冒険者編24 キリアスから感じるものは……
そうして、俺は仰向けに寝ているカルナの前に立つ。
木剣はドンキが使っていたものを借りた。
「お、次の相手はキリアスか?」
カルナは俺のことを見て、すっと起き上がる。
「そうだ。
……俺の全力をぶつけてやるぜ。」
「お前、確かさっきまでずっと寝てたよな。だったら俺と戦う時のルールを教えてやる。」
「ルール?ただの手合わせじゃないのか?」
「ルールというより、『ハンデ』の方が正しいな。」
どうやら、カルナとの戦いはそれなりのハンデが課せられるらしい(ドンキ以外)。
ハンデの一つもないと面白くない。あまりにも人数が多すぎるから、冒険者全員とまともに戦ってたら終わらない。という二つの理由からこのルールになっている。
まず、カルナが使えるのは木剣。かつ、逆手の左手しか使うことはできない。
挑戦者の方は基本自由。
魔術を使うのもあり。飛び道具を使うのもあり。自己強化のアーティファクトを使うのもあり。ほかにも大抵のことが許される。
そんなに自由にしたらさすがにカルナも負けるだろ。と思っが、いまのところ誰一人いないそうだ。orz
カルナの勝利条件は、相手を降参させること。用するに木剣を首元で寸止めすることだ。
挑戦者の勝利条件はカルナに攻撃を当てること。
どちらも試合の範囲外に出たら負けである。
最後に、カルナは一歩進むごとに木剣を一度振る。それを十度繰り返す。
挑戦者の勝利条件にはもう一つだけあり、その十回の攻撃に耐えぬくことも勝利条件の一つだそうだ。
ちなみにほかの冒険者に聞いたところ、三回目の攻撃でほとんどのやつがやられるらしい。
最高でも6回。グルークパーティのAランク剣士だけ。
ここまで聞いて思うことは……。
俺を最後にしないでくれ。である。
……是非もなし。寝てた俺が悪いのでやるしかない。
それにカルナは俺が転移魔術を使えることを知らない。
ならば、勝てる可能性がないわけではないのだ。秘策がこいつに聞くかどうかは別の問題だが……。
先ほどから、カルナの戦いを見ているがやはりあいつは強くなっている。
俺もさっき戦ったがとんでもないほどに実力を上げていた。
あれでまだ20なのが信じられないほど、だ。
これからも研鑽を積めば簡単に剣術で俺を超えることができるだろう。
そんな末恐ろしい化け物だが、キリアスの坊主も末恐ろしいという意味ではなかなかに期待しがいがある。
あいつには武力も魔力もない。だが、何か別のものを感じるのだ。決してそれはラズさんがいるからではない。それ以外の別のもの。面白いやつら同士であることは明白。
そして、その戦いは始まった。
カルナとの勝負に勝つには真っ向勝負ではなく防御全振りが正しい戦い方だ。
カルナに対して自分の剣術をぶつけようとするやつは1回の攻撃でやられていく。まさに瞬殺。
防戦一方になるのは恥というわけじゃない。剣術において、守りを固めるということは攻めるよりも重要なこと。
耐えて、耐えて、相手の油断を見定め、そこに一撃を放ち、切り伏せる。剣術の勝ち方として完璧な勝ち方はこれだ。
このカルナとの勝負で剣士の冒険者に学んでほしいところはそういうところ。
勘がいいカルナのことだ。俺の意図をくみ取ってわざと三発まで攻撃してくれているのだろう。だから、大抵のやつらが3回目の攻撃でやられてしまう。
その戦いでも同じように1回、2回目は、鋭く強い攻撃だが相手を降参させる攻撃ではなかった。さすがのキリアスもそれは見切っているようだ。さすがは俺とグルークが育てただけはある。
だが、そんな奴にも降ってくるのが三回目の斬撃だ。
一気に踏み込み、カルナはキリアスの首にその剣を放つ。
二回目の攻撃を防ぎきった後、キリアスの坊主が小さく口を動かしているのが見えた。
やはり何か秘策があるのかもしれない。しかし、この状況を覆す秘策を魔力なしが持っているとも思えない。
何も起こらず、キリアスは負けるしかない。
何かが起こってほしいというのを思いながらも、俺はそう確信していた。それほどにカルナのことを認めているからだ。
しかし、三回目の攻撃がキリアスの首で寸止めにされる前に、キリアスの坊主は叫んだ。この広場全体に響き渡る声で……。
「転移!」
……その瞬間からは世界がゆっくり動いているように、俺には見えた。
キリアスが叫んだ瞬間、俺がさっきまで見ていた場所からキリアスは消えていた。
俺は武術の達人だ。これまで様々な高速移動を見てきた。ほとんどの人間の高速移動は俺の前では意味をなさなくなる。なぜなら、それが見えてしまうから。
どれだけ早くとも、見切れてしまう。切り伏せることが可能になる。それほどに研鑽を積んだ自信がある。
そんな俺の目から……キリアスはその身を逃れた。
瞬きはしていない。目を離していたわけでもない。
先ほどまで余裕の表情を見せていたカルナもその時だけは目を見開き、俺と同じような『何が起こった?』という顔をしている。
『消えた』と、そう思ったが、次の瞬間にはカルナの後ろにキリアスは移動していた。
……姿勢を低くし、その木剣での一撃をカルナに食らわせようとしているのだ。
俺はその時あることを思い出した。……『転移』……。
あの時、馬車の帰りにキリアスが言っていたことだ。これがキリアスの言っていた転移、……なのか?
