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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 魔王編
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魔王編0 世界への復讐

 これは……一人の少年の物語。

 世界に絶望し続けた少年は、世界への復讐を誓う。



 少年の物語に必要な要素は正義だった。

 正義とは何かを問い続け、信じたはずの正義に裏切られた少年は雨が降る日に自身を悪と定義した。





「……。……。」



 雨が降る日……。これまで何度も失い続けたのに、この日にもまた……これまでと同じように少年は失った。


 ……少年が持つ何もかもを。




 少年は雨に打たれ、立ち尽くし、空を見上げる。もうその足は動かない。

 どれだけ走ったかわからないが、とにかく逃げた、逃げた……逃げた。


 その運命から……正義から逃げたのだ。



 空を見上げてもそこに美しい空はない。

 また、その瞼が閉じることはなく、その瞳に光が蘇ることもない。



「ああぁ!

 ……ああああああ!ああああああああああ!」



 少年は叫ぶ。

 理由なんてない、自分の無力を恨むのみ。



「父さん!あぁ、父さん!……なんでだ、なんでなんだよ!」



 顔はもうすでにぐちゃぐちゃで、涙が出ているのかなんてわからない。

 その雨は激しさを増していく。少年の後方からはサイレンの音が鳴り響いていた。



「なんで正義は、俺から全てを奪う?!俺は正義になろうとした!恒久的な平和を……ただそれだけを願ったのに!

 ……。俺は!必死に!必死に……」



 そうして、少年はその場でうずくまる。

 目の前にある信じたくない真実から目を背けるために……。



「……俺が悪だからか…。俺自身が悪だからなのか?!

 だから正義は俺からすべてを奪うのか?!

 もしそうなら……そうならば……」



 少年は強く歯を食いしばる。涙は雨に流されても、血の赤だけは流されない。少年の瞳から流れるのは涙ではなく赤。


 その瞬間に少年の世界から色はなくなった。



 少年の願いの全てが裏切られた。少年の信じてきた理想は、何もかもが出来過ぎで、世界はそれを認めない。眼中にも入れない。

 それがこの世界というものだったのだ。弱き正義に価値はなく、むしろ邪魔な存在である、と。




「……ならば、俺は悪になる。正義を潰す!

 世界は俺から何もかもを奪うのだ、ならば俺はこの世界の何もかもを……悉くを滅ぼす……!」




 その時だった。瞳の全てが赤に充血したとき。

 世界に絶望し、復讐を誓った……その時……。




「僕が君に力をあげよう。」


 少年がうずくまる後ろからその声は発せられる。

 明確に聞こえるその声は男なのか女なのかわからない、とても中性的な声。

 黒いローブを深くかぶり、彼のものは少年に語り掛ける。



 少年はその瞳で彼のものを睨みつけた。

 家族以外はすべては少年のものは少年からすれば敵でしかないから。


 そんな様子を見て、彼のものは軽い口調で少年に語り掛ける。


「まぁまぁ、そんなに怖い顔しないでくれよ少年。

 僕は君を助けたいだけなのさ。」


「……誰だ、お前は?」


「えっと~……それは、僕の役職?それとも名前?どっちかな。」



 彼のものの問い方はまるで少年を煽っているような、とにかく人間のことを心の底からバカにしているものの喋り方。

 少年はより警戒を強める。


「ははっ!ごめんね、ちょっと意地悪だったかな。

 そうだなぁ……。」


 そうして、彼のものは少し言い淀む。

 ほんの少しの沈黙を要した後、口角を上げ彼のものは口を開く。


「僕のことは観測者と呼んでくれ、いずれそう定義される名称だが別にここで語ってもいいだろう。

 役職は魔法使い。魔法の力で君に特別な力を与えることができるのさ!」




 魔法使い。この世界では聞きなれることのない役職。


 ただ、観測者であり魔法使い。

 かつ、この地域であるならば……。


 少年はすぐにこの存在がどういった存在なのかを把握しただろう。



 この英国において、伝説的な魔法使い。最果ての地、アヴァロンに身を置き、その千里眼を使い人間を常に観測する。



「お前は、まさか……あのマーリンなのか?

