37.神柱と癒しの力
ラウバは身に着けた翼を活かし、空中から滑空して接近するという高速な攻撃をロウに仕掛けていた。
ロウも錫杖みたいな物を手に持ち、ラウバからの攻撃に抵抗していた。
「力は感じるけど、さっきと動きが変わったようには見えないよ、防戦一方の執行人さん!」
ラウバは剣による攻撃と同時に黒い炎をロウに浴びせるが、ロウの防御魔法により防がれてしまう。
「ロウさんが押されている、でもあの速さでは援護は出来ない…。」
ルネはウェルをドームの端まで運んで、ラウバからの攻撃を警戒していた。
「大丈夫だルネ、あれはロウのいつもの戦い方だ。相手を分析して反撃をする、俺もロウには全く敵わねぇ。」
「蛇噛撃。」
ロウの左手から幾数もの蛇が現れ、ラウバに飛びかかっていった。ラウバは襲ってくる蛇を剣で切り落としていくが、自身のスピードより速い蛇の攻撃により、数回噛まれてしまった。
「やるねぇ。この蛇には毒があるようだけど、僕には効果がないよ!」
ラウバは剣を振りかざして、ロウの背後から黒い光線による攻撃を仕掛けるが、ロウの軽いステップにより躱される。躱した動きを狙って斬撃も放つが、錫杖によって弾かれた。
「水神滝。」
周囲に水柱が勢いよく発生し、ラウバとロウを囲む。ラウバはすぐに魔法と剣撃で脱出を試みるが水の壁を破壊する事が出来ず、中に取り込まれてしまう。
「雷狐。」
水柱全体がバチバチと雷が発生したように電撃がほとばしった。中にいるラウバは電撃により感電するが、ロウは全く動じていなかった。
「ちぃ!生きている雷か。聞きなれない言葉の魔法だし、厄介だね。」
ラウバは自身に爆発魔法を放ち、爆発の勢いで水柱から脱出する。ロウはその動きを見逃さず、ラウバに蜘蛛の巣を絡みつけた。
「くっ!動くと余計に絡みついてくる、くそっ!」
「これを蜘蛛地獄と呼んでいます。地獄から抜け出そうとする悪人達を捕らえる為に用意された大蜘蛛の糸ですので、そう簡単には抜け出せませんよ。」
ロウは捕らえられているラウバにじわじわと近づきながら、錫杖を光らせた。
「地獄だと?こっちは悪魔なんだよ!ふざけるなぁ!」
ラウバは黒炎を自身から放射して蜘蛛の糸を焼き払った。すぐに体勢を整えて、ロウを魔法で発生させた大きな手で掴み取った。捕らえられたロウは潰されないように身を固くし身構えた。
「捕らえたよ、今度はこっちから行くよ!」
大きな手は黒い炎を噴射しながら放電を行う。さらに爆発も発生し、中の様子が確認出来なくなった。
「あっ、ロウさん!」
しばらく爆発が続き、辺りが煙で充満していく。その間もラウバは周囲に炎の雨を降らせて、攻撃の隙を与えないようにしていた。
しかし、ある点だけ光のカーテンにより炎の雨が弾かれていた。
「なんて悪意のある攻撃、優しい光で癒してあげないと。」
カーテンの中にはシェリーがいて、ラウバに向かってゆっくりと近づいている。
「ん?全然感覚の違う力が近づいてくるな、目障りだよ!」
ラウバは黒い光線をシェリーにぶつけるが、カーテンを破る事が出来ずにかき消されてしまう。
「悪い悪魔を取り込んだ王子様、癒しの風を感じてください。」
シェリーは受け入れるような仕草で両手を前に出す。手と手の中心から虹色の羽が沢山発生して、風と共にラウバへと降り注いだ。
「なんだか暖かい空気になってきたね。そうか、戦意を削ぐ魔法なんだ。でもそうはいかないよ!」
ラウバは剣を大振りし、大きな斬撃を飛ばしてシェリーを攻撃する。シェリーは癒しの羽を飛ばすのを止めて、カーテンに力を込めて斬撃を防ぐ。
連続して斬撃が襲ってくるので、シェリーの動きが制限され始めた。
「魔力が小さくなってきてるね、そろそろ終幕といこうじゃないか。」
「幕を閉じるのはあなたの方です。」
ラウバは声のする方に黒い炎を浴びせるが、そこにいるはずの物体は霧のように消えてしまった。
「私はここですよ。」
ラウバは声のする後ろに振り向く。そこには傷の一つも見られないロウが立っていた。
「あの攻撃が効かなかったのか?いや、確かに魔力が小さくなっているのは感じた。」
「あれは傀儡を利用した囮です。傀儡に魔力を注いでいたので、あなたは勘違いしていたのでしょう。」
