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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
28/52

冒険者編18 成長の印。そして、一人の英雄

 そして、ゴブリンはゆっくりとこちらに振り向く。ゴブリンの視界に俺が移ると同時。


 その雄叫びは、響く。あの時に聞いたものと全く同じ。あの音が、俺の鼓膜を振るわせるのだ。


「◎△$♪×¥●&%#!!」


「……!」


 二回目となってもこの叫び声には慣れない。やはり恐怖を感じてしまう。

 それにこの様子からして……。


「無知性、か……。」


 だが、これは俺としてはありがたい展開だ。だって……。


「リベンジマッチ……ってわけだな。」


 そして、俺は地面をけりこのゴブリンと対峙した。あの時のようにビビるだけではない。恐怖を感じても、俺の足がびくつくことはない。


 この一か月間。この日を求めていたわけではないが……上位ゴブリンとの戦闘を、頭の中で想定してきたかなんて数え切れない。


 この上位ゴブリンの長所は単純な攻撃、もう一つは一度攻撃を放てばそこからの連続攻撃が素早く連打から抜け出すことが難しいということ。

 そして、こいつの弱点は、視野角が狭いことだ。


 ならば、連続攻撃をさせないよう、逃げ回りながら攻撃するのが必勝法!




 ゴブリンがその棍棒を振った時、俺は思い切り姿勢を低くし、わきの下を通るように素早くスライディングをし、その棍棒を避けた。


「うまく……避けられたな。」


 俺を視界から捉えきれなかったからだろう。ゴブリンは周りをきょろきょろとしている。

 無知性であることと、こいつの身長が馬鹿みたいに高いことが功を奏した。

 やはり、相手のことをしっかりと理解することが重要なのだ。



 それを意識できるようになった俺は、上位のゴブリンとの戦闘を優位な方向へと運べていた。


 まさにヒットアンドアウェイ。




 そうして、俺は少しずつではあるが、確実にダメージを与えていった。新調した剣が優秀なおかげでゴブリンの硬い体にも刃を通すことができる。



 着々とゴブリンが弱っているのがわかる。

 だが、それでもこの攻撃力の高さは常に健在だ。油断すればすぐにお陀仏。

 だからこそ、早くこの勝負に決着をつける必要があるのだ。


 さぁ、このリベンジを完遂させるとき。




 ただし、俺の斬撃だけではこいつを倒すことができない。

 だからこそ俺は、俺の唯一使える魔術を使って終わらせることにした。



 ゴブリンの攻撃をよけながら、手のひらに魔力をためる。俺が持っている少ない魔力を一生懸命に掌にこめた。


 右手が少しずつ熱くなっているのが認識できる。

 今であれば、このようなことを考えられるほど余裕ができているのだ。



 そして、その頃合いを俺が感じた時、最大限、ゴブリンとの距離を詰める。

 体を跳ね上げ、ゴブリンのうなじに右手を当て……放つ。



「くらえ!ファイアボール!!」


 俺の使える唯一の魔術。ファイアボール。

 その威力は、やはり俺の斬撃よりも強力だ。


 放ったと同時に、ゴブリンは倒れ魔石へと姿を変えた。



「くっ、はぁ、はぁ。か、勝ったぁ……。」



 そうして俺はその場に仰向けになり、安堵する。

 あの時はぼこぼこにされた。なにも抵抗できず、常に圧倒されていた。

 だが、今回は勝つことができたのだ。



 俺はここでしっかりと実感した。

 俺は強くなっている。そして、これからも、俺は強くなれる……と。




 だが、安堵していた俺に鋭い殺気が放たれる。

 安堵した俺の心は、一気にさっきまでの緊張感を取り戻した。


 そりゃ当然だ。さっきのゴブリンの雄叫びはこの洞窟の中だけでなく、近くの森中に響いただろう。


 つまり……



「面白い戦いするじゃねえか、坊主。ゆっくり見させてもらったぜ。

 ……だが、もうこれで鬼ごっこは終わりだ。」


 俺はすぐに立ち上がり、後ずさる。


「どうやら……そうみたいだな。

 な、なぁ……さっきのゴブリンに勝ったご褒美として逃がしてくれたりしないか?」


 どうにか生き残ろうとする。だって、さっきようやく実感したんだ。自分の成長を。それなのに、すぐにお陀仏なんて冗談じゃない。

 ただし……


「はっはっは!無理だ。

 何度言ったらわかる。何度も逃げて逃げて、俺からこれだけ逃げたのはお前で初めてかもしれない。

 だが、とうとう逃げる手段がなくなったようだな。」


「そう……だな。だが、無抵抗で死ぬつもりはないぞ。」


 そういって、俺は剣を構える。


「いいねぇ。なら、遠慮なく……。」


 次の瞬間ドグは地面をけり、一瞬にして俺の目の前に現れる。

 気づけば振り上げられていた棍棒は、俺を殺しに振り下げられた。


 どうにか持っている右手に持った剣で防いだが、新調した俺の剣は簡単に砕ける。

 俺はまたあの日のように吹き飛ばされ、洞窟の壁にたたきつけられた。


「がはっ!」


 俺はどれだけ剣を砕かれ、どれだけ洞窟の壁にたたきつけられればいいんだ?

 そろそろ飽きてきたぞ。


 なんて考えられるのは、冗談抜きで目の前に死があるからだろうか。


 必死に冷静になろうとしても、俺が頭から血を流し、吐血して、体が動かない現実は変わらない。


「ここまでよく逃げた。何度も言うが俺からこれだけ逃げられた奴はいない。だからそれだけは褒めてやる。

 来世はネズミにでも生まれ変わってしっかりその逃げ足を活かすんだぞ。」



 必死に頭を回す。ここから抜け出す方法を考える。しかし、俺にはもう何も残されていない。


 武器もなければ、魔力もさっきのファイアボールでもう尽きた。転移魔術も使えそうにない。

 考えれば考えるほど抵抗できない現実を突きつけられる。



 誰か……助けてくれ。

 それを願うしかない。やっぱり、俺一人ではどうにもならない。どうにも……できない。


 そうして、俺は目をつむった。





「はいはーい、いったん止まろうか。」


 その時、洞窟の入り口からその声が聞こえた。

 俺もドグも、気が付けばそちらの方を向いている。




 洞窟の入り口に立っていたのは白いマントをなびかせた赤髪の青年。その白いマントは騎士のように見えるが、騎士にしては鎧を着ておらず身軽なことが見て取れる。


 腰には一本の剣を携えて、右手に持った木剣を肩に担いでいる。


 洞窟の外から入る月光が、その青年を照らす。




 その姿は……まさに……英雄だ。


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