冒険者編13 ヒーロー
その後、ラズ、ドンキとともにダンジョンから帰ってきた俺。
ちなみに帰ってくる途中はドンキに剣術についてずっと喋られていた。
もうドンキの声は聴きたくない。
「帰ったぞー。ミール、さっそく魔石の引き取りをしてくれ。久しぶりのダンジョンでさっさと休みたい。」
そういって、カウンター席の方に近づいていくとミールが深刻そうな顔をしているのが見てとれた。
「どうした、ミール?珍しく、考えこんで。」
「あ、キリアスさん。おかえりなさい。
魔石の引き取りですね、今すぐに……。」
俺の声に気づいたミールは慌てていつも通りの笑顔を、帰ってきた俺たちに向けてくれた。
何かを隠しているようにしか見えない笑顔だったのでもちろんだが問い詰める。
「そんなことより、何があったんだ?」
「……。」
困ったな、どうしよう。という顔だ。
「俺には言えないような内容なのか?」
「そ、そんなことはありません。もちろんですが、やましいことでもありません。でも……」
歯切れが悪いミール。
なぜ、教えてくれないんだ。やましいことじゃないと言ってはいたが、教えられない内容、ということは……。
「……はぁ、わかりました。
言います。なので、そんな目を私に向けないでください。私のことを疑うような……。」
「わ、悪い……。」
俺は知らぬうちにミールを疑っていたらしい。慌てて、目をそらした。
きっと前世の癖が少しだけ残っていたんだろう。
「それで、いったい何なんだ。その言いにくい内容ってのは……。」
「……上位種のゴブリンのことです。
キリアスさんがあの事件にあってからというもの、シータ担当のダンジョンや、境界付近の森のなか、洞窟など。様々な場所で確認されています。
上位種のゴブリンによる被害者が今日も出たんですよ。周辺の街やそこを狩場としている猟人たちが被害にあっているそうです。
被害者の中には……死人もいます。」
「おいおい、それはどう考えても異常事態じゃねえか。なんでギルドマスターの俺に言わなかったんだ?」
「何ふざけたこと言ってるんですか。
さっき帰ってきて、さっきダンジョンに行ったんです。……言う暇なんてありませんでしたよ。」
「ははっ、そうだったな。わりぃわりぃ。
……ただ、もちろん俺に関係ないってわけじゃない。俺もすぐに対応しよう。」
そういって帰ってきたばかりのドンキはすぐにギルドを出て行った。
「対応が早いな。さすがギルドマスターだ。
……それで、なんで俺には言いにくかったんだ?俺もこのギルドに来て4か月近くがたつんだ。俺にも関係があることじゃないか?」
俺がそう言うと、ミールは一拍をあけてこう告げた。
「キリアスさんは……その……放っておけないんですよ。」
そんなことを言いながら頬を赤らめるミール。
俺も少し意識してしまう。
「キリアスさんは弱いです、このギルドの中で……一番。
……なのに冒険者になって、必死にクエストをこなして……死ぬような経験をしてるのにまだギルドをやめない。冒険者を続けてる。
……教えてください。キリアスさんがそこまで必死になって冒険者になる理由を。」
「いや……だが……」
…………。
その顔は真剣な顔だ。そこまで言われたら、語らなければいけない。
俺の過去を。そして、ルドルーファのことを。
「……なら、俺のこれまでを聞いてくれ。」
そこから俺はあの事件の日のことを話した。自分が経験した絶望も苦痛もみんな話した。
思い出したくはない経験だ。あの悲痛、あの悲劇。
あまり人に話して、気持ちのいいものではない。だからこそ、これまでも、これからも人に話すつもりなんてなかったのだ。
と思っていたが存外……話していて気持ちのいいものだった。
ラズは……このことを知っていたのかもしれない。ずっと俺の横で黙って話を聞いている。
いつもこういう時……俺が弱っている時は煽り散らかして俺の気分を害する。
でも、どうやら今日は違うらしい。
それから、キリアスさんはその過去を話してくれた。
その過去は壮絶なもので私と同じ年の男の子が経験していてはいけないようなものだった。
この話を聞いて初めて、地方にあるルドルーファ領・領主様が亡くなったことを知った。
この話を聞いたからこそ、私はもっとキリアスさんのことが心配になった。
だって、キリアスさんは泣いているから。
これまで、一度として見たことはなかった。キリアスさんが泣いているところを、弱音を吐いているところを……。
気づけば、私はキリアス君のことを抱きしめていた。
キリアス君のことがもっと心配になったと同時にもっと好きになったのだ。
キリアス君は弱い。
私と同じ年で、私と同じように無力だ。
もしも、強い魔物がこの町に出現しても何もできずに死んでしまうだろう。それほど私たち……年齢だけは成人になった……ただの子供は弱いのだ。
……でも、キリアス君は私とは少し違う。
弱いのに……何もできないのに……強くなろうとしているのだ。
こんな過去をだれにも話さず、一人で耐えて、頑張っている。
私は応援したいと思った。同じ年なのに強くなろうと努力している、弱者の運命に抗っている……弱くもろいこの少年を……。
……あぁ、柄にもなく泣いてしまっている。こんなつもりじゃなかったのになぁ……。
こんな姿を見たら、ラズもミールもきっと引いてるだろうな。
なんて……そう思っているとき……急に俺の頭はミールに抱きかかえられた。優しく、温かく。
慌てた。とても慌てたさ。
……でもその温かさが心地よくて
あの日、俺が母さんに学校に通いたいと言った日からこれまで一度もこの温かさを感じていなかった。
きっと。だからなのだろう。
体を預けて、もっと大泣きしてしまった。
「ねぇ、キリアス君。もう一度聞くね。なんで……冒険者になったの?」
俺は涙をぬぐい、ミールの目を見て行った。
「……俺は弱い。魔力もなければ武力もない。
でも、弱いままだと奪われるだけだ。俺がそうであったように弱い者は全員、奪われるものにしかなれない。俺はそんなのを認めない。認めたくない。
だから強くなる。弱い自分を変えるために冒険者になった。
俺は俺の力で、みんなのヒーローになりたいんだ……!」
弱い者は何になれるのか。
弱い者は奪われるものにしかなれない。抵抗できず殺されるか、奪われるか。
そうして、奪われている中で、奪われて抵抗できないことを認めてしまう。自らを強者の下に置き、みじめに生きていくしかできない。
であれば、強いものは何になれる。
強いものは奪うものになれる。
その武力で、自分より弱い者を捻りつぶし、すべてを奪い、壊し、絶望を与える。
弱い者を椅子にして、自分よりも下の人間をあざ笑う。自分より弱い者がいるということを人生を楽しむためだけにしか使わない。
強いものはそんなことを無意識でしている。
だが……それだけじゃない。
強きものは自分の持っている力で、苦しむ誰かを。殺される誰かを守ることができる。
奪われても抵抗できない誰かを、みじめな人生から、弱者の運命から守ることができる。
誰かを笑顔にすることができる。
そんな、誰でもない誰かのことを、ヒーローという。