俺が何も動けず、ただ思考だけに集中していた時。一つ、また恐ろしいようなことが起こった。
キリアスがその姿を現したと同時、その誤差は俺にもわからない。もはや誤差はゼロなのではないかと思うほどの速度での動き。それをカルナはした。
カルナはすぐさま木剣の持ち方を変え、後ろ向きに矛先が向くようにし、前を向いたままキリアスにとんでもない威力の牙突を食らわせた。
そのカルナの表情は変わらず、『何が起こった?』という顔のままだ。
自分が先ほどした一撃のことを、自分の意思ではなく体が反射的に動いたかのような、意識していない攻撃。
体が反射的に動く、なんて言う経験はカルナからすれば、きっととんでもなく久しぶりなはずだ。俺があの場に立っていても、同じようなことはきっとできない。
それほどの一瞬での攻撃。かつ、その威力は俺と戦闘しているときよりも強かった。
冷静になってその戦闘を分析していたが、牙突によって後方に吹き飛ばされたキリアスのことを完全に忘れていた。
それを思い出し、俺は慌ててキリアスに近寄り声をかけた。
「おーい、キリアスの坊主。大丈夫か?!」
どうやら俺はカルナの攻撃を食らって吹き飛ばされたらしい。
うーん、理解不能。
……俺は転移を使った。転移を使ってカルナに一撃を食らわせようとしたのだ。
しかし、転移したと知覚した瞬間……たぶん戦闘を見ていた全員が、俺が転移したことを知る前に、俺の腹にとんでもない痛みが走り、後方に吹き飛ばされていた。
「な、なぁ、ドンキ。何が起こったかわかるか?」
「はぁ、キリアスお前なぁ。それを聞きたいのはこっちだ。ここにいた全員がそう思ってるよ。
……たぶんだが、カルナも何が起こったかわかっていない。」
何言ってんだ。俺に攻撃してきたのはカルナだろ。
まさか、カルナに転移を完全に見切られるなんて思わなかった。ただし、あいつは聖騎士。その実力であれば、転移を見切るなんてことは容易いことだったのかもしれない。
そこで、俺は血を吐いた。これまでに食らったことのないような攻撃だ。そりゃ吐血だってする。そして段々と意識が遠のいていくのが分かった。
おやすみー。
そして俺はまた、意識を失った。
俺は今、驚いている。
キリアスには力がないと思っていた。
見ればわかるが、魔力が全くない。1,2回の攻撃で剣術もそこまでないことは分かっていた。俺は完全に油断していたのだ。
だがキリアスは俺の、意識外の攻撃を引き出した。まったく意識していなかった攻撃だ。
あんな攻撃……いや、あの感覚。
幼少期以来一度もなかった、この……感覚だ。
もう……あの感覚を取り戻すことはできないと思っていた。あの時の感覚を取り戻したいがためにこれまで剣を振ってきた。だが、あの感覚を取り戻すことはできなかった。
なのに……
まさか……ここで……しかもキリアスとの勝負で思い出すとは思わなかった。
「ははッ……。
キリアス、お前はいったい何なんだ?お前の何が、俺を奏させる……?」
俺は振り返り、もうすでに気を失っているキリアスの方を向き、そう……呟いた。




