31.震える城内
「舞台は整いつつあるけど…、ネズミ達が入ってきているね。」
ラウバは丸いドーム状の部屋にいる。この部屋は中央に六芒星の魔法陣が描かれており、それぞれの角にはロウソクと黒ローブを纏った人が立っていた。
黒ローブの人達は魔法陣の中央に向かって両手を伸ばし、何かしらの言葉を唱えていた。中心には小さい青い炎がユラユラと揺れている。
「あとどれくらいの時間がかかるんだい?」
ラウバは隣に立っている黒ローブの人に問いかける。彼は他の人とは異なり、胸に六芒星の紋章をぶら下げている。
「そうですね、明朝までには動きがあるかと。」
「結構かかるね。仕方がない、それじゃあネズミが噛みついてくるから追い払いに行くとしよう。」
ラウバは部屋を出て、城とドームを繋ぐ橋を渡ろうとした時、橋の中央辺りに人が立っているのが見えた。
「ラウバ、見つけたぞ。」
「ん?リネアじゃないか。そうか、アルネアの敵討ちに来たんだね。」
リネアはラウバの方向をしっかりと見ながら跳躍し、一度距離を取った。
「そこで闇との儀式を行っているんだな。そんな理解出来ない儀式、止めさせてもらう。」
「アルネアがどうなったのかを知っているだろう?君一人の力では何も変える事は出来ないよ。」
「くっ、よくもアルネア様を。遺体も残していないのか?」
「そうだね、身体の一部さえも残ることなく燃えていったよ。」
リネアはすぐにでもラウバに飛び掛かりたい気分だが、戦力差がはっきりしているのは理解しているので、理性で身体を制御していた。
「せっかくここまで来たというのにじれったいね。そっちから来ないなら、こちらから行こうか。」
ラウバが身体を前に傾けた瞬間、リネアの前まで接近する。同時に右手に溜め込んだ魔力をリネアに向けて放出した。
「!?」
放出した魔力は爆発と煙を発生させ、光が飛び散った。爆発による煙が消えると二人はそれぞれ、白い光の壁で爆発から自身を護っていた。
「へぇ、ちゃんと防いでくれたね。」
「随分と手加減されている様に見えるが、その油断が足を引っ張るぞ!」
リネアは更に距離をおいて、たくさんの氷の矢をラウバに向けて放った。矢は色々な角度からラウバを狙うが、ラウバが放った衝撃破によって全て破壊された。
その衝撃破は勢いを弱めずにリネアに当たり、身体を吹き飛ばした。
「くっ!!うわぁ!」
吹き飛ばされたリネアは橋から飛び出して、掘へと落下していった。ラウバはリネアが落ちた所から下を確認するが、暗くて姿は見えなかった。
「この高さでは助からないかもね。さてと、今度こそネズミ退治だ。」
ラウバは城の中へと入っていった。
ロウとルネは、街で動いていたベルドイの仲間達から作戦の内容を聞き取り、少しの準備をしてから城門へと来ていた。
「ウェル達は城壁を越えて侵入したらしいですが、どうして中央の門に来たのですか?」
城門の兵士は中の様子を知らないのか、門前をしっかりと見張っていた。人数は4人いる。
「そうですね。もうコソコソとしていても意味は無いと思いまして。」
「確かに、正面から突破した方がすぐに行けますね。」
ロウはスタスタと兵士達に向かっていく。ロウ達に気付いた兵士達は、それぞれの武器を構えて警戒し始めた。
「ん?お前は殿下の容態を確認したという東方の医者じゃないか。こんな夜更けに何用で来られた?」
「覚えていてくれて光栄です。特に呼ばれたわけでもありませんが、大切な患者様がここにいらっしゃると話を聞きまして確かめにきました。よろしければここを通して頂けませんでしょうか?」
ニコニコとしながら話すロウを見て、とても恐ろしいと感じるルネ。
