冒険者編31 攻略法
この竜人の異常性は鉤爪による殺傷性の高い攻撃だ。あれほどの攻撃はなかなかない。
上位種の魔物でもあれだけの攻撃を繰り出せるものは少ないのだ。
だが、竜人の本来の異常性は、そこではなかった。いや、もちろんだがその攻撃にも異常性はある。だがしかしそんなことよりも圧倒的に異常なもの。
それは……その鱗の肉質だった。
俺がそれに気づいたのは竜人の首に自分の剣を当てた瞬間だ。俺の剣は竜人の首に当たった瞬間から動くことはなかった。
俺はこの剣を全力で振った。この剣で様々な魔物を切ってきたからそれなりの自信があったのだ。
だからこそ、今から殺してしまうということで罪悪感を感じていた。
なのに、俺の剣はこの竜人には効かなかった。
感覚的にわかってしまう。ほんの少しも、俺の刃はこの竜人に食い込んでいない。竜人からすれば、ただ触れただけ。
そのように俺には感じる。
鱗の肉質があまりにも硬すぎる。
当然だが、こんな硬さの肉質はこれまで感じたことがない。
関心。驚愕。そして、恐怖。
様々な感情が俺の中で入り乱れている。
そうして俺がこの肉質に驚いていると、竜人は次の攻撃を放とうとしていた。
俺は慌てて後ろに下がり、竜人と距離をとり、ラズへ声をかける。
「おい、ラズ。……あの肉質……。」
「うん、……私も驚いてる。あの肉質の方が圧倒的に異常だね。鱗の硬さが尋常じゃない。」
ラズとそう言いあっていると、今退治している竜人の後方から二つの足音が聞こえてきた。先ほどと同様に恐怖を引き立てるものが俺の鼓膜を振るわせる。
報告通り、三人。
どうやら、これ以上はいなさそうだ。
「あははっ、増えちゃったね。さすがに私が援護しようか?」
「いいや、何か嫌な予感がする。……強化魔術だけをかけてくれ。それがあれば、あいつら三人なら対応できる。
……それに、俺には考えがある。あいつらになら効きそうだ。」
「そう、わかった。主がそう言うなら大丈夫だね。」
そういって、ラズは俺に強化魔術をかけてくれた。
「俺のことを信用してくれてるんだな。三年前じゃありえないことだ。」
「三年も一緒にいたんだよ。主が強くなってることは私が一番わかってるよ。
……それじゃ、私は霊体化してる。私の期待を裏切らないでね、主!」
「あぁ、了解だ。」
そうしてラズは実体化を解き、霊体へと戻った。
さて、と。
そうして、俺は三人の竜人に向かい合う。
三人ともその顔は同じように世界の何もかもを恨んでいる目を持っていた。その憎しみの念はとても強いように感じる。
俺も復讐をしようとしたことのある人間だ。復讐しようとしている人間の目がどれほどの恐怖を孕んでいるかを知っている。もちろんだが、復讐の無益さも知っているつもりだ。
こいつらが何に対して恨んでいるのかはわからない。ただ、倒すしかないというのは分かる。
だから俺は構える。
腰を落とし、剣を前へと突き立て、この三人を倒すことを決意する。
三人の竜人は俺に対して叫び声をあげ、一斉に襲い掛かってくる。
それと同時に俺も地面をけり戦闘を始めた。
俺がとった行動はそう難しいようなことじゃない。
一体一体と対峙するような位置関係を作るように戦うのだ。奴らの攻撃は避け易い。
だが、いくら避け易いといってもその攻撃を三人同時に繰り出されては避けられるものも避けられない。だからこそこういう戦い方をとる。
それに奴らの特徴として後隙が大きいというのがある。
一人ずつ相手取っていても、特にこれといって問題はないのだ。
ただ、あの攻撃を受け流すとなると俺の剣もとんでもない速度でボロボロになっていく。こういう時のためにあったのが、あの準備タイムだったのだ。
俺はバックの中にある刻印石を手に取り、
「魔術理論構築。チェンジ。」
ラバーダの店に用意してあった剣と、俺の持つ刻印石を取り換えた。
そういう風にしてこの三人の攻撃を耐えて行く。
そして、俺はそのタイミングを見計らった。この状況を待っていた。
後隙で動けないやつが一人、後隙から体勢を立て直しかけている奴が一人、攻撃しようとしてくるのが一人。
さぁ、攻略開始だ。
「魔術理論構築……転移。」
俺は、俺の目の前に後隙から体勢を立て直しかけている竜人を転移した。
次の瞬間には俺の計画通りなことが起こっている。
そう、自滅だ。
俺はこの三年で、転移魔術を研究しまくった。
その成果の一つ、自分ではないものの転移。
これは、無機物、もしくは俺に対して警戒していない生き物に対して発動することができる。
俺は考えたのだ。
あの三人は確実に何かを強く恨んでいる。が、俺に向けているものは明確な殺意。警戒なんてせず、ただ俺を殺そうとしている。後隙をあれだけ見せ、あれほど殺すことに特化した攻撃をしているのだ。
だからこそ、この転移を使うことができる。
次の瞬間には先ほどまで俺に攻撃を仕掛けていた竜人が、もう一体の竜人にあの攻撃を繰り出していた。
俺の考え通り、竜人の攻撃ならば竜人を傷つけられる。俺の攻撃じゃ絶対に傷つかないあの鱗も傷つけられる。
一人の竜人の絶叫が洞窟中に響き渡る。
その音が響くとともにその竜人はその場に倒れ、意識を失った。
他二人は俺のことをより強くにらみ攻撃を仕掛けてくる。ただし、やることはさっきと同じだ。
俺はさっきと同じように一人の竜人を転移し、もう一人の竜人も倒すことに成功した。残り一体になったタイミングでラズが現れた。
「ほほぉ、主考えたねえ。転移魔術だからこそできる、フレンドリーファイアを狙ったわけだ。」
「そうだ。最後の一匹だけはお前の魔術を使って倒してくれ。あれだけ転移魔術を使ったらさすがにきつい。俺じゃあいつは倒せないしな。」
「はーい!それぐらいならお安い御用!」
もしも、俺にもっと魔力があればあの必殺技で倒せたかもしれなかったんだが、仕方ない。
なんてことを俺は考えていた。
この事件はこれで終わり、だと。そう思っていたのだ。
だが、そうそううまくいかないのが人生。
俺とラズは次の瞬間に目の瞳孔をとても大きくさせるような光景を見ることになる。
残った最後の一人が、倒れている竜人を食い始めたのだ。
……乱暴に、乱雑に。
腕を引きちぎり、骨を砕き、その血を啜る。
……唖然した。体が動かなかった。
……ただ、その様子を見ているだけしかできなかった。




