36.魔界の力と目覚め
「まだ決着がついていないのに、その微笑みは駄目だと思うよ。」
ラウバは目の前に魔法陣を描き、両手を突き出して力を込めた。次の瞬間、魔法陣が描かれた方向の先にあるドームの壁にヒビが入った。魔法陣はロウに向けられていたが、ラウバが手を突き出したと同時に横に飛んで躱していた。
「色々な魔法を使用しますが、私には効果的ではありませんよ。そろそろ本気を出したら如何でしょうか。」
「随分と見透かされてそうな言葉だね。そっちこそ、魔力の使い過ぎで耐えられなくなるんじゃない?」
「魔力量に関してはお互いが分かっているでしょう。まあいいです、本気を出せるように手配しましょう。」
ロウは両手を横に張り出して、わずかな時間で呪文を唱える。すると両手から太い光線が複数発生し、ラウバと分身体へと向かっていった。
一瞬の出来事だったので、ラウバは防御魔法で防ぐので精一杯だったが、分身体は防ぐ事が出来ず、それぞれ消滅していった。
防御魔法を展開したラウバも後方に弾き飛ばされる。その光景にリネア、ルネ、ティードはそれぞれ驚きの表情を浮かべた。
「これだけの威力を複数発生させるなんて、すごい魔力を持っている。」
「ロウさん、ありがとうございます。でも無理はなさらないでください。」
「すごい、ロウさんは国を統治できそうな力を持ってそうだ。」
ティードはシェリーに、ルネはウェルにそれぞれ駆け寄り、リネアはロウに並ぶように立った。
「シェリー!!」
ティードはルネから渡された薬をシェリーに飲ませようとするが、意識が無い状態の身体にどうやって飲ませたらいいのか困ってしまい、躊躇してしまった。
「ウェル、大丈夫か?手当てするからじっとしてろよ。」
「ルネ、ありがとよ。力を全部使い切って全然動けねぇよ。黒騎士はどうしている?」
ルネは黒騎士が倒れている場所をちらりと確認する。
「あっちも動けないみたいだな、仕留めておこうか?」
「そうだな、捕らえて後で情報を聞き出そう。頼めるか?」
「了解した。」
ルネはウェルの手当てを終えると、黒騎士の方へ近づいた。
「えっ!鎧しかない!?」
黒騎士が倒れている場所には、鎧がまるで身につけられているかのような状態で並べられていた。
「ウェル、黒騎士がいない!」
「なるほどな、どういう理屈かわからねぇけど、転移魔法というものを使ったんだな。一体いつ使ったのか、まだ終わらないか、流石だぜ。」
ウェルは身体を黒騎士が倒れていた方向に動かしてそう答えた。
「さて、形勢は傾きましたよ。王子さん、如何いたします?」
ラウバは弾き飛ばされた体勢を整えて周囲を確認した。そして、ロウとリネアに魔法でけん制しつつ、ある程度ロウとの距離を離した。
「派手にやってくれたね。まったく、闇とつながる前に、ルードごとやられそうだ。」
「私は始めからそのつもりで来ています。でも阻止するだけじゃなく、あなたから情報を聞き出さないといけないです。」
「ありえない事を言ってくれるね。仕方ないね、特別に僕の力を見せてあげるよ!」
ラウバは黒い繭を発生させて、自身を包み込むように隠した。ロウが先ほどと同じ大きさくらいの光線を放つが、繭によってかき消された。
「こんな力を持っているなんて…。」
「リネアさん、ティードと一緒にこれを使ってシェリーさんに薬を与えてください。私と一緒にいては力に押しつぶされてしまいます。」
ロウはリネアに水晶のような形をした物体をリネアに渡した。
「これは?」
「薬をこれにかけて、魔力を込めてください。そうするとシェリーさんに薬が浸透するはずです、さぁ早く。」
黒い繭から針のような物がロウ達に飛んでくるが、ロウは防御魔法で弾き返す。それと同時にティードとの間に光の壁を作り、リネアが安全にティードのもとに行くための道を作った。
