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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
20/52

冒険者編10 ギルドマスター

 俺のけがが治るまではおおよそ一か月の期間を要した。


 そんな一カ月を過ごし、俺の体がきれいに治ったので早速ダンジョンに行こうとしたが、ミールにしっかりくぎを打たれてしまった。


「完治したからといってダンジョンに言っても大丈夫というわけじゃありません。

 やるんだとしても手軽なクエストをしてリハビリするぐらいにしてください。それ以上のことをしようとするなら、ほんとに怒りますからね!」



 なので、Fランクの時にしていたクエストをあの時みたいにやり続けた。リハビリとしてちょうどいいのだが、つまらなそうにしている奴が一人、俺に対して苦言を物申している。




「あー……主つまんなーい。面白く無ーい。やる気でなーい。」


 そう、ラズである。

 日の光を浴びて、だらだらと汗をかいている主に対してこの精霊はどうだ?


「ほーら、ラズちゃん。氷菓子だよ。」


「あ!おばさん、ありがとう!」


「ラズちゃんは、ほんとに可愛いねえ。」


 依頼主のおばちゃんからお菓子を貰って満面の笑みで菓子をほおばっているではないか。


「ねぇ、主。リハビリももうそろそろいいんじゃない?どうせダンジョンで転移を使ってみたくてうきうきしてるんでしょ。」


「なんだ…ばれてたのか。」


「そりゃあね。毎晩寝る前に宿の外に行って帰ってきたと思ったら頭抱えて苦しそうにしてるんだもん。」


「……明日からだな。明日からはダンジョンに行こう。しっかり準備しておけよ。」


「了解!ま、準備するのは主だけだけどね。私ができることと言えばしっかり寝て食べるくらいだよ。」


「それ以外に一つあるんじゃないか?」


 ラズはとことん不思議そうに俺を見ていた。


「ポンポンだよ。ポンポン。」





 最近、俺は寝る前に宿の外に行き、転移魔術を練習する時間をとっている。


 この前までは一時間しっかり途中式を書いて丁寧に計算していたが、この前の一件でそれが間違いであることが分かった。

 魔力のパスを通してから一秒以内というとても短い時間。その時間内に計算することが転移に必要なことだった。


 魔力は放置していれば、少しずつだが霧散していく。

 俺が持っている微量の魔力ではそれが霧散するまでの時間がたった一秒……いや、それ以下だ。



 寒い夜空の下。俺は肩の力を抜き、集中する。目を閉じ頭の中を空っぽにする。

 その状況から一つのトリガーをもって頭の中を計算式で埋め尽くす。


「魔術理論、構築。」


 体温がどんどん上がっていくのを感じる。血が沸騰するほど熱くなっているのだ。自分の体に回る血を、全部頭に回す。果てしない計算の先。その魔術は完成する。


 ……


「転移。」



「……。ふぅ……。」


 今日は見えてる範囲でおおよそ10メートル先。問題なく成功した。が……


「くっ……!……はぁ。」


 俺は大きくため息をつき頭を抱えた。

 この頭痛だけはどうにもならん。


 体が完治してから何度も繰り返しているがこの頭痛がなくなることはなかった。

 ただ、頭痛に対しての耐性を得始めた俺。この前は転移をした後は体を動かすことすらままならなかったが、今であれば剣を振ることができるくらいに痛みを軽減することができた。