「じゃあすぐに攻撃出来たはず、あの娘が攻撃しているのを見ていたわけ?」
「そうですね、シェリーちゃんの魔力は私とは別次元過ぎますので干渉し合うと感じました。ですので、少し隠れ蓑をしておりました。」
「くそっ、なんだかなめられているとしか思えないね。鬱陶しいよ!」
ラウバは更に魔力を増大させて、角と尻尾を生えさせた。牙も生えて更に悪魔に近づいた。
「僕の力を受け取れぇ!」
ラウバは黒い光線をスパイラル状に発生させ、とても速いスピードでロウとシェリーにぶつけた。
シェリーの防御魔法は炎を防ぐ事が出来ず、破壊されてしまうが、ロウが発生させた虎の叫び声によって炎は消されてしまった。
「ありがとうございます、ロウさん。」
「気を付けて、シェリーちゃん。しかし、ますます悪魔になってきていますね。罰を執行するには丁度良いです。」
「ロウさん、元は王子様ですからやっつけてはいけません。ちゃんと浄化して戻してあげないと。」
「でも、あれだけ変化させてしまっては自滅しそうになってきています。シェリーちゃん、浄化出来そうですか?」
「数分くらい王子様の動きを止めて頂けたら、大丈夫です。」
「分かりました、なんとかしましょう。」
「相談とか、すごく目障りだよ!」
ラウバは大きな竜巻を発生させる。竜巻はどんどん大きくなり、ドームごと破壊しそうな勢いになってきた。
ドームの端で身を守っているウェル達は、竜巻に巻き込まれないようにドームの壁にしがみついた。
竜巻の中には黒い炎も発生していて、高温な爆風が周囲を巻き込み始めた。
「うわぁ!防ぎきれそうにないです!」
「頑張ってください、ティードさん!」
ティードは自身とリネアを囲むように、リネアはウェル達を守る為に、それぞれ防御魔法を展開して爆風をなんとか防いでいた。しかし、魔法の効果も切れ始めていた。
「蜥蜴の鎮魂式。」
ロウが魔法を唱えた瞬間、周囲が一度真っ暗になり、ドームの中にいる全員が能舞台の上に立っていた。
「え?いったい何が起こったのでしょう。」
「幻覚魔法か?こんなの破壊してやる!」
ラウバは魔法を発動しようとするが、何も起こる事はなかった。」
「無駄です、この儀式に取り込まれる前に防がなければどうする事も出来ません。」
ロウは能舞台の端に正座で座っていた。そして、シャンシャンと鈴の音が奥の方から聞こえてきた。気づかなかったが舞台の周りには蜥蜴が囲んでいた。
「何か恐ろしい者でも出てきそうだな。」
奥には大きな扉がある。鈴の音は扉の中から聞こえており、次第に大きくなってきた。
「くそっ!魔法が使えないのなら、これで!」
ラウバは自身の拳でロウを殴りかかろうとするが、何らかの力により空中で十字架の様に身体を固められてしまった。
「うぉ!とてつもない力だ。」
「蜥蜴長老様、お久しぶりです。」
扉から大きな蜥蜴が出てきた。蜥蜴は着物を身に着けていて、手には鞘に収められた刀を持っていた。
「こんな小童に苦労しているとは、神柱の一人が情けないぞ。」
「小生もまだまだ小童です。日々精進させて頂きます。」
「悪しき心を従えし者か…。悪しき力が出てくるのを感じる、少しの間しか縛っておけんぞ。」
「十分でございます。シェリーちゃん、よろしくお願いします。」
「この状況でも大丈夫かどうかわかりませんが、やってみます。」
シェリーは片膝を床につけて祈りを捧げるように跪く。シェリーの周りが光り出したと同時にラウバも光り出した。
「また癒しの光か!こんなので僕は屈しない!」
ラウバは必死に抵抗するが、シェリーが放つ光はラウバの体内に吸収されていく。
次第にラウバの体内から黒い靄が放出されてきて、ラウバの容姿も人の姿に戻り始めた。
「うっ!こんな終わり方は、望んでいない!」
ラウバは元の姿に戻った時、束縛が解けて倒れ込んでしまった。シェリーもかなりの魔力を使ったのか、壁にもたれて座り込んだ。
「蜥蜴長老様、大変感謝致します。またお会い出来る事を楽しみにしております。」
「うむ、それまで衰えるのではないぞ。」
大きな蜥蜴は扉の奥へと戻っていった。同時に能舞台も消えて、元のドームに戻った。