 アーサー王伝説の……。」


 だが、その問いを聞いた後の観測者の反応は少年が思っていたようなものではなかった。その返答に妙に違和感があるからだ。


「そのアーサー王伝説とやらもマーリンとやらも知らないけど、君がそう思うならば僕はそのような姿になっているはずさ。僕はそういう存在だからね。

 ……それで、君は力を受け取るのかな?

 ……欲するかい?世界の悉くを滅ぶす力を。」


 そして、観測者マーリンは少年に手を差し伸べた。



「僕に見せてほしいんだ。君の復讐劇の終幕を。」


 ただ、ガイアは差し伸べられたその手を信じることができなかった。

 信じてきたものすべてに裏切られたからだろうか。疑い以外の念を持つことなどできはしなかった。



「……どうせ、お前も利用するだけなんだろ?」


 その問いに、観測者マーリンは口角を上げすぐに返答する。


「そりゃそうだとも。ただ、その理由だけが強大な力を拒否する理由になるのかい?

 君の気持ちや思いはそんな程度のものということかな?

 ……いいや、そうじゃない。そうじゃないんだろう。

 僕が君のことを利用してもしなくても君が世界を滅ぼすことができる力を得るということは変わりない。この手をつかみたまえ。そうすれば、君の願いはすべてが叶う。

 あいつだって殺せる。あの憎たらしかった組織だって簡単につぶすことができる。君が信じたかった正義だって……。

 ……この世界だって簡単に壊せるのさ……!」



 フードで目は隠れているはずなのに、その話し方、声の抑揚を聞くだけで、その瞳がどれだけ狂気に満ちているのかがわかる。


 その言葉を聞いた少年は自らの魂に決意する。この人生の道を一つに決める。

 ……そして、少年はマーリンの手を取った。



「オーケー。だが、すぐに力を貸すわけにはいかないんだ。

 君には試練を受けてもらわなきゃいけない。その試練を超えた時、世界を滅ぼす力を得る。

 僕ができるのはその場所を教えるだけさ。

 ……東にある沼地。それを超えた先の森に洞窟がある。君ならば、簡単に見つけられるはずさ。」



 その言葉から一拍をあけ、観測者は声に出す。

 その本当の目的を。観測者が求めるものを……。


「……楽しみにしておくよ。

 ……君の終幕を……。バッドエンドを……!」




 そして、彼のものはその場から消えた。正真正銘、瞬きの後に消えたのだ。

 それを確認した少年はほんの少しの困惑も抱かず、教えられたその場所へ足を運んだ。





 雨が降りしきる中、少年はその沼地を気にもせずその場所を目指す。沼地を超えた先にある森。そしてその森の中には本当に洞窟があった。ただし、その洞窟が放つものは言語化することが不可能なほどの邪悪を感じさせるもの。




 少年は躊躇いなくその洞窟の中に入る。


 洞窟の暗い影に身を投げたその直後、少年の視界は一瞬にして闇に支配された。

 何も見えず何も感じない。目を開けているはずなのに、光が届くことはない。


 ……そこで少年は意識を失った。






 意識が蘇り……その目を開けると。


 ……目の前には棍棒を振り上げる、ゴブリンと呼ばれるモンスターがいた。いくつかの物語で見てきたことのある怪物。


 そして、振り上げられた棍棒は一直線に少年に向かい、少年の上半身を削り取った。

 少年は何が起きたかさえ理解できないまま……意識を落とした。




 次に意識が蘇り、目を開けると、目の前にはあまりに大きい蛇。サーペントと呼ばれる怪物がいた。


 サーペントはその長く大きい体をうねらせ、とんでもない速度で少年に近づいた。少年は逃げようと足を動かしたが、それより先にサーペントの胴体は少年の体をとらえていた。少年の体にサーペントは胴体を巻き付け、その体を締め付ける。息を吐いたタイミングでその締め付けは強くなり、どんどんと息が吸えなくなっていく。


 少年の擦り切れかけている思考の中が、『苦しい』で埋め尽くされる。

 そして、それが数度繰り返された後……サーペントは少年の身体を丸のみにした。


 そうして、少年は意識を落とした。





「……。」



「……!」



「…………………………………………………………」





 何度少年は死んだろうか?

