冒険者編26 冒険者としての日常
ここは、とある洞窟の中……。
そこには一人の人間が生きていけるような環境が作られていた。それもなかなかに使い込まれている環境だ。
必要最低限のものしか置かれておらず娯楽のようなものは一つも見えない。特別ではない、ただの住まい。
その洞窟に住んでいる男は、森の中で適当に見つけた獲物をもってその住居の中へと帰ってきた。
いつものように肉を焼くため、串に獲物の肉をさし、自作した焚火でそれを焼き始める。
焼き終わると同時にその肉を手に取り、豪快にほおばる。
いつもの日常にはいつものセリフが似合っているように、その男はその言葉を言い放った。それは希望なのか、はたまた呆れているほど叶うことのない願望なのか。
男のそれはもはや義務のようなものだ。
「見つけられたいなぁ……。
俺のことを殺してくれる奴に…。」
そうして、いつも通りにベッドに横たわり目を閉じる。夢の中にあるのはあの時の日々。
恒久的な平和を願い、ひたすらに「正義」を目指す少年の姿。
ただ、この夢も何度見たのかわからない。どれだけここにいたのかももうすでに覚えてはいない。
男が夢の中で見るような思い出は、そこまで多くはない。
夢で見るような、幸せな思い出は……。
そこはBランク冒険者が行くことのできるダンジョンの中。
俺は慣れた手つきで目の前に出てきた魔物を切りふせ、魔物を魔石に化していく。
冒険者になりたての頃は一体の魔物にも手いっぱいになっていたが、今の俺はさまざまな出来事を経験している。
魔力や筋力自体はほかの冒険者に負けていても、その経験や技量だけならしっかりBランク。
有象無象(上位種を省く)の魔物が束になってかかってきても、余裕をもって勝つことができるくらいの実力になっている。
「ねぇ、主。もう帰んない?
そろそろ荷物が多くなってきたよぉ。」
中が魔石いっぱいになるまで入っている小さめの袋をぷかぷか浮きながら抱えているラズは俺にそう、提案してきた。
「もう、そんなにたまったのか。それじゃ帰ろう。
……ラズ、ほい。」
俺はいつも通りラズに手を出し、ラズはそれを見て俺の手に乗る。
「そんじゃ主、いつも通り、よろー。」
「あぁ、魔術理論構築。
……チェンジ。」
そして、目を開けるとそこは俺たちの宿の中。
もちろんだが、ラズも一緒だ。
転移魔術・チェンジの使い方の一つの例。
帰宅用魔術。
宿の中に用意しておいた石。と、俺たちをチェンジする。
もちろんだが、その石は俺の魔術刻印をしてあるもの(これから刻印石っていうお)だ。
最短で、かつ簡単に宿に帰る方法は転移魔術を使うこと。一番便利な使い方がこれなのは少し納得がいかないが……。
「さーて、主!ギルドで換金して、ご飯でも食べに行こう!」
その言葉に反応した後、ギルドに向かうため宿の外に俺たちは出た。
外はもうすっかり夜になっている。シータの街の明かりがキラキラと光りながら、俺たちを照らしている。
ギルドに向かう足は軽快。最近は事件もなく平和そのもの。誰も死なず、誰も苦しまない。
そんな日常なのだ。
ギルドの中に入るとそこではいつも通り宴会が開かれていた。
俺と同い年の受付嬢・ミールはその宴会の対応に忙しそうにしている。汗をかき、ビールジョッキを両手いっぱいに抱えているのだ。
(これじゃ、換金はできないな。
……いつもそうだけど。)
そうして、俺はミールのそばまで行き……
「ミール、俺も手伝う。」
「あ、お帰りキリアス君。
いつもありがとね。」
そうして、俺も両手いっぱいにビールジョッキや料理皿を抱えた。相変わらず量が多い。
「お!キリアスの坊主も帰ってきたのか。
いつもご苦労なこった。お前も酒を飲めばいいのによぉ!」
「馬鹿言え、グルーク!
お前が俺に奢らせた上に、酒飲ませてべろんべろんに酔わせたこと、俺はまだ忘れてねえし許してないぞ!」
「がっはっはっは!あの時のキリアスはいつも以上に笑いものだったからな!」
「うるせぇ、この酒飲みおっさんが!」
「ダメダメな主人に比べて、ラズさんは酒豪だな!」
「ほらほら、主!もっと酒、持ってこーい!!」
ラズはそういいながら、空のジョッキをこちらに向けていた。さっきまで横にいたのに、さも当然化のように溶け込んでいるではないか。
それに、一体あの小さな体のどこにその量の酒が入るのかを聞きたいものだ。
実はご飯でもそう。
酒だけじゃなくラズが食う飯の量は異次元的。俺が食べるご飯の5,6倍……いや、下手すればもっと食べる。
そんなこともあり、食費が真剣にまずい。
そのせいで俺たちはいつまでも宿住まい。
確立したパーティも作れない俺たちが、確立した住まいを手に入れられるわけがないんだよなぁ。
ぴえん。
誰かこいつの胃を埋める何かをくれ。食費だけでその日稼いだ分のほとんどを持ってかれるなんてもう嫌だ。




