冒険者編11 ドンちゃん、やるやん!
「ふん!!」
「はっ!」
「せいや!」
あの後、俺たちはCランク冒険者のダンジョン、カルトダンジョンに来ていた。
出てくる魔物はシルバダンジョンよりも強い魔物ばかりで、前のダンジョンの中にいたゴブリンや四足魔獣ではなく動きの速いリザードマンが多くいた。
ただし、都合よく新調した剣は刃が細く、俺くらい筋肉がなくても素早く扱えるものだったので、苦戦しながらも新しい剣の影響と魔物の数が少ないという理由から何とか魔物には勝てていた。
んだけど…………。
「頑張れ!がんばれ!主!やれ!やれ!主!」
「頑張れ!がんばれ!キリアス!やれ!やれ!キリアス!」
なんか増えてるし。
「それと、ドンキのポンポンはどっから出してきたんだよ。」
「私があげたんだよ。」
なんでお前が人間サイズのポンポン持ってんだ。
「いやーラズさん。このポンポンを振る遊びは面白いですな。」
「おっ!ドンちゃん、君にはこの面白みがわかるのか?!」
「もちろんですとも、うまく手にはめてこれを振るとシャカシャカなって非常に楽しい。何より、魔物に苦戦しているキリアスを煽るのが楽しい!」
「よくわかっているじゃないか。ドンちゃんよ。正式に弟子入りを認めよう。」
「ははっ!ありがたきお言葉。」
このおっさん、わざわざついてきてすることが新入りを煽ることってどんなギルマスだよ!?
ラズに関しては手伝わないのがデフォルトみたいな感じになってたけど。それを当然にしてしまっているのは異常なのではないのだろうか。
「まぁまぁ、そんなに睨むなよなキリアス。俺が前に出たらお前の取り分全部取っちゃうだろ?だからこうやって応援してるんだ。」
「ラズもそんな感じ!」
息ぴったりだなこいつら、仲良くポンポン振りやがって。
このおっさんがこのギルドで一番強いだなんて考えられない。だってどう見ても、金曜日のやっすい居酒屋で上司の悪口言いながらハイテンションになって踊りだしてるおっさんだもんな。
「なぁ、ドンキ。あんたがギルドマスターだってところを見せてくれないか?
今日の俺はただのリハビリだ。金を稼ぎに来たわけじゃない。」
俺がそう言うと、ドンキはうーんと悩んだ後……
「まぁ、いいだろう。だったらこのダンジョンの最下層ぐらいに行くぞ。
ここだったら、魔物全部ワンパンで面白くないけどな。」
さすが、言ってることが強者だもんな。
最下層っていうとどのくらい下の階層のことなんだろうか?ダンジョンの奥底、つまりその分魔力密度などが高いので強い魔物がいるのかな?
このダンジョンであれば二十階層以降のことを最下層というらしいが、これはダンジョンによって変わるらしい。
ただしかし、どのダンジョンでも変わらないところがあるそうだ。
それは……
最下層は地獄ということだ。
俺が戦った魔獣の数倍でかい魔物がわんさかいるではないか。しかも魔物そのものさえも魔術を使っている。それに、何よりその凶暴性だ。
こっちのことを視認した瞬間にとんでもない殺気を放ってきた。
次に目を開けた時にはその牙が俺を噛み殺そうとしているのだ。
ただ、その最下層の地獄をあたかもぬるま湯のように進んでいくのがギルドマスターという生物らしい。
無表情のくせにやってることが悪魔。魔術を一つも使わず、その身一つで魔獣のすべてを狩っている。
「あ、ありえねぇ……。」
「確かにあれは私の目から見てもすごいね。ドンちゃんやるじゃん!」
「ラズさんほどじゃないさ。」
俺たちと会話してその片手間に魔獣をバッタバッタとなぎ倒している。返り血はギルドの服にも刀身にさえもついていない。
というか、なんでこんなにラズは敬ってるんだ?そういえばグルークもラズさん呼びだったな。
「なぁ、ドンキ。そんなにラズは強いのか?ギルドマスターたるお前が敬うくらいなんだろ……。」
「うーむ、なんて言えばいいんだろうな。ラズさんからは殺気も殺意も感じないんだが……。
……。
……言い方が悪いんだが、畏怖の対象?みたいな感じなんだよ。
だが、ラズさんのこの性格だからな。ただの畏怖の対象じゃなくて親分的なポジション、って感じだな。」
ドンキがこういうほどだ。ラズの強さは俺の想像をはるかに超えるものなんだろう。
そんなに強いラズは俺の後ろでぷかぷか浮きながらポンポンをいじっているだけだけど。
とりあえずリハビリはこれくらいでいいだろう。今日はこの辺で終わりにしよう。
俺はそう思い、カルトダンジョンを出てシータに帰った。
帰りの馬車の中。
「そういえば、主。転移使わなかったね。」
ラズにそういわれた瞬間に確かにそうだ、と思い出した。
「……ああああああ!!
