冒険者編19 異次元の戦い
「はっ!まさか一日で二度もおもしれえ戦いがで来そうなやつと巡り合えるなんてな!
……坊主、死ぬのはもう少し後になりそうだ。よかったな。」
ドグがそう言うと、その青年は俺の方を見る。
漫画やアニメで見るかのように頭の上にはてなマークを浮かべ……。
「?……何これ、どういう状況?」
先ほどまでの英雄のようなキリッとした顔から、何ともあほらしい顔になっている。
あぁ、こういうやつなんだな。
「状況はいたって簡単だ!
俺がこいつに殺されかけてる。助けてくれ。」
俺がそう言うと、俺の砕けた剣やら頭から流れる血を見てそう感じたのだろう。
「……ぼろぼろにされながらよく頑張ったんだな。お前、たぶん俺より年下だろ。
まぁいいや。……助けてやる。じっとしてろよ。
……さて、名乗りを上げてもらおうか。」
そういって、青年はドグに向き直った。
「いいだろう、俺はゴブリンの眷属王・ドグ。
強いやつと戦うのが好きなんだ。今から俺は、楽しめる戦いができるってことで良いんだよな?
名を名乗れや。」
ドグのその言葉に反応するように、
青年は肩に担いでいた剣をドグの方に向け、口角を上げる。
「いいぜ……。
俺は王都騎士・四聖騎士が一人、孤独な特攻人、カルナ・ギルティ!
ゴブリンの眷属王・ドグとやら、手合わせ……願おうか?」
その言葉をトリガーに、二人は腰を下げ、自らの得物を互いに構えた。
まるでカウントダウンが始まっているように二人の動きは止まり……
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次の瞬間、この二人の戦闘は始まった。
その戦いは、あまりに異次元。
使っている得物は、どちらも木でできている有象無象の武器だ。そこには魔力もなければ使い込まれたような形跡もない。
そのはずなのだが……
二人の得物がぶつかり合うたび、周りの洞窟の中にその音がとんでもない振動として響き、風圧だけで俺が飛ばされそうになるほどだ。
しかし、この二人の戦いのすさまじいところはそのパワーだけでない。
果てしない読み合い、体の動き、異常的な得物捌き、そのすべては到底普通の人間がなせることではない。
同じようなものを最近見た。それはドンキだ。
この二人からはあいつの実力と同等のものを感じる。
いや、それ以上だ。
その中で垣間見える、二人の表情は常に笑っていた。
どちらもが余裕の表情をしていたのだ。戦いを楽しんでいるのか、それともどちらもがどちらもに対して油断しているのか。
「なかなかどうして、眷属王ってのは能無ししかいないのかねえ!」
「お前も大概だぜ、聖騎士さんよ!」
この二人、どちらも魔術を使っていない。ただひたすらその異次元的な身体能力で己の、力と力をぶつけているのだ。
最初は互角に見えた勝負だったが、段々と聖騎士、カルナが優勢であるように感じる戦いになってきた。
「おいおい、どうした眷属王!段々と動きのキレがなくなってきてるぜ。」
「お前さんが早すぎるだけだ!」
「そろそろ、眷属王特有の権能とやらをつかったらどうだ?このままだったら死んじまうぜ。」
そういった瞬間、カルナの木剣はドグの腹を思いきり攻撃し、ドグを洞窟の壁にたたきつける。
ドグは叩きつけられ、口にたまった血を吐き捨てる。
「がはっ……くっは!