「確かに承りました。アルネア様の敵をお願いします。」
リネアは自分がロウのそばにいると足手まといだろうと感じながら、ティードがいる場所へと急いだ。
「目障りな事をしてるね!!」
今度は繭から黒い炎がほとばしり、光の壁を破壊しようとするが、壁は壊れる事なくラウバの攻撃を防いでいた。
「あなたの力はその程度ですか?」
「馬鹿にしたな!その自信、崩してくれる!」
黒い繭が放射状に拡散して矢の様に地面に落ちてくるが、ロウは大きな傘のような膜を張り出して、降ってくる矢を吸収しながら防いだ。
拡散した繭の中から黒い翼を背中から生やしたラウバが現れた。皮膚も少し黒くなっており、見た目が悪魔に近くなっていた。
「なるほど、あなたは魔界との契約を結んでいたのですね。むっ!!」
ロウは瞬時に少し身体をずらしたが、腹の辺りに傷を作った。
「一気に仕留めたかったけど、お喋り過ぎるのは嫌いだよ。」
「随分と強化されたようですね。それでは、私もいきますか。」
ロウは回復魔法を使用して傷口を防ぎつつ、自身を光の筒で覆い隠した。
次の瞬間に光の筒は消えて、ロウの服装に紋章のような飾りが多く取付られていた。
「君も何かと契約しているようだね、さっきと力の感じ方が違う。」
「私は異世界との契約を結んだ者達を罰する執行人です。契約と言われるとそうかもしれませんが、特に上下関係がある団体ではありません。」
「へぇ、執行人。じゃあ力比べをさせてもらおうか!」
「少しは話し合いになって頂けると思いましたが、もう無理そうですね。」
それぞれが自身から光を出し合い、ドームの中が眩しくなった。
「なんて、強い光!」
ロウとラウバが戦いを始めようとしている時に、リネアはティードの所へと駆け寄る事が出来た。
「ティードさん!ロウさんからこれを頂きました!薬をこれにかけるとシェリーさんに与えられるそうです!」
光と共に爆発音も聞こえてきたので、リネアは大きな声でティードに話しかけた。
「リネアさん、ありがとうございます!じゃあ早速使いましょう!」
ティードはリネアから水晶の様な物体を受け取って、薬をかけた。そして、リネアと一緒に持ちつつ、二人の魔力を注いだ。
すると、物体は光り出し始め、雫が発生してシェリーの体内に溶け込みだす。そして物体からシェリーへの薬の流れが終わると、今度はシェリーの身体が光だし始めた。
「これはいったい!」
「薬は効いていると思います、見守りましょう!」
シェリーの身体は少しの間光っていたが、じわじわとおさまっていき、元の状態に戻った。
「シェリー、大丈夫か!」
ティードはシェリーの身体を確認する。顔に近づくと息をしているのは感じ取れたが、他に変化は見られなかった。
「薬が効かなかったのでしょうか?」
ちょっと待っていると、シェリーの身体がピクリと動き、瞼が開いてくるのを確認する。
「シェリー!!」
ティードはシェリーの手をギュッと握った。その刺激により、シェリーはパッと瞼を開いた。
「えっ?お兄ちゃん…?」
「ああ、シェリー!!」
「おかえりなさいませ、シェリー様。」
ティードはシェリーの身体を抱きしめた。リネアもシェリーの手を掴みとって、状態を確認した。
「お兄ちゃん、ちょっと痛いよ。それよりここは?そういえば、私は殺されようとしていたんじゃ…。」
「詳しい話は後でしよう、先ずは安全に帰らないと!」
「あ、あれはロウさん。そっか、悪魔と戦っているんだ。」
シェリーは立ち上がって、ラウバの方をじっと見つめた。
「お兄ちゃん、あの悪魔を怒ってあげないとだよ。」
「え?シェリーが敵う相手じゃないよ、安全な所へ行こう。」
「大丈夫、私を信じて。」
シェリーはしっかりとした歩きで、ロウの方へと近づき始めた。




