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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
17/52

冒険者編7 ゴブリンとの決戦

「ふん!!」



「はっ!」



「せいや!」




「頑張れ!がんばれ!主!やれ!やれ!主!」

 …………。


「だから、手伝えよ!!二時間くらい前も見たわこんな状況。それに段々魔物が増えてきてるからちょっときついぞ。」


「えぇ、でも私…」


「それもさっき聞いたから。」


 はぁ、っとため息をついて


「ひとまず休もう。疲れた。」



 そうして、ダンジョンの中にある少し大きい岩に腰を落とそうとした時。


 ……!!

これは、この匂いは……!


「血の匂いだ!やっぱ休まん。ラズ、今すぐ行くぞ。」


「うわ、ほんとだ。……これは真剣にならなくちゃいけなそうだね。わかったよ、主。」


 俺たちはすぐに走り出した。




 俺とラズはダンジョンの洞窟の少し開けたところについた。

そこには……。


「おい!大丈夫か?!」


 大量の血を流した二人の冒険者が倒れていた。俺とラズはすぐに二人のそばに駆け寄る。


「おい!!返事しろ!息は……あるな。」


 少しだけ……ほんの少しだけだが息がある。

まだ生きてる。


「ラズ!お前治癒魔術、使えただろ!早くしろ!」


「…………。」


「何黙ってんだ!」


「……そうだね、私は使える。……ただし、それをさせてくれる暇はなさそうだよ。」


「は?何のこと言ってんだ、早くしないと……」



 ダンジョンの奥。その方向からその絶望の音が聞こえてくる。このダンジョンで初めて聞いた音。それは何者かの足音。



 ダンジョンの陰から出てきたのは……ゴブリンだった。だが、これまで見てきたゴブリンを人間でいうヒョロガキだとするなら、こいつは……身長200㎝の筋肉ゴリラ、片手にはどでかい棍棒を持っている。

その巨体から放たれる、見るからにやばい闘気、そして殺気。これまで戦ってきたやつとは、まるで比べる意味がない。


「私に任せてね、主。主じゃ絶対勝てないから。」


 絶対に俺じゃ勝てない……そんな当たり前なことはこの俺が一番よくわかっていた。


「……。」


 だが……。だが、それでも俺は……。


「治癒魔術にかかれ、ラズ。こいつの相手は……俺がする。」


「え、……主でも……」


「主からの命令だ。今すぐに、治癒に取り掛かれ。」


「……。」


俺の命令に対してラズは返答をよこさない。あるのは沈黙だけだった。


「早くしろ。」


「……ねぇ、主ってそこまで馬鹿だったの?

見たらわかるでしょ、あいつは主を殺す。主は死ぬんだよ、簡単に死ぬの。

今、主がやろうとしてるのは自己満の不十分な自己犠牲。

弱いやつの犠牲は何の意味もない。

目の前で無様に、無意味に死ぬだけ!」


こいつが大きい声を出すのは何度も聞いてきた。だが、……怒気を孕んだ声を聴いたのはこれが初めてだ。

こいつの本気がよく伝わってくる。


「……それでも、今助けなきゃこの二人が死ぬ。

そんなの絶対に認めない。目の前の助けられる命を放っておいて、生きていくなんて……そんなこと俺にはできない!」


「弱い者が、誰かを護ろうと……誰かを救おうとするのが間違いだってことぐらい……気づいてよ……。」


 ……。


「……でも、主の意思は分かったよ。あんな体験してるならなおさらね……。死んじゃだめだよ、主!」


「……!あぁ、わかってる。治癒は任せたぞ、ラズ!」


 そうして俺は振り返り、このデカ物と対峙する。

後ろからは治癒魔術の音が聞こえてきた。本格的に治療が始まったらしい。



 俺は手に持つ剣を構え、ゴブリンと目を合わせる。


「◎△$♪×¥●&%#!!」


ゴブリンの奇怪な声がダンジョンに響くとともにこの戦闘は始まった。




 ゴブリンの動きは単純なものだった。

俺たちがこれまで戦ってきたゴブリンや魔獣と同じように思考回路のないような攻撃。


 だが、これまでの魔獣とは圧倒的に違うものがある。

棍棒を振る速度、攻撃を放ってから次の攻撃までのスパンの短さ、間合いに近づいてくる速度。

そして、何よりも攻撃一発一発の破壊力。



 何度か攻撃をよけていく中でその攻撃の異常性は容易に気付けるもの。……その音だ。


おおよそ空を切った棍棒から出てはいけないような音が出ている。その音が俺をより恐怖に陥れる。

攻撃を見て、避けることはできてもその恐怖心があるせいでまったく、自分からの攻撃に転ずることができない。


完全な防戦一方になってしまっている。


 そして、何度も攻撃をよけながら後ろに下がっていったから、俺の背中には洞窟の石の壁が当たっていた。



「……!」


その時、本当の死に直面した気がした。


 振り上げられる棍棒、下がることができない絶望。

その二つの要素は俺を死へと簡単に誘ってしまう。もはや死を認めてしまっている自分がいるのだ。

こんなやつを目の前にして生きようと抗う方が馬鹿なんじゃないか、と……。


 そして、俺は……その目を閉じた。




…………。


 ……でも


 暗闇の中に小さな光がある。


 ……まだ死ねない


 諦めようとしない自分が……そこに存在する。



 ……だって、まだ俺は弱いじゃないか

 ……何のために冒険者になったんだ



 ……強くなる。そのためだろ!




