冒険者編2 初戦闘
「ねぇ、主ぃ。さっさと先、進もうよぉ。そんな変こといちいちやってるから時間もお金もかかるんだよ。」
道端にある石ころに座って特訓している俺の方を詰まらなさそうに見ているラズの姿がそこにはあった。
まったく、変な事とはなんだ。変な事とは。
ちなみに俺がやっているのは転移魔術の練習である。あの時使った転移魔術だが、あの日以降成功したことがない。
「……なんで、成功しないんだろうなぁ。」
あの時の俺は、
……自分の座標と転移したい場所の座標に魔力のパスをつなぐ。そこからは物理学、量子学の式を作り、その中に魔術理論の魔術式を代入。
出てきた答えに沿ってパスをつないだ場所に魔力を注ぎ、つなげる。
この手順を正確にしているはずなんだけどなぁ。
「転移魔術なんて言うあんまし見たことない魔術だし、たぶん主じゃできないんだよぉ。もう早く行こうよぉ、つまんなーい……。」
毎日一時間は紙に途中式をつらつらと書いて魔術理論の構築をしているが式があまりにも長いし、魔術理論を突っ込んだところがどこだったのか分からないので成功できない。
たぶんここかなぁってところは分かってるんだけどなぁ。
あの時の俺が相当覚醒していたんだろう。そうして納得するしかない。
「はぁ。今日もできない、か。」
「主って転移魔術以外にどんな魔術使えるの?」
「ファイアボールだけだな。」
「ぷぷっ。主、可愛い!
ファイアボールしか使えないのに使おうとしてるのが転移魔術って面白いね。……でも、よし!そういうところが主のいいところだよね。」
「お前は俺の何を知ってるんだ。ついこないだ会ったばかりだろ。」
「ま、諦めずに頑張ってね。主!」
雑談相手がいるというのはうれしいものだな。
これまで何度も特訓をしてきたが、失敗続きで半ば心が折れかけていた。ただ、目の前にこいつがいるなら諦めてはいられない。モチベーションを保つことができる。
まぁ、諦めたら諦めたでラズから何か言われそう、というのがあるから諦めたくない。というのが理由だ。
こいつに感謝したくはないが、ありがたいことは事実なのだ。
……。
そんな俺は、ラズがまだいないときであれば一番の鬼門だった山道に到着していた。
俺が今歩いているのは山の中の獣道。びっくりするぐらい歩きにくい。汽車がどれほど便利なのかが分かったような気がする。
苦労している俺に比べてこの精霊はというと……
「主ぃ!ほらほら、頑張って登ってきなよ。遅いよ、主!」
まったくと言っていいほど動いていない羽根でぷかぷかと浮いている。常に俺の前を浮きながら煽ってやがる。
こっちは汗だくだっていうのに。
「おい……お、お前。ちょっとは、……はぁ、て、手伝えよ。
実体を持ってたら……少しずつだけど、魔力を消費するんだろ?……だったら実体を持ってる時ぐらい、……はぁ、手伝え。」
「ふふっ!そんなのいやに決まってるじゃん。私が手伝ったら主が苦しんでる姿が見えないんだからさ!」
鼻歌交じりのラズ煽り。
満面の笑みが過ぎるだろ。本当に俺が主なのかを疑うレベルだ。
というかパワーバランスで言うとあっちの方が圧倒的に強いわけだし、実際俺が主じゃないのかもしれない。
と、そんな感じで登っていると、
「ふぅ、ようやく汽車の線路が通るところについたな。」
汽車の線路が置かれている道は比較的通りやすい道になっていた。
もちろん角度があるのできついものはきついが、さっきよりかは幾分ましである。それでもさっきまでの獣道の影響で俺はぜぇはぁ、言っていた。
「ほんとに主は体力ないね。もっと運動した方がいいよ。」
「はいはい、善処するよ。」
そうして、俺たちがこの道を歩いているときに聞こえてくる声があった。遠くからの声だ。
「うわああああああ!魔物だ!誰か、誰か冒険者はいないか?!」
その声は俺たちの前から聞こえたものだった。
それが聞こえた瞬間、俺は走り出していた。
もちろん疲れている。
だが、早くしないと、もしかしたら誰かが……
「主、遅いよ?」
「そう思うなら手伝ってくれ。というか手伝え!