やっぱり聖騎士ってのは強いんだな。
話には聞いていたがこりゃ想像以上だ。」
洞窟の壁にもたれかかっているドグに、木剣を向けながらカルナは問う。
「権能使うか、この場で逃げるか。どっちかにしてくれ。お前さんだって死にたかねえだろ。」
「……。そうだな、ここで死ぬのはヴァンパイアの野郎にカッコがつかねえ。
だが、逃げるのはもっとカッコがつかねえなぁ。それに今逃げるのはもったいないだろ?もう少し楽しませろよ。」
ドグはそう言うと、その場に立ち上がり、少しずつ体に闘気が宿っていく。ドグの周りにある空気はその闘気によって歪んでいる
魔力で自信を強化しているようだ。
「ほほぉ……。ま、そう来なくっちゃ面白くねえよな!」
二人は再び、その得物を構える。
そうして、異次元的な戦闘が再開された。
その戦いを見ている俺からすれば、さっきの二人の戦闘のギアを三つ、四つあげているように見えた。
二人のスピードがまるで倍速したかのように見えるからだ。
だが、それでもカルナは魔力を使わない。余裕の笑みをやめない。
ギアが三つや四つ上がった程度、カルナからすれば変わらないようなもののようだ。
それに比べ、ドグの表情からは余裕がなくなっているように見えた。
だが、力だけで言えばドグの方が勝っているらしい。
剣と棍棒がぶつかり合うたび、カルナは後ろに下がり、ドグは棍棒を振り切っている。
「力負けしはじめてるぜ!
お前も、聖剣とやらを抜いたらどうなんだ。」
「はっ!馬鹿言うんじゃねえ!
お前程度の三下に抜けるもんじゃねえんだよ。」
「はっ!いい度胸だ!」
そして、ドグの闘気はますます増していく。
力を込めて棍棒が振られるたびに空気が揺れ、波として俺の肌を恐怖させる。
カルナの表情はそれでも変わらなかった。
「そろそろ、頃合いだな。」
カルナのその一言からカルナの表情は余裕の笑みから獲物を狩るため、集中した獣の目に移り変わる。獲物の動きを読み切り、最適の方法で狩ろうとしているのだ。
次の瞬間、カルナの闘気が一瞬にして爆発する。カルナは地面をけり、ドグの攻撃の全てを華麗によける。
そして……。
強烈な一撃。
カルナの木剣がドグの肩にその一撃を叩き込む。
その攻撃によって、よろめいたドグはカルナのすさまじい連撃をすべて食らうこととなる。
避ける余裕はなく、防御する暇はなく。ただ何もできない。その連撃はドグの体を、簡単に地面にたたき伏せた。
立っているカルナに対して、倒れ伏せているドグ。力の差は圧倒的なもの。
カルナは先ほどの余裕の笑みに戻っている。
カルナの体には傷一つなく、汗一つない。
「どうする、眷属王。
これ以上やるんなら、相棒を抜くしかなくなるぜ。」
そうしてカルナは腰に掛けてある剣に手をかけた。
「あぁ……。さすがにもう終わりにする。
人間にこれほどの実力者がいるってことが知れただけ良かったもんだ。
……ほかの眷属王が言っていた……人界には頭のおかしい特攻剣士ってやつがいるってな。きっとそれはお前のことだろうな。」
「そうだろうな。
要望は一つだけだ……。お前が人界に下した上位種のゴブリンをすべて魔界に返せ。」
「はいはい、わかりましたよ。……大体の捜索はもう終わった。もう満足だ。」
「じゃあ、帰っていいぞ。
……達者でな、ゴブリンの眷属王。」
「…………。
目の前で倒れている獲物がいるってのに、本当に逃がすんだな、お前は。……狂ってる、俺の目から見てもそう感じるぜ。」
ドグがそう言うと、ドグが倒れていた地面だけが崩れドグはその崩れた穴の中へと落ちて行った。落ちたと同時に崩れた部分は修復され、そこには元から何もなかったかのように痕跡はなくなっている。
ということは……助かった?
「そんなに若いのに眷属王に会うなんて、不運なもんだな。」
俺が、ドグが先ほどまでいたところを見ていると、カルナはそう声をかけてくれた。
俺はすぐにカルナの方を向く。
「さっきも聞いたかもしれねえが、俺は聖騎士、カルナ・ギルティだ!
……お前は?」
そういって、カルナは倒れている俺へと手を差し伸べる。
カルナはさっきの余裕の笑みではなく、心からの笑みで……俺のことを安心させてくれる笑みで俺にそう……問うのだった。




