35.ウェルの隠し技
ラウバは分身体を三人に増やし、それぞれがリネア、ルネ、ティードと対峙する様に配置した。自身はロウと向き合って距離を保っている。
「その分身体は先ほどと違って、耐久力もありそうです。ルネさん、魔法使いとの戦いは不利でしょうが、時間稼ぎをよろしくお願いします。」
「はい、どこまで通用するかはわかりませんが頑張ってみます。」
「ティードさん。時間稼ぎは成功しましたので、私達も全力でいきましょう。」
「わかりました。僕の力が世界を守るなんて、考えてもみなかったです。」
「貴重な人材で、こういう出会い方は残念だけど、仕方がないよね。覚悟してもらうよ!」
ラウバは黒い剣を手から生み出した。分身体も同じ動作をする。そして、光線魔法を繰り出しながら、俊敏な動きで相手を攻め始めた。
ラウバのスピードが上がったので、リネアとティードの対応が少し遅れてしまい、防御魔法を発動するが、分身体の斬撃に弾き飛ばされてしまった。
飛ばされた身体が地面に衝突する前に、羽毛の様な物体が現れて、二人の身体をキャッチし、そっと立たせた。
「大丈夫ですか!?二人ならその分身体を対応可能と思っています、気合入れてください。」
「ありがとうございます、ロウさん。」
「東洋人さん、よそ見している場合じゃないよ!」
ラウバはロウに斬りかかろうとするが、目の前に3m位の岩壁が現れて、攻撃の勢いを止められてしまった。
「上手いね、僕みたいな奴を相手にするのに慣れてそうだ。」
「まあ、年の功と言いますか。色々と人生経験が豊富ですので。」
ロウは手を上げて頭上に雷の玉を発生し、雷撃をラウバに向けて放った。
雷撃はラウバを囲い込むように様々な方向から攻撃するが、ラウバが自身を中心にして放った竜巻によって、それらを弾き返した。
ラウバはその竜巻に溶け込む様に自身を移動させ、ロウに斬撃による刃を飛ばす。
しかし、それも予想されていたのか、ロウが手を振りかざしたと同時に刃は消散した。
続けてロウはラウバの後方に光の玉を発生させて、そこから光線をラウバに向けて発射した。
ラウバはそれを横跳びで回避し、光線魔法で対抗し光の玉を消滅させた。
「これじゃあ、どちらかが魔力切れになるまで続きそうだね。ここまで戦える人は久しぶりだよ。」
「それは褒めて頂いているのでしょうか。こんな老いぼれと互角に戦っているなんて、あなたは嬉しくないでしょう。でも私はあなたを許す訳にはいきませんので。」
「まあ、阻止出来るかはわからないけど、お仲間さん達は結構消耗してきてそうに見えるよ。」
ロウはチラッと皆の方を見た。リネアとティードは結構な量の魔法を使用しているのか、顔色で疲労が見え始めている。
ルネは分身体の放つ魔法や斬撃をしっかりと見て躱しながら、分身体にナイフや脚撃による攻撃で反撃していた。まだ大丈夫そうだ。
「分身体とはいえ、しっかりとした攻撃をしてくる。簡単にはいかない、難しい相手だ。」
リネアは得意とする氷魔法で相手を威嚇しながら隙を狙っているが、自身の疲労感にも気を使っていた。
「長い間メイドで隠居していたのが響いているな。ちゃんと鍛えていたらこんな相手なんて…」
ティードも相手の攻撃に対して防戦一方になっていた。
「相手の動きをよく見て、強い一撃を放つんだ。でも、僕の身体が持つかどうか……いやいや、シェリーを救うんだ。」
ロウが他を見ている間にもラウバはロウに向けて攻撃を仕掛けていたが、ロウは目が沢山あるかの様に魔法を発生させて相殺していた。
「ウェルさんも黒騎士さんに苦戦しているようですね。」
ウェルは黒騎士が放つ斬撃をかろうじて躱しながら、反撃を繰り出していた。黒騎士は余裕の動きを見せており、ウェルが押されているのは一目瞭然だった。
「貴公の力はその程度なのか。もっと楽しませて貰えると感じていたが、残念なことだ。」
「決定打を出していないのによくそんなセリフが言えるな。いいさ、とっておきを見せてあげるぜ。」
「ウェルさんの本気が出るみたいですね。」
