冒険者編30 竜人との戦闘
俺たちが今いるのは、洞窟までの道のりの途中にある盛だ。
しかし、その森はやけに静かだった。動物が一匹もいないのだ。普通であればこんなことは起こるはずがない。確実に竜人の影響が出ている。
森の様子を見るに、この森から動物が消えて数日、数か月という期間ではないことがうかがえた。1年以上、下手すればもっと前からこの森には動物がいない。それほど動物がいた痕跡を発見するのが困難になっているのだ。
かつ、森の所々は不自然に木々が倒れている個所がある。まるで、竜人の破壊力の高さ、危険性と凶暴性を物語っているようだ。
なんてことを考えていると、目的の洞窟についた。
縦穴の洞窟ということを聞いていたが、これじゃまるでただの穴。この穴の底は見えない。それほどに奥が深い。
俺は腰に掛けていた小型の冒険者バックの中から刻印石を取り出し、穴に落とした。刻印石が洞窟の底についた音を確認し、ラズに声をかける。
「ラズ、準備はいいか?」
「もちろん!
主のタイミングでゴー!だよ。」
そういって、俺は手のひらにラズを乗せる。
そして、呟く。
「魔術理論構築……チェンジ。」
転移をすると……。
俺は何かを敷いて倒れているようだった。
何かを敷いているというより、何か積まれているものの上に少しだけ埋もれているような感覚だ。
周りが暗いから細かい状況が分からない。
「ラズ、明かりをつけてくれ。」
「はいはーい。」
そうして、ラズの魔術によって周りの状況を確認できるようになった。
そこは、実験用具やぼろぼろの家具が積み上げられている、あまりに不可解な場所だった。
まるで、誰かがこの洞窟をゴミ箱として使っていたかのように、俺には見える。
「なんだ、ここ?」
「分かんない。
……でも、瘴気を纏っていそうだよ。これ全部から。」
「瘴気……?」
そうして、俺が困惑をしたその刹那。
ゴミが積まれている反対側。つまり、洞窟の奥の方から一つの足音が聞こえてきた。
ただし、それは足音だけではない。
荒い息遣い、軽く舌なめずりするような音、軽く羽音とそれによる洞窟との反響音。
後ろを向くと、そこには目を光らせ、右腕で口から垂れるよだれをすくう、ただの獣。報告通り、人にワイバーンの要素を加えた、竜人がこちらを向いていた。
人の肌はもうなく赤い鱗を見せ、背中には大きな羽根。両腕に鉤爪を携え、乱暴にその足をこちらに向けて運んでいる。
「標的の登場、ってわけか。」
もう少し人の要素を残していると思ったが、人型ぐらいしか原形をとどめていないな。
顔すらもワイバーンへと変形しつつある。
「そうみたいだね。
どうする主?……私が行こうか?」
ラズによるその問いに俺は返答をする。
「いいや、俺が行く。」
そうして、俺は前に出て剣を構えた。まずは相手を知るところから始める。
彼を知り己を知れば百戦すとも危うからず、だっけか。
竜人の叫び声が洞窟に響くとともにその戦いの幕が上がった。
竜人は両腕を構えた状態で地面をけり、その鉤爪で俺を攻撃してきた。
ただし、これまで戦ってきたやつらと比べるとその攻撃は遅いもので、避けるには容易い攻撃だった。
俺は鉤爪の攻撃をよけ、次の攻撃が来ることに注意を向ける。
だが、鉤爪による攻撃の後隙はとても大きく、攻撃しようとすれば簡単に攻撃できてしまうもの。
これまで様々な敵の動きを見てきた俺はこの竜人を強いと感じることはなかっただろう。
敵の情報がこれだけなのであれば魔物のレベル的には低いものになる。
だが、この竜人の異常性を発見するのはどうやら容易いらしい。
それは俺が先ほどまでいた場所ですぐに見つかるものだったのだ。俺が先ほどまでいた場所の地面はきれいに三つの爪によって抉られている。
ただ、抉られているだけならばよかった。
……だが、抉られているのは地面だけでなく後方にあった洞窟の壁もえぐれているのだ。
これほどの凶暴性を持つ魔物は初めて見たかもしれない。攻撃力にすべてを振っている魔物だ。攻撃に一度でも当たれば俺の体は四つに分断される。
俺はすぐさま、後方に下がった。
「さっきの攻撃。もしかしたら、お前の魔術より強いんじゃないのか?」
「……主、私のことなめすぎじゃない?
……確かに、最近は私の本気は見せてなかったけど、さすがに私の方が強いね。
……ただ……殺傷性だけ、ならあっちの方が高いかも。」
「避けられる攻撃だから大丈夫だが、もしもあの攻撃が直撃したらと思うと怖いもんだ。
……だが、当たらなければいいだけ。
報告では三人、確認されている。新しいやつが来る前に片づける。」
「そうだね、頑張れ!主!」
そうして、俺は一歩前に出て、その剣を構える。
さて、次の攻撃を避けた後に俺の攻撃を食らわせようじゃないか。先に俺が攻撃して、その隙にあいつの攻撃を当てられてしまえば冗談じゃすまない。
また、あいつは地面をけり俺に攻撃を仕掛けた。先ほどと同じで避け易い攻撃。
俺は当たり前のようにその攻撃をよける。よけた瞬間に竜人の顔を視認することができた。
その顔はまるでこの世の全てを恨んでいるかのような顔。敵と認識したものを倒そうとする魔物の顔には見えなかった。
復讐をしようとしている人間のような、そういう表情だ。
ただ、目の前にあるものを壊すことだけを目的とした表情なのだ。
もしかすると、人間だったものが突然変異で変わったものなのかもしれない。だとすると、殺してしまうのは申し訳なく感じてしまう。
しかし……やるしかない。
俺はそう決意し、自分が持っていた剣を全力で竜人の首に切りつけた。
そして、竜人の首は落ちる。あっけなく、この緊急クエストは終わりを告げる。
……はずだった。




