冒険者編、最終話 あの日々の答え
街を復興し、ギルドの冒険者としての活動が再開するまでには二年の月日を要した。
その期間中は常に街の復興作業と、ほかの街からの支援の対応などでいっぱいいっぱいな日々を送っていた。
復興作業は行方不明になった人たちの捜索から始まり、瓦礫の除去、公共施設の復旧、などなど……。
その間も冒険者としての活動自体は何度かあった。
ギルドを通しての金稼ぎとしての活動はなかったが、復興作業のための活動自体は多く、大変な日々を送っていた。
それでも、グルークたちが返ってきてからはあの騒がしい夜を送れるようになって、みんなの笑顔は少しずつだが増えていった。
そんな様子を見るのが俺は好きだった。
ドンキが中心になって、酒を飲み、笑いあう。
その中には町のみんなもラズもグルークもいた。本当にみんな楽しそうだ。
宴会が開かれている中、俺は水の入ったコップをもって、宴会から少し離れたベンチに腰かけていた。
俺はあの中にいるよりも外からその様子を見ている方が好きなようだ。
そうしてゆっくりしている俺に、声をかけてくれたやつがいた。
「どうしたの、キリアス君?疲れた?」
ミールだ。
ご飯を盛り付けている皿をもってこちらに来てくれた。
「疲れた…ってのもあるかもな。ただ、あいつらのノリは俺には早すぎる。
……でも、あいつらが楽しそうにしてるのを見るのは好きだな。」
「ふ~ん、そっか。」
ミールはそういうと、俺と同じようにベンチに腰を掛け、宴会をゆっくり眺めるようだ。
「……ねぇ、キリアス君。
私ね、この町が好きなんだ。」
「……俺も、好きだな。」
「町の見た目とか、利便性とかじゃなくてね。私が好きなのはこの町の人たち。
シータに住んでるみんなのことが……私は好きなの。
老若男女、いろんな人がいて。……でも年の差とか関係なくみんなが互いに、友達みたいに笑いあってる。
新しく入ってきた人でも、ああやってお酒を飲んでご飯を食べてすぐに街に溶け込んじゃう。キリアス君が来た時だってそうだったでしょ。
……。
この町はそういう街なの。」
「あぁ、そうだな。あの日もこの宴には助けられたもんだ。」
「……何度も言ってるけど改めて。
この町を守ってくれて本当にありがとう。
私はこの町のみんなのことが好きだけど……」
少しの間を開けて、ミールはこう告げた。
「……キリアス君のことは大好きだよ!」
「……。
え?!い、今のって……。」
驚いて、ミールの方を向くとミールは俺にそっとキスをした。
「……!」
そうして、ミールはすぐその唇を離した。
ミールの顔を見るとミールの頬は赤くなっている。
そんな表情で、かつ上目遣いになって……
「ど、どう?」
なんて、俺に対して聞いてくる。
その様子はとても可愛くて……でも、少し可笑しくて……。
「……。
ぷっ。なんだよそれ。」
「な、なんだよって何よー?!」
俺は勢いよくベンチから立ち上がり、座っているミールに手を差し出した。
「俺も大好きだ!
行こうぜ、ミール。」
「……うん!」
そういって、ミールは俺の手を握ってくれた。俺の右手がミールの左手と重なる。その事実はとてもうれしいもので、景色や何もかもが、すべて色づく。
そして、俺たちは宴会の中でみんなと一緒に笑いあった。
この町は常に生き生きしている。
みんなが友達でみんなが家族。
この夜はとても楽しいまま、いつも通りの明日を迎えた。
シータギルドが冒険者活動を再開させる日に、ドンキはシータギルドの冒険者全員を集合させていた。
みんなの前にドンキがたっている。
こういう時だけ……
(あぁそういえばこいつギルドマスターだったな)
なんて、思ってしまう。
「今日から、俺たちシータギルドはようやく冒険者として活動を再開することができるようになった!!
こうして再開できるようになったのも、シータを復興できたのも、ここにいる冒険者と町のみんなが必死になって協力したからだ!!
ギルドマスターの俺から感謝をする、ありがとう。
そして相変わらずギルドマスターを続ける俺からは、このシータを救った一番の功労者に渡さなければいけないものがある!キリアス!前に来い。」
何となく、そういうことがあるということは知っていたが、まさか、冒険者全員の前でするとは思わなかった。
「ま、前に行くのか?」
躊躇している俺をラズが引っ張って前へ連れていく。
「ほらほら、主!早く行くよ!」
ラズに引っ張られながら、俺はみんなの前に立った。俺の様子とは別に、ラズはとても堂々と周りの冒険者に手を振っている。
前に出てきた俺の方に、ドンキが向き直り、一つの称号を差し出した。
「……これを受け取ってくれ。
キリアス。」
そうしてドンキが俺に渡してくれたのは……
「Aランク……昇格証明書。」
「お前は今日から……Aランク冒険者、
キリアス・ルドルーファだ!」
その瞬間、ギルドの中が大いに盛り上がった。
グルークや他Aランクの冒険者も拍手して俺のことを歓迎してくれているようだった。
「主!
すごいよ、Aランクだよ!」
周りの空気と同じようにラズはキラキラした目を俺に向けている。
ただ、何となく……この状況に心がついていけていない。
「あ、あぁ……。」
そんな俺にドンキはいつものような明るい表情を見せながら、俺の肩に手を置く。
「おいおい、どうしたんだよキリアス。
Aランクだぞ。喜ばないのか?」
「あ、いや。こういう時なんて言えばいいか……その……わからなくて……。」
みんなの前のはずなのに、
俺は涙を流していた。
「今の想いをそのまま言えばいいんだよ。
悲しいってわけじゃないだろ?」
いろんな冒険者に会ってきた。いろんなクエストをこなした。いろんな経験をしてきた。
たった、五年。……そうだ、たった五年だったのだ。
冒険者になることを誓ってから五年。
転生してからというもの、何が正解で、どこを目指せばいいのかも、何もわからないような日々を送っていた。
俺がこの世界に来た理由も、転生できたわけも。
全部不明なままだ。
正解なんてわからない。目指すべき場所もわからない。
だが……正解があるのかどうかなんて知る必要がない。
あの日あこがれた瞬間移動は間違いなんかじゃなかったんだ。
あの世界で暮らしたあの日々は、正解なんかではなかったのかもしれない。あの世界に生きるほとんどの人から否定されるものだったかもしれない。
……でも、それでいい。
だって、目の前のこの光景こそが……あの日々の証明なんだ。
俺の……答えなんだ。
「……ありがとう。
俺は……この街が、このギルドが大好きだ……!」
こうして、俺は……キリアス・ルドルーファはAランク冒険者となった。
Aランクの冒険者はすべてのギルドを合わせても二百人いないほどの実力者。
俺が仲間入りできるようなものでは、決してない。
だが、俺は歴としたAランク冒険者。
このギルドに……俺の大好きなシータギルドに認められた、冒険者なのだ。
俺の物語は終わらない。
俺の冒険が続く限り。