 次の瞬間、俺は力強くその目を開ける。


俺だけの力を、今、行使する。



「魔術理論、構築!」



 頭の中のすべてを、数式で埋め尽くす。それ以外のことを考えようとはしなった。


迫りくる棍棒も、逃げることが許されない状況も、その時だけは何もかもを忘れていた。


 ただ、瞬間移動という、これまでに一度だけたどり着いた極地を目指したのだ。



 振り上げられた棍棒は一直線に俺の体へ向かってくる。その棍棒はいずれ、振り切る。俺の体の半身はもう一つの半身と離れ、そこら中に臓物が飛び散る。




 ……だが、そんなことはない。

理由は一つだけ。棍棒が当たるよりも先に、俺がその言葉を発したからだ。そのアクションはいずれ世界に影響を与える。



「転移。」


 俺は気づくと、ゴブリンの後方に転移していた。それを認知した時、俺は自分の手のひらを見て、しっかりと握りこんだ。


「成功……した。」


 俺はいま、困惑しているゴブリンを後ろから眺めている。その姿はとてもあほらしいものだった。

俺はこんなやつに殺されかけていたのか、と。


 これまで転移に失敗していたのはとても簡単な理由だったようだ。それを今、体が理解した。


 ただ……ただ、その計算速度が遅かっただけなのだ。



 魔力のパスを作ってから一秒以上の時間をかければすぐに魔力が散っていってしまう。だからこれまで失敗し続けていたのだ。


この原因が分かったのなら、俺は最強。だって、この転移の力を好き放題に使えるのだから。



……なんてことは当然のようにありえない。



「ぐっ!あああああああ!!ああ、あ"あ"あ"あ"!!」


 成功した次の瞬間、俺に襲い掛かってきたのは頭痛だ。それもこれまで経験したこともないような頭痛。


一秒以内にありえないほどの計算速度と計算量をこなした俺の頭は今にもぶち壊れそうになる。


どうやらこの現象は絶対に起こるものらしい。

前回の時も頭痛とは違ったが、眩暈や吐き気の症状があった。何ならあの時は出血までしてた。

つまり頭痛で済むのはましな方なのだろう。



 なんてことを考えているが……内心、めちゃくちゃ焦っている。だって、もう戦えない。

頭痛があまりにもひどく、これ以上体を動かすことは不可能だ。



 そして、焦る理由は頭痛だけじゃない。俺の目の前にいるゴブリンがこちらを向いて歩いてきたこと、それと同時に俺の背後から同じ足音がいくつも聞こえたことだ。

……つまり、



 ゴブリンはこの一体だけではない。

戦えない俺、何体ものゴブリン。ほぼ詰みの状況、


…………。

だが、どうしてだろうか。今、俺はとても安心しているように思う。

だって…………俺にはあいつが、いる。




「主、選手交代だよ!」


 俺をかばうようにゴブリンの前に出たラズ。

まったく、最高のタイミングで来るじゃないか。



「ああ。頼んだぞ、ラズ。」


「おうさ、しっかり見といてね主!主の精霊の、本気ってやつをさ!

……それと……ちゃんと強くなってるじゃん。私はうれしいよ!」


 ラズは右手を輝かせ、ゴブリンへとその美しい羽根をはばたかせる。その魔術を行使する。





 その姿は、まさに魔法少女。

華麗な動きと魔術で、俺じゃ歯が立たなかったゴブリンをばったばったとなぎ倒していく。

 もちろん一体だけじゃない、何体もである。ゴブリンは何もできないまま魔石へ変わることしかできていなかった。




 あっという間に周りにいるゴブリンのすべてがいなくなった。

ダンジョンの真ん中には凛々しい姿のラズがいる。

 魔術を使わせたらこいつは一番強い。……かっこいいのだ。



「主、どうだった?私の魔術。」


「かっこよかったよ。

……ありがとな、ちゃんと治癒魔術を使ってくれて。」


 俺の隣には治療が終わった冒険者二人が眠っていた。


「最低限しかしてないけどね。

これで、放っておいても死にはしなくなったよ。

いやー、にしてもびっくりしたよ!主が急に、自殺発言し始めたからさ!」


「それに関しては申し訳ない。ただ、目の前で人が死ぬのはもう見たくなかったんだ。」


「……。ふーん、主ってやっぱお人好しなんだ。すごいね、かっこいいじゃん。」


 ちょっと照れるし、あの時俺がラズにした発言を思い出すと頬が赤くなる。


「それより、主ごめんね。」


「?何の話だ。」



「いやー、もう魔力切れでめっちゃ眠たいんだ。だから、頑張ってこの二人のことを一人で運んでね。」


「あぁ、ここは俺に任せてゆっくり寝てろ。お疲れ様。」



 そうして、ラズは霊体に戻っていった。

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