そうだ!そうだったじゃないか!……もう!お前のせいだぞ、ドンキ!戦闘中に使おうと思ってたのに……。」
「おいおい、いったい何のことか知らんが急に俺のせいにされても困るだけだぞ。」
「クッソ、宿を出る前までは覚えてたのに。お前のインパクトが強すぎたんだ。あぁ、転移使いたかった……。」
転移を使った戦闘を当たり前にできるぐらいになるためには慣れるしかない。
だから、今日から使おうと思っていたのだが、忘れてた。
「お前、さっきから何を言ってるんだ?転移ってのは?」
「?転移を知らないわけじゃないだろ。瞬間移動だよ。」
「まさか……使えるのか?!」
「あ、あぁ。使える……使えるけど、今は一日に一回だけだ。もう少し練習すれば、二回くらい。」
「はえー、これは驚いた!
これまでいろんな冒険者もいろんな魔術師も見てきたが転移を使える奴は見たことも聞いたこともねえな。お前はイレギュラーだらけだ。剣術もイレギュラーだしな。」
「一言多いんだよ、お前は。」
転移についてなんて言えばいいんだろうか。ごまかしたほうがいいのか。それとも説明した方がいいのか。
「……転移魔術は古代の魔術なんだよ。転移魔術を使える奴は相当少ないと思う。」
「いやー、一人もいないでしょ。
主くらいだよ、こんなへんてこな魔術使うの。出力があるわけでもなければ、仲間をサポートできる魔術でもない。
日常を大いに便利にするものでもないんだから。」
「はぁ?!おい……言いすぎだろ。」
幼少期にあこがれていたものがこんなにも馬鹿にされたら悔しいし、普通に悲しい。
何よりも実際そうなのが悲しい。転移魔術が使えるからって最強になれるわけじゃないのだ。
ただしかし、俺には剣術も魔術もないからこれを極めるしかない。
「中途半端な奴よりはましだ。だから、あんま気ぃ落とすなよ。使い物にならないものが使い物になった、なんていう事例は山ほどある。こういうことを無用の用というんだ。」
まさかこの世界には道家の教えがあるのか?!
ま、そんなはずあるわけがないから無視しよう。
「俺に少しの剣術か魔術があればもう少しうまく使ってやれるんだろうけどなぁ。」
そういえば前世でも瞬間移動をするためだけに時間を割いてきたが瞬間移動ができるようになってからのことは考えてなかった。
転移をどう利用することを考えるフェーズに移行したって感じか。
「剣術なら俺が教えてやれるぞ。
なんつったって剣の腕だけならギルドだけじゃなくてこの国の中でもなかなかに強いからな。まぁ、お前に教えられる剣術は普通のやつではないけど……。
それに、俺は魔術の腕はからっきしだ。
……そういえば、シータギルドにも精霊使いがいるな。そいつはこの前の遠征の後方組だったから帰ってくるのはもう少し遅れるが、そいつから精霊使いの何たるかを学べばいい。
魔術に関しては、
……シータギルドに俺が紹介できそうな実力者はいねえな。」
「魔術に関しては私がスペシャリストなわけだよ、ドンちゃん。」
「おっ!そうだったな。ほら見ろ。もうお前は最強になれるぞ。」
「はぁ、そんなので最強になれたらだれも苦労しねえっての。」
妹のリアだったら簡単にこなせそうなものだが……。
そういえばリアは元気にやってるのだろうか?あの日以降、ルドルーファ領に帰ったことはない。
もうちょっと金が溜まって、暇ができたらリアに会いに行こう。
とある研究所の中、一人の中年の男は天を仰ぎ、呟く。
「あぁ、ああ……。はっははは!これで……これでついにルドルーファの念願が叶う。
……待ちきれんぞ。ふふっ、はっはっは!」