 空想上のモンスターは容赦なく少年を殺して、少年はその度意識を落とし、また意識を取り戻し殺される。それの繰り返しだった。



 少年はこの現象がマーリンの言っていた試練だということを理解した。この空想上のモンスターを倒さなければいけない。すべてで二十種のモンスター。だが、そのモンスターの全ては異常なほどの強さを持っていた。



 倒すことなんてできるはずがないほどの強さ。

 何度も少年はあきらめようとした。だが、諦めても絶望しても自分の意識はまた戻り、また殺される。

 その度に死を経験するのだ。





 痛い、苦しい、辞めたい、熱い、寒い、……死にたい……



 その度少年の精神は擦り切れていった。擦り切るものがなくなっても少年は死ぬ。

 精神が壊れても、どれだけ叫んでも、化け物が少年を殺すことは止まらない。



 少年が抵抗する力はとても弱いもので、モンスターに通じるものではない。

 精神が擦り切れるたび、生きようとする気持ちは失せたが、生きなければいけないという本能が働きだしたのだ。


 死んではいけない、目の前にいる敵を殺して、生きようとしなければならない。

 これまでの弱弱しい抵抗とは違い、少年の抵抗は野生的なものへと変貌していった。


 もはやそこに意思はなく、自分が人間であることはその意識からは失せていた。







 そして……そして……そして……。



 ……少年は勝ち切った。すべてのモンスターを殺したのだ。

 その瞬間、少年の視界は闇に包まれた。洞窟に入った、あの時のように。






 頭の中で響く声が一つ。その声は少年がこれまで聞いてきたことのない言語だった。

 もはやそれは言語なのかどうかも判別できない。判別しようとすること自体が間違っているもの。

 しかし、その不可解な声は聞くだけでその意図がわかるものだった。


「小僧。我が力を授けよう。この世の全てを侵略し、その力を示せ。

 授ける力は三つ。

 二十の眷属。二十の権能。そして、邪剣。」




 その言葉が聞こえた瞬間、暗黒で満たされていた少年の視界に現れたのは禍々しく邪悪な気を放つ大剣。


「小僧。さぁ、手に取れ。

 この力は小僧にのみ許される力だ。」



 少年はゆっくりと手を伸ばし、その剣に手を触れた。

 手に触れた瞬間にその大剣は邪悪なる粒子群となり、少年の魂と結びついた。



「記憶はすべて共有された。願いを叶え、小僧の言う幸せとやらを敬おう。

 今、我と小僧は同一存在となった。……世界を侵略せよ。そして、我が願いを聞き届けよ。」




 ……

 ……

 ……






 そこは王の間。世界を侵略する魔王はその玉座で頬杖をついている。

 玉座の前に頭を垂れるは20の眷属王。



「貴様らは我が眷属。この世に現界せしその身を我が復讐の糧にせよ。」


 魔王の言葉に反応するように、20の眷属王は口を開く。


「「我らが王たる魔王様。我が身はもとよりあなたのもの。

 この身、この力の全てをあなたに捧げましょう。」」


 少しの沈黙を要した後、魔王は立ち上がり眷属王へ命令を下す。


「ならば、行け!これより、侵攻を始める!

 この世の悉くを滅ぼしつくす。」


「「御意、我が魔王様。」」



 20の眷属王はその目的を遂行するため、王の前から姿を消した。






 そして、侵攻は始まる。

 世界を滅ぼすその力は……結果としてこの世界の全てを滅ぼした。


 魔王の目的は……遂行されたのだ。







 そこで魔王は目を覚ます。何が起こったかはわからない。記憶がすっぽり抜けている感覚……。それと、頭の後ろに何やら柔らかい感触があることは分かる。


「おはようございます。魔王様。」


 何度も聞いたことがあるような気のする声。なぜかその声を聴くと心が温かくなる。

 そして、その声を聴いたときに頭の中に蘇る名前があった。


「……ヘティー?」

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