「何を言っているか分からないが、ここを通すことは出来ない。ん?連れの女はフレッチェルンの者じゃないか、外で行動している奴は要注意人物と聞いてるぞ!」
「!!」
ルネはナイフを構えて体勢を整える。
「スリープフラワー。」
ロウの手からバラの様な花びらが舞い広がると、兵士達はバタバタと倒れた。寝息が聞こえるので眠ってしまったようである。同じ様に花びらの匂いを吸ったルネだが、とくに眠気が出てはこなかった。
「すごい、一瞬で眠らせるなんて。」
「この人達は上からの命令に従っているだけですし、戦う理由なんて無いです。それでは中に行きましょう。」
ロウは城門に衝撃破を当てて、人が通れる位の穴を開けた。
ロウがとんでもない能力を持っているとルネは感じながらも、城門を通り抜けるロウの後ろをついていった。
黒騎士との戦いから逃れたウェル達は、黒騎士と離れるために食堂も抜けて、王族のフロアを一気に駆けていた。
「気配で居場所が分かるかもしれないから、隠れてもすぐに見つかってしまう。それじゃあ逃げて距離を稼ぐしかねぇ。」
幸い兵士達と遭遇しなかったので、どんどんとフロアを駆け抜ける事が出来た。
次のフロアに入った時に、こちらに向かってくる誰かとぶつかってしまった。
「あいて!すまねぇ、大丈夫か?」
「問題ない。あ、あなたはウェルさんじゃないですか。」
「え?ああ、ムシャールのメイドさん。たしか、リネアさんだったかな。こんな所で会うなんてどうしました?」
「話している時間はありません。あっ、よろしければ協力していただけないでしょうか。ラウバ王子の悪事を止めなくてはいけません。」
「ああ、俺達も城で行われているよくない事を阻止しようとしている所です。一緒に行きましょう。」
「ありがとうございます。あっ!!」
ウェル達は後ろから飛んできた衝撃破をかろうじて躱す事が出来た。
「ちっ、そんな真面目に追いかけてくるなんて、嫌な奴だねぇ。」
「我が主を邪魔をする者は成敗するしかない。しかし逃げるとは、そんな情けない奴とは思わなかったぞ。」
「何でもいいさ、身体は資本なんでね。」
「一緒にいるメイドはハーレットではないか。身体の傷を見たところ、主殿に痛められたようだな。」
「ただの下僕が私の名を呼ぶんじゃない。しかし、その剣に秘められた魔力は危険だな。」
「なるほどね、あの剣に仕掛けがあるわけか。」
黒騎士はリネアが増えた事で警戒を強めており、すぐには攻撃を仕掛けてこなかった。
「私の力が怖いのか?いいだろう、見せてあげよう。ホーミングランス!」
リネアが黒騎士に向かって手を振りだすと、黒騎士の周りに光の槍が発生し、それぞれが黒騎士を狙って飛び掛かった。それらを黒騎士は大剣を薙ぎ払って弾き返した。
続けてリネアは地面に手を当てる。すると黒騎士の足元から電撃が発生し黒騎士を感電させる。
「ぬぉ!これしきの事で!」
「これで終わりだ、トルネードボム!」
今度は竜巻が黒騎士を包み込み、中で爆発を発生させた。とても大きな爆風と音が発生しているので、中で何が起こっているかは確認出来なかった。
「ただのメイドさんと思っていたけど、なんて凄い力なんだ。」
ウェル達が何も出来ないでいると、爆風も無くなり状況を確認出来る様になった。竜巻が発生していた所には黒騎士はおらず、逃げた形跡も見当たらなかった。
「転移魔法で逃げたか、ここで仕留めたかったが仕方がない。」
「黒騎士を圧倒するなんてやるな。」
「でも、逃げられてしまいました。きっとラウバ王子と合流するでしょう、厳しい戦いになりそうです。」
「皆で力を合わせたらなんとかなるさ。リネアさんの力は頼りになる、では行きましょう。」
ウェル達は来た道を引き返し、ドームへと向かう事にした。




