が聞こえてくることがなかった。全然訳が分からん。安否確認なんて言ってたが、そもそもこいつから危険性を感じない。
それに俺だって一応はAランク冒険者なのだ。そう簡単に殺されてたまるかってんだ。
ラズの行動にクエスチョンマークを浮かべていた時。表情を変えないままこの男はこう問いかけてくる。
「どうやら、お前の連れは結構な手練れらしいな。
なかなかの魔術師なんじゃないか?」
「……?連れって…俺は一人……。」
いや待てよ。
さっきのラズのタイミングでこいつからこのセリフが出てきたってことは……。
「まさか、お前。さっきの念話が聞こえてたのか?」
「ははっ、さすがに念話の内容までは聞き取れねえさ。ただ、魔術的干渉みたいなもんが切れたくらいは分かる。」
「そうか。……後、俺の連れは魔術師じゃなくて精霊だな。」
「ほぉ、お前は精霊使いなのか。にしては魔力みたいなのが……あれ、なんだな。あれか?
魔力っぽいのが少なくても精霊と契約はできるのか?」
「できるんじゃないか。俺は詳しくないから知らん。あっちから勝手に契約してきたんだ。精霊事情に俺は詳しくない。精霊使いでもないし。」
「そういうやつもいるもんなんだな。
それで、お前の名前は?」
「キリアス、冒険者だ。そっちは?」
「俺の名前はガイアだ。お前が冒険者とはにわかには信じられないが、お前の顔は優しそうだから信じてやろう!」
なんでこいつはちょっと上から目線なんだ。
見た目からして俺と同い年だろうに。
「それで、冒険者のキリアスはなんでこんなところに来たんだ?ここには何にもないぞ。動物も少なくてこっちも生活に困ってるくらいだ。」
そこで俺は当初の目的を思い出し、それとなくガイアに伝えることにした。
「そういえば肝心なことを忘れてた。俺はこの洞窟の調査を任されたんだ。この洞窟から禍々しいものを感じるっていう報告があってな。
何か知らないか?というか、この洞窟に住んでるのがお前なんだからどういうことかくらいわかるだろ。」
「もちろん、わかる!」
胸を張ってそんなことを言うガイア。急に大きい声を出してどうしたんだ。
実は魔物と共存してます的な感じだろうか?もしもそうなったら、世界的に魔物と人間が共生することへの一歩になりそう。そんな世界があったらいいなぁ。
「それで、いったいどういうわけなんだ?」
ガイアにそう聞きながら、理想論のようなことを頭の中で並べようとしたその時に、その事実は発せられる。
先ほどから、俺の頭の中にはどんどん情報が流れ込んできているし理解できないのに。その上にまたも飛んで目革新的な情報を聞いてしまうことになる。
「それは、俺が魔王だからだ!」
「…………………………‥は?」
………………………………は?