こういう時ぐらいは真面目にしてくれよ。人の命が危ないかもしれない!」
「もちろんわかってるって!されじゃ行くよ、主!」
ラズはそういうと自らの魔術を使い、俺の後ろからとてつもない突風を吹かせた。
「うあっ!早っ!」
「フフッ。主、楽しそうだね。」
まるでジェットコースターみたいだ。
このスピードであればすぐに着く。
……。
見えてきた。
そこには汽車が止まっていた。予想通り、というべきか。その汽車の前には四足の魔獣が数匹汽車に対面しており、汽車を護るように車掌さんが槍を持っている。
もちろんそのやりの持ち方は見るからに素人。車掌が強いなんてことあるわけがないからそりゃそうか。
車掌さんの前に華麗に出てくる俺。それだけ見ればかっこいいが、ラズの魔術によるものだから心の中ではちょっとハズイと思っている。
「あ、あんた!冒険者か?!」
「冒険者になるものだ。下がっていてくれ。俺が行く。」
俺がそう言うと車掌さんは安心したように汽車の中に入っていった。
「頼むぜ。若い兄ちゃん。」
車掌を見送った俺は背中に背負っていた剣を引っこ抜く。ラダーバにもらったものだ。
「さっそく使わせてもらうぜ。ラダーバ。」
さて、ギルドに所属しているわけじゃないから公式の冒険者ではないが冒険者になるものとして初めての戦闘だ。
魔物と戦ったこと自体はないがあの盗賊の男の時を思い出せばいいだけ。
ふぅ、と一息つき、剣を構え地を蹴る。
「まずは一匹!」
思い切り剣を振り上げ、その剣を魔物に叩きつける!
だが、俺の剣が切ったのは魔物の肉では決してなかった。
「え!?」
俺が対象としていた魔獣は後方へ下がり、俺の剣を避けていた。俺の剣は空を切っただけになってしまったのだ。
そうして、もう一度剣を持ち上げ、構えようとしたとき俺は死を覚悟した。
なぜそのように思ったのか。理由は簡単。
目の前にいる四匹の魔獣が一斉に俺に襲い掛かってきたからだ。
俺じゃ絶対にさばききれない。
どうにか剣で防ごうとしたが魔獣の勢いに負けた俺は普通に押し倒された。
剣を盾代わりにして、魔獣の牙や爪が俺の顔に当たらないようにしたが、顔以外のところは結構傷だらけになっている。
とてもじゃないがここから形勢逆転は無理そうだ。
「はははっ!主ってやっぱり面白いね!」
その姿が相当面白かったのか、ラズは腹を抱えて大笑いしていた。
「そんなとこでぼーっと見てないで、さっさとお前の力を見せてみろ!」
「ぼーっとは見てないよ。笑いながら見てるだけ。ま、仕方ないなー。
それじゃ、格の違いを見せてあげるよ。
はい、ファイアボール。」
なんてやる気のない声で詠唱するんだこいつは。
なんて、魔獣の爪を防御しながら頭の中で考えた瞬間とてつもないエネルギー量の火球が俺を押し倒していた魔獣ごとほかの魔獣も一気に吹き飛ばし、その場にいた魔獣すべてを吹き飛ばし、空中でその火球と共に爆散させた。
俺はその光景を見て唖然していた。そんな俺の顔を見に、近くまで来たラズ。
「ねぇねぇ、どうだった主?私の魔術!」
「す、すげえ。」
「ほら、ちゃんと褒めてよ主。頭撫でて。」
何というか、……ラズのことがすげぇ怖くなった。
その後、魔物から汽車を助けたお礼としてその分の謝礼金を貰い、負った傷も応急処置をしてもらった。それに、シータに行こうとしていることを伝えると、汽車で送ってもらえることになった。
正直、めちゃくちゃ感謝である。
道のりは長いのに金はない俺からすれば一番欲しかった展開。それがラズによる恩恵というのが少し不服だが。
今回ばかりは本当に助かった。
「ありがとな、ラズ。今回ばかりは助かったよ。」
…………。
……?なんか、反応ないの?
と、ラズの方を見ると……
「……主にしては珍しく素直じゃん。なんかつまんない。」
何だこいつ。
「褒めろって言ったのはそっちだろ!褒めたら褒めたでつまんないはないだろ!」
「そうそう!それそれ!
主にはやっぱり反発しててほしいよね!」
はぁ、とため息をつき、車両の中で横になると山道とさっきの戦闘の影響かすぐに眠ってしまった。




