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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
43/52

冒険者編33 お前のヒーロー

「おい……ミール、ミール!」


 俺はすぐにミールのそばに駆け寄り、ミールの上に載っている瓦礫をどかそうと、力いっぱいに持ち上げる。


 このままではミールの命が……。


「ミール!死ぬな、意識をしっかり保ってくれ!」


 それでも俺の力じゃ瓦礫はびくともしない。その間もミールからは血が出ている。呼吸も少しずつ弱くなっていく。


 そんな様子を見ていた俺の瞳は、気づけば涙でいっぱいになっていた。


「死なないでくれ!ミール!」


 こうなったら……


「魔術理論構築、転移!」


 ミールを瓦礫の外に転移した。下半身はもう血だらけで動きそうにない。これじゃ逃げようにも逃げられない。


「クソッ!

 治癒魔術を使える奴がいれば……」


 俺はどうにか止血するため自分の服を裂こうとするが、そんな俺の手をミールの手が止めた。


「キリアス君……もう、大丈夫。」


 片目だけを少しだけ開けて、ミールは俺のことを見つめている。


「大丈夫……って……大丈夫じゃねえよ!

 このままじゃお前……死んじゃうだろ。」


「そういうことじゃないよ。

 私はもう助からないから……。早く逃げて……。」


 ミールはそういうと、唯一動く右手でポケットの中に手を入れ、赤い宝石のようなものを取り出し、俺に差し出した。


「なんだ、これ?」


「これね……お父さんとお母さんがギルドと一緒に残してくれた、アーティファクト。魔力が込められてるタイプやつね。

 ……。

 ……これを使ったら、キリアス君だったら逃げられる。『転移』だっけ、その力を使って逃げて。

 このままじゃこの町もギルドも、もう助からない。

 ……でも、キリアス君が逃げて他のギルドに応援を頼めばあの竜人もきっと……倒せる。とにかく……あれを外に出しちゃダメ。」


 ミールは……今すぐに死にそうなのに、俺が生きることを…ほかの人が助かる方を優先している。


 そんなミールに俺は腹が立った。素晴らしい生き方なのかもしれない。自分よりも他人を優先する心優しい娘なのだ。


 でも……そんなミールに腹が立つのは、きっと俺がミールのことを……。



「なんで……だよ。

 そのアーティファクトはお前が生きていくために両親が残したものだろ。

 ……だったら、誰かのために使うんじゃねえよ!!

 ……お前が……。お前が、生きるために使えよ……。使ってくれよ……。」


「ねぇ、泣かないでよ。

 ヒーローに涙は似合わないよ。」


 そういって、ミールは俺の涙を中指でそっとぬぐった。死にそうなのに、もう意識を失いそうなのに、その顔は笑っている。


「ヒーローに……なるんでしょ。

 なら、こんなところで死んじゃだめだよ。」


 ミールは笑顔だ。笑っている。

 ……まただ。また、こいつは笑顔で本音を隠してる。作り笑いもいい加減にしてくれよ。


 ただ、俺は自分にも腹が立った。

 まだ、信用されてないのか?俺は弱いままなのか?と。


 俺はミールを抱きしめた。


「なぁ、ミール。俺はそんなに信用できないか?

 ……本当のことを言っていいんだ。泣いてもいいし、弱音を吐いてもいい。

 助けて……って言っていいんだ。

 ……俺はあの時、ミールに助けられた。あの時から、俺はヒーローを目指してる。

 ただ、俺がなりたいのはみんなのヒーローなんだよ。

 そのみんなの中には、この町もギルドも……ミールも入ってる。笑顔で本音隠すんじゃねえよ。」


 俺がそう言うと、俺の胸の中でミールは震えだした。ミールが泣いているのがすぐにわかった。

 すすり泣くような声が聞こえたからだ。



「キリアス君……私、死にたく…ない。助けて、ほしい。

 ……でも、もう助からないんだもん。

 この町もギルドも、…私も助からない。だから、私がキリアス君に助けを求めちゃダメなんだよ。

 キリアス君を死なせたくないから。立ち向かっちゃダメってキリアス君が一番わかってるんでしょ?

 だから……」


 ミールのその言葉にかぶせるように俺は口を開けた。


「分かってる。あいつがどれほど強いのか。……早く逃げなきゃ、って思ってた。

 でも、誰かが……お前が助けてほしいって言ってるのに、逃げられるわけねえんだよ。だから……」


 俺はそう言い、ミールの手元にあるアーティファクトを手に取り、立ち上がった。


「俺のことを信用しろ、ミール。」


「そんな……そんなの…」


 それでもミールは俺の顔を心配そうな目で見ている。そんなミールの目を、俺はまっすぐに見つめる。強い意志をもって、希望に満ちた目で。そこにはもう、涙はない。



「あいつは俺が倒す。俺はみんなのヒーローになるんだ。

 でも、今は、みんなのヒーローでもなければ、誰かのヒーローでもない。

 お前の、ヒーローに……!」



 俺の言葉を聞いたミールの表情は少しだけ柔らかくなった。


「あははっ、それじゃ信用するよ?私のこと助けて……ヒーロー……!」

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