「さて、次は……」


 俺はそこらへんに生えている木に対面した。今からするのは自分を中心にした距離の場所に転移するのではなく、自分ではないものを中心として転移することだ。


「魔術理論、構築。」


 先ほどと同じように集中し、計算の方に意識を向ける。

 だが、


 ……


「ダメだな。……失敗か。」


 やはり二回目となると頭に回る血液量が足りない。ちょっと貧血気味な俺である。

 この期間で転移についてわかったことがいくつかある。これは俺が未熟だからなのか、それとも転移そのものの特性なのかはわからない。


 一つ、転移に必要なのはとんでもない計算量とほんの少しの魔力。

 二つ、転移できるのは俺が見えている範囲まで。

 三つ、転移には今のところ二種類あって、自分を中心にした転移、自分以外を中心にした転移。かつ、どちらも俺を転移するしかできない。

 四つ、自分と触れているものなら一緒に転移することができる。


 ……あともう一つ、不確定的な情報があるが、それに関してはこれから調べようと考えている。



 これくらいかな。……便利なのか不便なのか。

 今のところ相手の攻撃を回避するぐらいしか使い道がない。戦闘だけならば回避だけ。日常生活であればそこそこ便利。

 俺があこがれたものは、そんなに強くないのかもしれない。



「明日にはダンジョンに行くんだ。早めに帰って寝るか。」


 俺が独り言を言い、振り返った瞬間。


 俺の視界にほんの一瞬映ったものがあった。

 それはもはや見ることさえ許されないほどの速度を携えた剣戟。

 その剣戟は俺の首を狙っていた。


 反射的に体は動いた。が、もちろんよけきれるわけがなく……。

 俺は反射的に目を閉じたが、その剣が俺の首に触れることはなかった。


 ゆっくりと目を開けると、俺の首の前で寸止めされた剣をもつおっさんがそこにはいた。


「お前が新入り……か。あれに反応できるんなら……まぁ、上々、か」


「おいおい、初対面の人間にすることがこれって……。いったいどういうつもりなんだ。」


 俺の首元にあった剣はゆっくりと男の鞘へ納刀されていく。


「悪いな。俺はそういう人間なんだ。

 ……邪魔しちまったか。それじゃ、宿に帰る。お前もさっさと宿に帰れよ。」


 そういって、あのおっさんは振り返って、マジで帰ろうとしている。


「いや、ちょっと待てよ!名前くらい名乗ったらどうなんだ。」


「明日、ギルドに行けば分かるさ。お前ギルドに何時くらいに行くんだ?」


「は?……七時、だな。」


 一体どういう質問なんだ。こいつも冒険者、というわけか。


「え……もしかして朝の?」


「そりゃそうだろ。」


「は?!早すぎるだろ。どんだけ健康体なんだ。

 ……しょうがねぇ、早寝早起きするしかないか。じゃあ、また明日、な。」


「は?おい!どういうことなんだよ?!」


 おっさんはそのまま帰ってしまった。

 まるで訳が分からん。


 こっちは転移使ったから頭が痛いってのに、あのおっさんのせいでもっと頭が痛くなってきやがった。これがいわゆる頭痛が痛いってやつか。


 そうして、俺は宿に帰って、そのまま眠りについた。





 さて、しっかり朝の七時にギルドに来たわけだが……。


 ギルドの中を見回しても昨夜のおっさんの姿はない。グルークならいるけど。


「おはようございます、キリアスさん。何か忘れ物でもしたんですか?」


「あぁ、おはよう、ミール。……そういうわけじゃないんだが……。

 あ、そうだ。今日からダンジョンに行くんだが大丈夫そうか?」


 俺はそういいながら受付のテーブルの席についた。


「私は医療に詳しいというわけじゃありませんが、あれだけクエストをこなしていたんですから、きっと大丈夫ですよ。今日はどこのダンジョンに行きますか?」


「うーん……。」


 俺が、ダンジョンの資料を見ていると、後ろからギルドのドアが開けられた音が聞こえた。

 ギルドのドアが開けられることなんて、そう珍しいことじゃない。俺はそのまま資料を見ていた、が……。


「おはようございます、ってあれ?!ドンさんじゃないですか。帰ってきてたんですね!?」


 ?ドンさん。これまで聞いたことがない名前だったので思わず振り返った。


「キリアスさんは合うのが初めてですよね。

 この方がシータギルドのギルドマスター。ドンキ・アグリーさんです。」



 まぁ……何となくだが俺はわかっていた。

