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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
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冒険者編34 ありえざる事象、空間魔術

 俺がミールの元を離れ、街の中央付近、魔力の集中している場所へ向かうと、そこには、無傷で棒立ちしている竜人と、魔力を使い果たして喘いでいるラズがいた。

 そんならずに俺は声をかけた。


「ラズ、お疲れ。」


「はぁはぁ……もう避難し終わったの?早いね。ようやく休めるよ。」


「あぁ、安心して寝ててくれ。」



 そうして、ラズは実体化を解き霊体に戻った。

 すまんな、ラズ。嘘ついちまった。


 絶対に……絶対に、生きて謝る。




 そして俺は竜人と向き合う。

 右手には剣を、左手にはアーティファクトを。どちらもを俺は強く握りしめ、姿勢を低く剣を構えた。



 竜人と目が合い、こいつの異常性をまた心臓に刻み付けられる。


 苦しい。また……息ができなくなりそうになる。

 だが、そんな恐怖心を俺はすぐに跳ね飛ばした。

 ミールと約束したのだから、こんなところで負けるわけにはいかない。



 そして、俺は地面をけりあいつとの間合いを詰め、戦いは始まる。





 相変わらず、この竜人に知性もなければ戦術もなく、ただ目に宿る恨みの感情だけで動いているようだった。

 ただその動きは普通の竜人を限界まで強化したようなもの。


 通常の竜人の時は遅いからまだ対応ができた。だが、この竜人はもう遅くはない。


 王都騎士団の特訓で戦った副団長の攻撃ほどの速さ。間一髪で防げたり避けたりはできるものの段々と息をつく暇がなくなってくる攻撃だ。


 そして、一番はその破壊力。ただ戦っているだけで周りの居住地はどんどんと崩壊していく。



 その速さと攻撃力があるせいで俺は攻撃に移ることが一向にできない。できるだけ自分の力だけで耐え抜こうとしたが、さすがに無理があるときは転移魔術を使った。そうでもしないと対応しきれないのだ。


 どうにか隙を作りたい。

 隙さえあれば、あいつを倒すことができる。




 そこで、俺は一つこの現状を変えるため魔術理論を多重構築し、竜人の攻撃を避けながら上空を見上げ、持っている剣を本気で自分の真下へ投げた。

 通常であれば、この行動は常軌を逸したものだろう。ただし、これはこれで一つの必殺技ではある。



 投げた瞬間にできる最大限の高さに俺はその剣を転移させる。つまり、俺が使うのは重力だ。


 重力加速度を使って剣を最大限の速さにする。そして、その剣が地面につく直前にもう一度その剣を転移させ、竜人へと向けた。



 だが、それだけでは奴の隙を作ることはできない。奴には剣による攻撃は効かないのだ。


 だから……


「チェンジ。」


 重力加速度によって早くなった剣と俺自身をチェンジさせた。

 最大限の速さを持った俺は竜人に自分の足を向ける。



「はああぁ!!」


 竜人に渾身の蹴りを食らわせた。

 さながらライダーキック!!


 さすがの竜人もこの攻撃は効いたらしい。腹を抱え、苦しそうにしている。


 ……ただ腹を抱えるだけなのは少し残念だ。

 俺が考えた一番強い攻撃だし、とんでもないほど頭への負荷が強い。

 ……ただそれでも、これだけの隙ができれば十分。


 俺はすかさず、ポケットの中にある刻印石とラダーバの店に置いておいた剣をチェンジさせ、手元に剣を持ってきた。


 左手にあるこのアーティファクトがあれば使うことができるのだ。これまで成功したことのない、俺にしかできない必殺技を……。



 そして、剣を構え集中する。




 だが、腹を抱えていた竜人は急に大きく口を開けた。その様子は初めて見るものだ。

 その大きく開いた口の先に高熱線を放つ火球が生まれた。


「……!」


 あれは……ファイアボール。

 それも威力だけならラズが三年前に見せてくれたファイアボールよりも強い。そんな火球はどんどんと大きくなっていき、そのエネルギー量もどんどん上がっていく。


 あれが放たれればこの町どころか、周りにある平原すらも焼き尽くすだろう。それが感覚で分かった。



 つまり、あの攻撃を放たれれば……終わり。あの攻撃を放たれる前に倒さなくてはならない。


 どっちにしろ、このチャンスでしかあいつを倒すタイミングは……ない。背水の陣。その感覚が俺をより奮い立たせる。



 俺はミールにもらったアーティファクトを強く握りしめる。


「アーティファクト、リンク。」



 ミールにもらったアーティファクトと俺の体内にパスをつなげ、アーティファクトからの魔力供給を貰う。


 アーティファクトの魔力はとてつもないものだった。感じたことがないほど魔力が俺の体の中を駆け巡る。それと同時に俺の体温も跳ね上がる。


 ここからだ。俺の力を使うのは……。


「魔術理論、構築!」



 これまでたくさんの転移魔術を使ってきた。


 複雑怪奇な計算式。数字との戦い。脳内での計算速度が速すぎて頭がおかしくなりそうになったことなんて数えられないほどある。

 転移魔術を使っている間であれば、PCにすら引けを取らないほどの計算スピードを誇っていたと思う。



 だが、今の頭の中の計算はとても簡単であり、単純。

 ありえざる事象を式として作る。たった、これだけ。


 行ってしまえば『1=0』世界のルールを覆す。



 神経を集中させ、俺の体内魔力量がどんどん上がっていく。周りの空気が震えているのが分かった。


 そして俺は……詠唱を始める。




「この世界を隔てるものよ、この空間を創りしものよ。

 聞け!