ウェルは大きく息を吸い込み、身体から力を開放するかのように意気込んだ。すると、ウェルの身体からキラキラと青い光が発生し、ウェルを包み込む様に纏わりついた。
「む!?貴公から強いオーラを感じる。何をしたというのだ?」
「もう言いたい放題はさせねぇぜ、行くぞ!」
ウェルは先ほどとは別次元の速さで黒騎士に近づき拳をぶつけた。
黒騎士はその動きに反応が出来ず、後ろに吹き飛ばされる。拳をぶつけられた箇所の鎧が欠けているのが見えた。
「油断した、しかし!」
「よし、続けていくぜ!」
ウェルは体勢を整えようとする黒騎士に対して、剣による追撃を仕掛けた。
黒騎士は自身の剣で防ごうとするが、ぶつかり合った衝撃によって肩の鎧が破壊された。
「なんと強い力だ。やはり貴公との勝負は面白いと感じていた、では私からも行くぞ!」
黒騎士も魔法で自身を強化して、ウェルに攻撃を仕掛ける。
黒騎士の斬撃をウェルは身体を回転させながら蹴り弾き、そのまま回転を利用した斬撃で黒騎士の膝プレートを破壊した。
「なんだか、面白い魔法だね。あれを教えたのは君かい?」ラウバはロウに問いかける。
「ウェルさんに秘められた力を解放する手助けをしただけですけどね。あれだけ成長していたのは感激です。」
ラウバは先ほどよりも激しい魔法を繰り出していた、しかしドームを破壊するほどの威力は出しておらず、ロウは自身が放つ魔法を個々に当てて消滅させていた。
「さてと、どんどん化けの皮を剥がしていくぜ!」
「調子に乗っているようだが、そう簡単には終わらせまい!」
黒騎士は剣を地面に突き立てて、そこに手を添えて力を注ぐかの様な動きをした。
すると黒騎士の身体から黒い靄が大きく発生し、身体の中に入り込んだ。同時に身体から少し黒く光り出す。
黒騎士が再度剣を構えた瞬間に姿が見えなくなり、同時にウェルは衝撃を受けて弾き飛ばされた。
「痛ぇ、まだまだ強く出来るみたいだな。悪魔の力は流石だよ。」
弾き飛ばされたウェルは倒れる事はなかったが、肩から少し血が流れ出していた。
すぐに周りを確認するが、黒騎士の姿は確認出来ない。
ウェルは矢立から矢を数本取り出して、決めた方向に投げた。
投げられた矢はとても速い勢いで飛んでいき、その中の二本が黒騎士の胸横に当たり、動きを止めた。
「このスピードに付いてくるとは、素晴らしい。」
再び斬撃を飛ばしてくる黒騎士、ウェルはそれらを回避しながら黒騎士に近づくが、黒騎士の身体から発生した黒い靄に足を取られてしまう。
「これは卑怯だぜ、でも!」
ウェルは足を踏ん張って大きくジャンプして靄から抜けた。
「なんと力強い!だが、地面から離れてしまって隙だらけであるぞ。」
黒騎士は先ほどよりも大きな斬撃を飛ばしてウェルを狙った。
「へっ、こういう時の対策は済んでいるんだよ!」
ウェルは身体を一度クの字に曲げて、前側に力を込め、黒騎士の方へ滑空させた。
黒騎士が飛ばした斬撃が飛んでくるが、それらを腕で受け取めながら突っ込む。
「捨て身で来るか、覚悟!」
「これで終わりだ!」
ウェルは重力で更に加速しながら渾身の拳を黒騎士にぶつける。それに対し、黒騎士も大きく剣を振ってウェルにぶつけた。
二人がぶつかった衝撃で、ドームの中は地震が起こったかのような揺れが一時的に発生し、煙も舞った。
「ウェルさん、大丈夫ですか!」
「まったく、派手にやりすぎだよ。」
煙が消えると、二人は仰向けで倒れているのが見えた。二人の防具はボロボロになっており、所々から出血もしている。
それぞれの身体はもう光を発していなかったので、能力を出し切ったみたいだ。
「ここまで追い詰めるとは、誠に見事であった。」
「ほんと、良い相手だったよ。もう動けねぇ。」
二人は肩で息をするだけで、立ち上がる力も残っていなかった。
「駒が減ってしまって、僕しか残ってないじゃないか。」
「とりあえず身体が無事で良かったです。あとは私達ですね。」
ロウはニヤリとしながら、まっすぐにラウバを見つめた。