 ギルドマスターという言葉を聞いた瞬間に頭の中であの剣戟が放たれる。

 まためんどくさいおっさんと関わらなきゃならなくなるようだ。


「よぉ、ミールちゃん。久しぶりだな。

 それと……昨日ぶりだな。新入り。」


「よりにもよって、なんでお前がギルドマスターなんだよ。」



 俺はそのドンさんと言われているおっさんをにらみつけた。


「二人ともお知り合いだったんですか?」


 あ、そうだ。ミールを見ていいことを思いついた。

 このギルドにいるおっさんどもはほぼ全員ミールを気に入っている。

 ならば……



「なぁ、ミール聞いてくれよ。昨日の夜に俺が街に出てたらさ、急にこのおっさんに襲われ……。」


 言いたいことを言いかけた瞬間に俺の口はおっさんの手によって遮られた。


「おいおいおい!な、なぁ新入り。それを言うのはだめじゃないか?!あれはただの冗談でだな。本気じゃなかったんだよ。な!?わかるだろ!」


 とんでもなく焦っているのがよく分かった。このギルドにいるおっさんはなかなかどうして扱いやすい。


「あの時のことは謝る。すまん。だからな、ミーちゃんだけには言わんでくれ。

 ……あ、そうだ!名前だ。お前の名前を教えてくれ。」


 ……確かこいつの名前は、……さっきドンさんって言われてたな。ふっ、にやり……



「はいはい、わかったよ。言わないよ、……ドンちゃん。」


「クッソ、生意気な新入りが。」


 眉間にしわが寄ってるぞ、ドンちゃん。


「俺の名前はキリアス・ルドルーファだ。」


「は?ルドルーファ?なんでこんなところにルドルーファが……?

 いや、だがキリアス……ってことは……。あぁそういうことか。アジューダの坊主も、ついに子供を持つくらいの年になってたってことだ。」


 なんだ、父さんを知ってるのか。ギルドのギルドマスターが何でド田舎の領主の名前を知ってるんだ?王都の方じゃ有名だって話だったから……なのか?


「よろしくな、キリアス。さっきも聞いただろうが俺はこのシータギルドのギルドマスター、ドンキ・アグリー。みんなからはドンさんって言われてるんだが、お前は……。」


「よろしくな、ドンちゃん!」


 ギルドマスターなるおっさんはどうやら面白いやつらしい。不思議そうにこちらを見てくるミール。


「あぁ、大丈夫だぜミール。俺とドンちゃんは仲がいい。冗談を言い合える仲なんだ。」


 そういって、俺はドンキの肩に自分の手を回した。


「そ、そうなんだミーちゃん。決して、実力を見たいからって襲い掛かってはない。……絶対……ない。」


「何のことを言ってるんですかドンさん?

 ……それよりも、おかえりなさい。遠征は無事に終わったそうですね、よかったです。」


「?遠征ってなんだ。」


「遠征ってのはな、坊主。新しいダンジョンが発見されたときにそれを調査するためにすべてのギルドの実力者のみを集めた調査隊を組むんだ。一般的にはそのことを遠征っていう。」


 遠征の説明をしてくれたのはもう一人のおっさんだ。


「おぉ、グルーク。元気にしてたか?」


「当たり前だ。お前がいなくてもこのギルドはでかくなったんだからな。こうやって……」


 グルークは俺に近づいてきて頭をわしづかみにしてぐりぐりしてくる。


「新人が入ってくるぐらいにはな!」


「そうだな、ただ。……上位のゴブリンが、それもシルバダンジョンの上階層に出たんだろ。町の掲示板に書いてた。

 被害者は?ギルドマスターの俺が弔ってやらなきゃな。」


 ドンキがこういうと、グルークは思いっきり口角を上げてぐりぐりする力を強くした。


「0人だ、このキリアスのおかげでな!」


 そこから、この前の件をミールとグルークが話し始めた。




「お前、実はすごいやつなのか?!そんなひょろいなりして。」


 心底驚いた声と顔でドンキはそういった。


「一言、多いわ。

 ……どうやらそうらしいぜ。そんなことよりも今日はリハビリ終わりのダンジョンに行きたいんだ。ミール、今日はシリスダンジョンに……」


「あ!そうだ、そのことでキリアスさんにお話があるんでした。」


 そういって、ミールはギルドの奥に行ってしまった。




「ちなみにキリアス。お前のランクはいくつなんだ?上位のゴブリンから生き延びたんだ。Bはあってもおかしくないんだが、俺が遠征に行ってから、新しく入ってきたやつのランクがBっていうのも信じらんねえしな。」


