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あの日あこがれた瞬間移動  作者: 暁雷武
あの日あこがれた瞬間移動 冒険者編
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冒険者編6 近づくは絶望の手

 俺は、シルバダンジョンに向かう途中で渡された資料に目を通していた。


 どうやら出てくる魔物は下位の四足魔獣とゴブリンくらい。

 ダンジョンの核となるアーティファクトは持ち出し禁止のものらしい。

 持ち出しが禁止されている理由は簡単で説明を受けた通り、ダンジョンがダンジョンとして成立しなくなるから。


「ラズってダンジョン攻略とかはしたことがあるのか?」


「うーん、ないかなぁ……。」


「……。そうか……。」


「……何主、もしかして心配してるの?」


「そりゃ、心配するだろ。初めてのダンジョン攻略なんだからな。」


 俺がそう言うとラズは大きなため息をついた。


「なんだよ、心配しちゃダメなのか?」


「そりゃ、ダメでしょ。だってこの私がいるんだよ。心配する必要なんてないないなーい。」


「……。」


 どんだけ自分に自信があるんだこいつは……。


「それに、……主にも少しくらいは力がついてきたしね。ま、弱いことに変わりはないし、毎日練習してる転移は成功してないみたいだけど!」


 褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれ。



 ……そう思っていたところ、前からもう一台、街に向かっている馬車が来ているのが見えた。


 俺たちが行こうとしているシルバダンジョンの方からの馬車なので、きっと帰っているところなんだろう。


「……。」


 馬車が横を通り過ぎる瞬間、見えたのは俯いている一人の男。

 ただその姿はボロボロで、冒険者が身に着けている装備などはすべてボロボロ。壊れた装備の間から見えたのは血まみれで抉れた皮膚だ。


「……。おいおい、ラズ。ほんとに大丈夫なんだろうな?めちゃくちゃ不安になってきたぞ。」


「……。」


「ラズ?…って寝てるし。」


 俺が魔獣に襲われそうになった時の、あの火球を放てる奴だ。本当に大丈夫なんだろうな。





「ふん!!」



「はっ!」



「せいや!」




「頑張れ!がんばれ!主!やれやれ!主!」


 へとへとになりながらも剣を振る俺に対し、いったいどこから取り出してきたのかわからないぽんぽんを振っているラズ。


「くぅ……ちょっとは手伝え!」


「えぇ~、でも私ぃ…か弱い女の子だしぃ。」


「魔術が使えるだろ、魔術が!あとそのポンポンどっから出したんだよ。」


「何言ってんのか分かんなーい。それに私、手伝ってるって。魔石拾ってるし。

 そろそろ魔石の数も多くなってきたし帰ろうよ、主。」


 そういうラズが持っている小さな袋の中には俺が倒した魔物たちの魔石が入っていた。魔石の数が多いといっても手のひらに乗るサイズの袋。

 あまり稼ぎになりそうにないな。魔石集めは……。


「それもそうだな。」



 シルバダンジョンに潜ってからもう二時間くらいたっただろうか。

 出てくるのはこれまでに少しくらい戦ったことのある魔獣とゴブリンだけだし、数は多いけど一体一体であればさばけるようになってきた。

 この三か月で少しは成長しているということだろう。



「なぁラズ。帰る前に三階層以降に行ってみないか?この調子なら問題ないだろ?」


「いいよー、いこいこ!」


「……。」


「?どったの主。私のことじーっと見て……。惚れた?」


「いや、珍しいなと思ってな。大体こういう時は、早く帰ろうよーおなかすいたー、とか言ってたじゃないか。」


「全然動いてないんだから眠くもないしおなかもすいてないよ。」


 馬車の中ではぐっすりだったしな。これまでの経験からして、寝たら魔力が回復するような感じなんだろう。

 ……。いや、疲れてないんだったら手伝えよ。


「それじゃ、行ってみるか。」





「あぁ、行ってくる。」


 そういって、キリアスさんはギルドを出て行ってしまった。笑顔で送り届けたが正直不安。


 いくら、ラズさんがいるからといっても彼は冒険者になって三か月しかたっていない。それに……なんだか、すごく嫌な予感がする。


「なんだ、ミーちゃん。あいつのことがそんなに心配なのか?」


「あ、グルークさん。ははっ、……気づかれちゃいました?」


「あぁ、わかるさ。たいていのことは笑顔で隠せるがそれだけは隠せねえな。女が男を心配する目だ。」


「……なんですか?からかいに来たんですか。」


「はっはっは!悪いなミーちゃん。そんなつもりはなかったんだが……。あいつにはあのラズさんがいるんだぜ。大丈夫だろ。

 それにシルバダンジョンだったら半刻前にシュートたちが行ったばかりだろ。

 あいつらのランクはC。もしピンチになっても先輩の肩を借りればいい。」


「……それもそうですね。安心して待っておきますか。」


 それから私は、いつも通りギルドの運営の事務作業をこなした。




「お、シュート!もう帰ってきたのか?早いじゃ……ない…か。…………おい、シュート、いったい何があった?」


 その場にいた全員が青ざめた。


 今、ギルドに入ってきたシュートさんは全身傷だらけ、血をだらだら流しながらそのボロボロな装備を引きずっていた。

 だが一番重要なのは、


「……。」


 そこにいたのは「シュートさんだけ」ということだった。


 シュートさんはギルドの中に入るなりすぐに倒れた。

 私はすぐにシュートさんに駆け寄る。


「治癒魔術が使える方はシュートさんの治療にかかってください!そのほかの人は医者の方をここに呼んできてください。

 シュートさん、落ち着いて、ゆっくりでいいので教えてください。いったい何があったんですか?」


 私がそう言うと、シュートさんはゆっくりとその口を動かし始めた。


「……シルバダンジョン、シルバダンジョンの…四階層だ。

 ……四階層に……。


 そして、言い放つ。その、信じられない事実を……。


「……上位のゴブリンが!」


 !!!


「グルークさん!今すぐ、シルバダンジョンの四階層に向かってください!!」


 私がそう伝えると、すぐにうなづいて、グルークさんのパーティメンバーに顔を向けた。


「おい、お前ら!!酒捨てて、武器を持て!行くぞ。

 ……死んでくれるなよ、坊主。」



「上位のゴブリンに……。……みんな…お、俺を逃がすために……。あぁ、あああ。

 ごめん、ごめん!!」


 そういって、シュートさんは涙を流し始めた。


 上位のゴブリン。Bランク相当の冒険者が対応する魔物。力だけを見るのであれば上位種の魔物の中であれば弱い部類の中にはいるが、それでも上位種。通常種とは比較にならないほどの脅威となっている。


 あのシルバダンジョンでは一度も確認されたことがない魔物。

 そして……。四階層。


 そこで私はあの時にキリアスさんに言った言葉を思い出した。




「キリアスさんはDランクなので三階層までですが問題なければ三階層以降に行ってもらっても大丈夫です。」





「…………。」


 死なないで……。生きていてくださいキリアスさん。

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