冒険者編9 安堵の中で
俺はいま、きっと……知らない天井だ……と、言いたかったんだと思う。
だが、しかし神様はそれを認めようとはしなかった。
なぜなら、起きた時の俺の視界が真っ暗だったからだ。
声を出そうとしてももごもごとしか声が出ない。それと、全身が砕けたかのようにいたい。
俺の骨折れてない?大丈夫?
内臓ぐちゃぐちゃになってないだろうか。
生きてるし大丈夫……なのか?
とりあえずもごもご言って周りに気づいてもらおう作戦をとる。誰かに俺の存在を気付いてもらわねば。
俺の意識が戻ってから少しの時間が過ぎると、離れたところから足音が聞こえた。
ここがチャーンスと思った俺。声をもう少し大きくして、必死に自分のことをアピールする。
声を大きくすると肺がもっと痛くなったので、病室には俺のうなり声しか上がらなかったが……。
「キ、キリアスさん……キリアスさん!」
この声は、ミールだろうか?
確認しようにも声も出ないし周りも見えないから確認のしようがない。
なんてことを考えていたらミールは俺に抱き着いてきたようだ。
「生きてて、よかったです。」
ミールは泣きながら、俺が生きていることを喜んでいたようだ。でも抱き着いてくるのはずるいと思う。
前世も現世もしっかり童貞だぞ、俺は。
女子に慣れていない俺はめっちゃきょどったが声も出ないし顔も見えていないようなのが幸いした。
ギブスと包帯にこんな理由で感謝した人間はきっと俺くらいなものだろう。
「主、考えてることがきもいよ。」
(?ラズ?もしかして、心の中が読めているのか?)
「魔力のパス繋がってるんだからそりゃそうだよね。」
「あ!ラズさんも無事だったんですね。よかったです。」
「私は精霊だから直接傷ついたりはしないから大丈夫だったよ!主はコテンパンにやられたらしいけど。」
「そうですか。皆さんを呼んできますね。少し待っててくださいね、キリアスさん。」
ミールはそういうと俺の病室から出て行った。……さて、
(ラズ、あの後何があったのかわかるか?)
「申し訳ないけど、魔力切れであの後ずっと寝てたからわかんない。主、そんなにボロボロだったっけ?」
(お前がゴブリンを一掃してくれたおかげでもう安全になったと思ってたんだが、あと一体だけゴブリンが残ってたんだ。そのゴブリンにぼこぼこにされた。
死ぬ直前でグルークが来てくれたから生き延びたんだが。)
「ぷぷっ。主、とことんついてないね。ダンジョン初日からあんなひどい目にあうなんて。」
俺とラズが話をしていたら、何人もの足音が聞こえてきた。
「よう、キリアス。しっかり生きてたんだってな。」
この声はグルークだろうか。
感謝を伝えたいがあいにくと声が出ないので伝える方法がない。
「グルークくん、主が感謝したいって。」
「お?あ、そうかラズさんは坊主の精霊だもんな。…………にやり……なぁ坊主。この恩はいつか酒として払ってくれや。浴びるほど酒を飲みてえって、昔っからの夢だったんだ。それも人の金でな。」
……まったくこのおっさんは……。こんなやつのことを一瞬でもかっこいいなんて感じてしまった俺が恥ずかしい。
まぁ、それはいいか。
ラズを通してであれば俺の意思が伝えられるんだな。であれば、
(ラズ、俺たちが助けた二人がどうなったか聞いてくれ。)
「私たちが助けた二人はどうなった?だって。」
「その二人なら、今も治療中ですが、幸いなことに無事です。死ぬ直前に治癒魔術がかけられていたので間一髪のところで一命を取り留めました。」
「あ!その治癒魔術、私!ねぇ、ミーちゃん褒めて褒めて。」
「そうだったんですか?!えらいですね、ラズさん。本当にあと少しでも治療が遅れていればきっと間に合いませんでした。」
ラズの態度はあんまり気に入らないが、生きてくれてたならよかった。
くっ!……ラズめ、俺があそこで治癒魔術をつかえって言ってなかったら助けられなかったろうに。
「……。
主、生意気だ!くらえ、ラズぱーんち!」
「ぐはっ!」
あああああああああああああああ!!!!痛ってぇ!!
こ、こいつやりやがった。けが人の主のみぞおちにストレートパンチお見舞いしやがった。
(おい!ラズてめぇ!俺を殺す気か!)
「主はもっとラズに感謝すべきなんだよ。」
ちょっと前にそうやって感謝して、文句を言ってきたのはどこのどいつだって話だ。
「まだ生意気だ!ラズぱーんち!」
「ぐはっ!!」
はぁ……
いってえ……。
「ふふっ、でも本当にキリアスさんが生きていてよかったです。
キリアスさんが戦ったのは上位種のゴブリンです。
シルバダンジョンでは確認されたことのない魔物でした。
そのゴブリンと遭遇したのにキリアスさんが生きているのは本当にすごいことなんです。通常種と上位種は比較にならないほど、力の差があって対処できる冒険者のレベルもぐんと上がるんです。
ラズさんがいたから切り抜けられた、というのもありますが生きて帰ってこれたこと自体が奇跡のようなもの。
なので、よかったです。おかえりなさい、キリアスさん!」
ミールはあのゴブリンの説明をしてくれた。真剣な声と真剣な空気なのだが……。
なんというか、……俺の場違い感がすごい。
きっとミールは笑顔でそんなことを言ってくれていると思うんだが、全身ギブスと包帯で声すら出せないから、ただいますら言えないのだ。
だからこそちょっとだけ恥ずかしくなってきた。
「ただいま、だって。あと、こんな格好だから恥ずかしくなってきたってさ。……ぷぷっ、主しっかりダサいね。」
こいつはどんだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだ、まったく。ほんとうに面白くない冗談だ。
「……ふふっ。」
ん?ミール?
「「がっはっはっは!」」
「「あははは!」」
病室が笑い声で満たされた。
「いやぁ、悪いなキリアス。お前の格好、やっぱめちゃくちゃおもしれえ!」
えぇ?ちょー不服。




