冒険者編33 お前のヒーロー
「おい……ミール、ミール!」
俺はすぐにミールのそばに駆け寄り、ミールの上に載っている瓦礫をどかそうと、力いっぱいに持ち上げる。
このままではミールの命が……。
「ミール!死ぬな、意識をしっかり保ってくれ!」
それでも俺の力じゃ瓦礫はびくともしない。その間もミールからは血が出ている。呼吸も少しずつ弱くなっていく。
そんな様子を見ていた俺の瞳は、気づけば涙でいっぱいになっていた。
「死なないでくれ!ミール!」
こうなったら……
「魔術理論構築、転移!」
ミールを瓦礫の外に転移した。下半身はもう血だらけで動きそうにない。これじゃ逃げようにも逃げられない。
「クソッ!
治癒魔術を使える奴がいれば……」
俺はどうにか止血するため自分の服を裂こうとするが、そんな俺の手をミールの手が止めた。
「キリアス君……もう、大丈夫。」
片目だけを少しだけ開けて、ミールは俺のことを見つめている。
「大丈夫……って……大丈夫じゃねえよ!
このままじゃお前……死んじゃうだろ。」
「そういうことじゃないよ。
私はもう助からないから……。早く逃げて……。」
ミールはそういうと、唯一動く右手でポケットの中に手を入れ、赤い宝石のようなものを取り出し、俺に差し出した。
「なんだ、これ?」
「これね……お父さんとお母さんがギルドと一緒に残してくれた、アーティファクト。魔力が込められてるタイプやつね。
……。
……これを使ったら、キリアス君だったら逃げられる。『転移』だっけ、その力を使って逃げて。
このままじゃこの町もギルドも、もう助からない。
……でも、キリアス君が逃げて他のギルドに応援を頼めばあの竜人もきっと……倒せる。とにかく……あれを外に出しちゃダメ。」
ミールは……今すぐに死にそうなのに、俺が生きることを…ほかの人が助かる方を優先している。
そんなミールに俺は腹が立った。素晴らしい生き方なのかもしれない。自分よりも他人を優先する心優しい娘なのだ。
でも……そんなミールに腹が立つのは、きっと俺がミールのことを……。
「なんで……だよ。
そのアーティファクトはお前が生きていくために両親が残したものだろ。
……だったら、誰かのために使うんじゃねえよ!!
……お前が……。お前が、生きるために使えよ……。使ってくれよ……。」
「ねぇ、泣かないでよ。
ヒーローに涙は似合わないよ。」
そういって、ミールは俺の涙を中指でそっとぬぐった。死にそうなのに、もう意識を失いそうなのに、その顔は笑っている。
「ヒーローに……なるんでしょ。
なら、こんなところで死んじゃだめだよ。」
ミールは笑顔だ。笑っている。
……まただ。また、こいつは笑顔で本音を隠してる。作り笑いもいい加減にしてくれよ。
ただ、俺は自分にも腹が立った。
まだ、信用されてないのか?俺は弱いままなのか?と。
俺はミールを抱きしめた。
「なぁ、ミール。俺はそんなに信用できないか?
……本当のことを言っていいんだ。泣いてもいいし、弱音を吐いてもいい。
助けて……って言っていいんだ。
……俺はあの時、ミールに助けられた。あの時から、俺はヒーローを目指してる。
ただ、俺がなりたいのはみんなのヒーローなんだよ。
そのみんなの中には、この町もギルドも……ミールも入ってる。笑顔で本音隠すんじゃねえよ。」
俺がそう言うと、俺の胸の中でミールは震えだした。ミールが泣いているのがすぐにわかった。
すすり泣くような声が聞こえたからだ。
「キリアス君……私、死にたく…ない。助けて、ほしい。
……でも、もう助からないんだもん。
この町もギルドも、…私も助からない。だから、私がキリアス君に助けを求めちゃダメなんだよ。
キリアス君を死なせたくないから。立ち向かっちゃダメってキリアス君が一番わかってるんでしょ?
だから……」
ミールのその言葉にかぶせるように俺は口を開けた。
「分かってる。あいつがどれほど強いのか。……早く逃げなきゃ、って思ってた。
でも、誰かが……お前が助けてほしいって言ってるのに、逃げられるわけねえんだよ。だから……」
俺はそう言い、ミールの手元にあるアーティファクトを手に取り、立ち上がった。
「俺のことを信用しろ、ミール。」
「そんな……そんなの…」
それでもミールは俺の顔を心配そうな目で見ている。そんなミールの目を、俺はまっすぐに見つめる。強い意志をもって、希望に満ちた目で。そこにはもう、涙はない。
「あいつは俺が倒す。俺はみんなのヒーローになるんだ。
でも、今は、みんなのヒーローでもなければ、誰かのヒーローでもない。
お前の、ヒーローに……!」
俺の言葉を聞いたミールの表情は少しだけ柔らかくなった。
「あははっ、それじゃ信用するよ?私のこと助けて……ヒーロー……!」