「俺のランクはDだ。このギルドに来てから四か月とちょっとしかたってないからな。」


「ほほぉ。四か月でDとは……。まぁ、普通ぐらいだな。」


 なんだよ、その間。

 ちょっと期待しただろうが。普通の異世界小説とかだったら……




「なに?!四か月でランクDだと?!これはこのギルドの革新になるかもしれん。」




 みたいな反応じゃない?この世界には期待してから落とされることしかされていない気がする。

 なんて雑談をしていたら、ギルドの奥からミールが返ってきた。


「で、話ってのは何だ。」


「はい、実はですね。キリアスさんが入院している間にキリアスさんのランクアップの推薦があったんです。

 推薦したのはキリアスさんがお助けしたシュートさんのパーティの皆さんです。」


 といって、昇格証明書をもらった。つまり、これで俺のランクはCになったわけだ。これなら……。



「おい、どうだドンキ。四か月でCだぞ!」


「ほほぉ。四か月でCとは。……まあ、そんなに珍しいことでもないな。」


「くっそ……なぁグルーク。ほんとに珍しいことでもないのか?」


「まぁ、……坊主には言いにくいが実際そんなに珍しいことじゃないからな。

 ほんとに上がらないのはここからなんだよ。CとBだったらいろいろと違う。

 まず、人数が違う。Bランクのやつはこのギルドでもほかのギルドでも数が少ない。この前の魔王軍進軍の時に大人数がやられたからな。そのせいでCとBには大きな壁があるんだ。」



 魔王軍進軍、か。つまり、まだ魔王は生きてるんだな。


 あの文献の中で出てきた魔王という存在。色々文献を調べてみたが その出生は不明。

 勇者が魔王城に進軍することがあるんだから進軍されることももちろんある、というわけか。


 そういえば勇者という単語はこの世界に来てからあの文献でしか聞いていない。


「なあ、グルーク。勇者って知ってるか?」


「あぁ、存在だけなら知ってるぞ。魔王を倒すといわれている選ばれし青年。すべての魔術を扱い、選定せし武器を携え、人々に光の道を指し示す。

 なんていうお伽話があることなら知ってるぞ。

 ……なんだ、キリアス。勇者のことを信じてるのか?」


「魔王がいるんなら勇者がいてもおかしくないだろ。」


「そんな奴がいてくれたら、魔王軍との長い戦争もなくなるんだろうな。

 無くなってないってことは勇者なんてのはいないんだよ。」


「まったくグルークは面白くねえな。……その手のことをミーちゃんの前で言うってのは面白いがな。」


「あ。まじったな、こりゃ」


 ?俺が困惑しながらミールの方を向くと、そこには下を向いてプルプル震えているミールがいた。


 すると、急に顔を上げて、


「まったくグリークさんは何もわかってないですね。

 勇者様は存在するんですよ。昔の文献がそれを物語っています。今はまだその時じゃないから眠りについているだけで勇者様は存在しますよ。

 きっとダンジョンの中にある聖剣は勇者様のために作られたものなんですよ。

 きっとそれをサポートする存在が冒険者なんです。だからそのためにも私たちが……。」



 はぁ、またか……としか言えないな。

 ミールのファンタジーオタクが発動してしまった。


 さっさとダンジョンに行こうと思って朝の七時に来たのに、気づいたら三時間以上たっているじゃないか。

 さて、これだけ時間がたっていればあいつが来るのも時間の問題かな。



「主―!早くして!もう、寝飽きたあ!」


 寝飽きたってなんだ。寝飽きたって。


「悪いな、ラズ。もう行くから大丈夫だぞ。」


 そういって俺はミールが持ってきていたCランク冒険者用のダンジョンの中から適当に選んで、手に取った。

 それを持ってさっさとダンジョンに行こうとしたとき、ドンキが唖然しているのが見えた。


「ん、どうしたドンキ?」


「お前……それ、もしかして精霊か?」


「あ、そういえばドンさんがラズさんを見るのもこれが初めてでしたね。」


「その通り、この私はたいていの魔術を使うことができる天才。

 そして、このどうしようもなく弱い主の精霊。ラズ様だ!敬いたまえ、ドンちゃん。君の百倍は強いよ、私は。」


 なんて饒舌な。しれッと悪口言ってんじゃねえ。


「……。はっはっは!こりゃ驚いた!まさか、キリアス。お前精霊使いだったのか。だとしたらそのひょろい体も納得だな。」


「いんや、俺は精霊使いじゃないぞ。俺に魔力はないしな。俺は剣士だ。」


「は?……。あああああ!」


 唐突に頭を掻きむしり始め、大声を上げたドンキ。


「おい、急にどうしたんだ、ドンキ?」


「もう訳が分からん。おいキリアス、お前これからダンジョンに行くんだよな。だったら俺もついてく。」



 …………。

 いや、そうはならなくね?


「よくわからんことはそいつの剣を見ればわかる。だから俺もついていく。それにラズさんのことをもうちょい知りたいしな。」


「そうかそうか、ドンちゃんよ。それでは主、レッツゴー!」



 もう、なんか疲れてきた。

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