 俺はこの世の理を引き裂くもの、

 ありえざる事象を創るもの!


 俺の名はキリアス・ルドルーファ!

 今、この力をもって空間の一切を切り伏せん!

 」


 そして……解放する。


 空間魔術。

 空刃・一閃!!


 」



 ありえざる計算式。

 それに見合うほどのとてつもないエネルギー。


 それをもって、この世界にありえざる事象を影響としてもたらせる。


 あり得ることのない事象を持つ剣戟。

 それこそが空刃・一閃。




 俺の剣は一直線に竜人の首に向かう。

 それと同時に竜人のファイアボールも放たれた。




 そうして、二つのエネルギーがぶつかり合う。

 そのエネルギーはどちらも同じ強さであり、エネルギーが競り合い続けている。


 だが、こちらとあちらの差は明確に存在した。火球のエネルギーは今もなお高まっている。

 それに比べてこちらは消費するだけだ。このままじゃいずれ押し負ける。


 アーティファクトの魔力を持ってして、俺の必殺技を使っても、この竜人には勝てない?



 いいや、違う。これには理由がある。俺がまだ、この魔術を完成させきれていないのだ。



 俺じゃ、この魔術を完成させられないのか?

 ここでこのまま、何もできず灰になるだけ?




 そんな俺の頭の中には、冒険者になってからの日々が描かれた。


 走馬灯…というやつなのかもしれない。





 初めて、シータに到着したときのこと。


 ギルドがどこにあるのかわからず、

 ラズに怒られていた時のこと。


 ようやく見つけたギルドでグルークや他の冒険者に歓迎されたこと。


 必死になってクエストをこなしていたこと。


 いろんな冒険者とのダンジョン攻略。



 様々な思い出が俺の頭の中で想起された。

 その最後に、




「とにかく俺らは全員このギルドを離れるから、ミーちゃんのこと、このギルドとシータのことは任せたぞ!」


 そういいながら俺の肩を叩く、グルーク。




「あははっ、それじゃ信用するよ?私のこと助けて……ヒーロー……!」

 俺のことを今も信頼して待ってくれている、ミール。





 あぁ、そうだ。


 ……これは走馬灯なんかじゃない。

 これは俺の弱さそのものだ。

 簡単に諦めようとしている俺を、俺自身が許そうとしないんだ。



 ……何、死のうとしている、キリアス。


 そんなのお前には似合わない。

 お前には守らなきゃいけないものがあるだろう!





 体内の魔力量がどんどん上がっているのが分かった。

 理由なんてわからない。


 ……だが、そんなことを考える暇なんてない、ということだけはわかる。

 ただ目の前の敵から、俺の護りたいものを守るんだ。


 剣を強く握り、俺はこの力に抵抗する。

 心臓を鼓動させ、後ろへ押されていた体を起こし、足を一歩前に踏み込む。



「お前に……!お前なんかに!

 ……俺たちのギルドを……みんなのシータを……ミールを奪わせて、たまるか!!

 はあぁ……っ……はぁっ!」



 その時……初めて俺の魔術は完成する。

 あれほど強いエネルギーも、あの皮膚の硬さも……この世の理さえも、すべてを貫通し、空間そのものさえ切り伏せる。


 俺の……魔法だ。





 その戦場に響いた最後の音は、竜人の首が落ちる音だった。


 俺は勝った。この街を、守り抜いたのだ。



 俺の体の中の魔力はもう一つも残っちゃいない。全身が痙攣し、右腕にいたってはちぎれそうなほど痛い。

 今すぐにでも意識を失って、倒れそうだ。


 でも……まだ倒れちゃいけない。



 俺はあいつのもとに歩いていった。右肩を抑え、足を引きずりながらだが、あいつのもとへ俺は向かう。

 俺の助けたい人のもとへ……。




「……!」


 そこには、両目を閉じたミールが仰向けになって倒れていた。


「ミール!」


 ふらついた足で俺はミールの元へ走り、ミールのことを抱きかかえた。


「ミール!死ぬな!お前のヒーローが全部守ってやったんだぞ!ちゃんと見ろ!目を開けろ!」



 俺は気が付くと、涙を流していた。

 大粒の雫がミールの頬に落ちる。


 俺はずっと、眠るミールに訴えかけていた。


 守りたかった。生きてほしかった。





 その時、とんでもない魔力がシータ全体を覆った。


 何が起こったのかを確認しようとしたが、その魔力の温かさを体が分かった瞬間に俺は眠りに落ちた。

 安心してはいけない状況なのになぜか安心してしまったのだ。


 そこで俺は、その意識を落とした。

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