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俺にはずっと隣の席になる相手がいる

作者: 光井 雪平

「今年もよろしく」

「こっちこそよろしく」


 俺と神崎は死んだような顔をしながら互いに言い合った。


 俺と神崎の胸中は一緒だろう。


 なざまた隣の席なのか、と。


「もう呪いよね、これ」

「だな」


 神崎の突拍子もない言い分に俺は納得してしまう。


 俺と神崎は小学校入学から現在高校三年生までずっと一緒の学校で同じクラスだった。それに加えて、ほとんどずっと隣の席なのだ。


 席替えをしてもなぜか隣になる。くじ引きというランダムな決め方でも隣。なぜか隣。


 最初は「またお前か」と笑い合うこともできたが、途中からもう笑うこともできなくなった。


 別に俺と神崎の仲が悪いわけではなく、おそらくだが互いに互いのことが嫌ってことではないだろう。でもここまでずっと隣だと、飽き飽きしてくる。


「まあ今年でラストだろうからな」

「だといいわね」


 神崎は遠い目をしながら言った。俺は「不吉な感じ出すな」と苦言を呈したが、内心ラストだよな?と不安になっていた。


「よおまた隣でお熱いですなぁ」


 と、俺と神崎の共通の知人、小林がからかうように声をかけてくる。いつも通りに。


「「熱くない」」と俺と神崎は返す。その声に張りはない。もう慣れてしまった。


「たくっ、ほんとお前らさ、ここまで一緒なら永遠にずっと隣かもな。一生隣にいてくれとか言っといたら叶うんじゃね」


  小林はニヤニヤしながら言った。もはやプロポーズだろそれと内心でつっこんでおく。声に出して突っ込む気力はない。


「いうわけないでしょ」


 と神崎は飽き飽きしたように言う。俺はうなずく。


「お前らってお互いのことどう思ってんの?」

「どう?って、なんだよ」


 と俺が聞くと小林は「もちろん、恋愛的な意味だよ」とちょっとかっこよさげに言った。神崎が「きもっ」と小さく言った。俺も超小さな声で言った。


「聞こえてるからなお前ら。で、結局どうなんよ?」

「「いや別に」」


 小林の問いに俺と神崎の返しが一致する。


 俺に神崎への恋愛感情はない。あくまでも腐れ縁だ。というか呪いの被害者という仲間意識みたいなものしかない。


 嫌いじゃないが好きなほうだが。友人としてというぐらいだ。


 きっと神崎も同じような気持ちだろう。


「つまんねえな。まあこれからもよろしくなカップル」

 

 カップルじゃないと内心でつっこんでおく。神崎も何も言わなかった。もはや言われなれていることだからだろう。


 俺と神崎はあまりに隣になりつづけ、お互いがお互いを嫌う様子がないので、付き合っているという噂がずっとつきまとってきた。


 神崎のことが好きというやつに俺はなぜか一回からまれたぐらいだ。


 そいつは神崎に振られたらしいが。


 と、ここでなんとなく思ったことがあったので神崎に問う。


「お前って彼氏とかいんの?」

「いきなりなに?あの馬鹿の馬鹿が感染した?」


 と神崎は返す。


「いやなんとなく思ったんだよ。お前の浮いた話聞いたことねえなって」

「それ私が答えるメリットある?」


 と神崎に返され、俺は「ねえな」と少し考えた後、返した。そして、「別に気になっただけだからわすれてくれ」と言っておく。


 神崎が「てかあんたはいないの?彼女とか?」と返してくる。


「いない」


 と即座に返す。そう憧れの人がいないわけでもないが、付き合いたいと思う人はいなかったのだ。


 なんでかわからないが。


「ふーん」と神崎は返す。


「あっモテないわけじゃないからな。告白されたこと、、、、、、、あ、、、、るから?」

「なにその言い方。噓ばればれだけど」


 と神崎に即座に俺の動揺が突っ込まれる。俺は「うるせえ」と返しておく。


 告白されたことねえなぁって内心思う。


 だが、もし誰かに告白されたら付き合うのだろうか。


 誰かと付き合うと神崎とこんな風に話すこともほとんどなくなるかもしれねえなとか思っていると寂しさが募ってくる。


 他の誰かと付き合うと神崎との関係は崩れそうだなぁと思ってしまう。


 なぜなのだろうと思ってしまう。


 なぜそんなことを思うのか。


 それをなんとなく考えていると、俺の中に一つの答えが出てくる。


「俺実は神崎のことめっちゃ好きなんだな」

「は?!」


 隣から神崎の驚きの声が聞こえてくる。それと周りからも少し注目されているようだ。


 なぜか声に出してしまっていたようだ。


「いや、なんでもない。ほんとなんでもない。ちょっと考え事を。いや、あのあれよ、友人として的な意味。そんだけ、ほんとそんだけだから」


 俺は焦ってめちゃくちゃなことを言う。明らかにごまかせていない。


「そ、そうよね。友人として的な意味よね。絶対そうよね」


 神崎は語気を強める。


「そう、そうなんよ。ほんとこれからもよろしくな」


 俺はごまかすために強引に笑顔を浮かべる。神崎も「よろしく」と言ってくれた。眼には俺への怒りのようなものが見えていた。周りからの生暖かい視線を感じながらそのあと過ごすこととなった。


 帰るころ、俺は神崎に呼びだされた。


 神崎は会うなり聞いてきた。


「あの突然の発言何?」


 俺を責めるような聞き方だった。


「いやあのその、えっと」


 と俺がしどろもどろになっていると、神崎の視線はどんどん厳しくなってくる。


「すまん。なんか口を出た。俺もわけわからん。いやほんとすまん」


 俺は頭を下げながら言う。神崎ははぁと大きくため息をつく。少し間をおいて、ため息をつく。


「つまり、あの発言本気ってこと?」

「そうだな」

 と俺は即座に返す。返してしまう。


 俺はその発言の不用意さに思わず口をそのあと手で押さえる。神崎はこちらから視線をそらし、「馬鹿」とつぶやく。


 静寂がその後場を占める。俺はその場からすぐに逃げ出したかった。


「とりあえず、お互いにこのことは忘れましょう」


 と神崎が提案する。俺はうなずく。


「で、あのその、もし本気なら、その、ちゃんと言ってくれたら考える、考えるから」


 と神崎はこちらから顔をそむけながら、言うと、俺の前を去っていく。


 俺は今の発言ってそういうことだよなと思いながらその場に突っ立っていた。


 突っ立っていることしかできなかった・・・


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