26.ルード侵入と仲間達
ウェル達は山の裏から陽が昇ってくる前に起き、簡単に朝ご飯を済ませて休憩場所を出発した。
ルードへと続く分岐路に入るまでは何事もなく進んでいた。ルードへの街道に入るとすぐにウェルはティードを林の中に隠れるよう指示を出し、ウェル自身もサッと隠れた。
ティードは「何ですか?」とジェスチャーでウェルに合図した。それに対して「とにかく隠れていろ」と腕の動きでウェルは返答した。
しばらく隠れていると足音が近づいてきていた。ウェル達は茂みの中から様子を確認すると、その足音の正体は兵士達という事が分かった。
ウェル達は兵士達が通り過ぎていくのを確認して、少し待って街道に出た。
「ルードの衛兵達でしたね、結構な数を確認しました。」
「おそらく俺達を捕まえに来たのだろう。未だ分からないが、動きを読まれている可能性がある。それにしても、休憩場所を早く出てきてよかった。」
「ここであの数を相手にしてたらロスが大きいです。なんか城下町はもっと警備が厳しそうですね。」
「そのための作戦だ。期待しているぞ、ティード。」
「出来る限り頑張ります。」
数十分歩くと、高くそびえ立つ城壁が見えてきた。城壁の上には人が歩ける通路があり、兵士が歩いているのが見える。
「門が見えました、門番がいますね。」
城下町に入る門には兵士が三人立っている。門の横にある、兵士達が待機する場所と思われる建物の中にも兵士が数人見えた。
「門が一つしかないのは、管理しやすいが、中で問題があった時のリスクが大きいよな。」
「そうですね。火災などで逃げようとしても、ここで詰まってしまいそうです。」
「まあ、いざという時は城壁を壊すだろうな。よし、行くぞ。」
ウェル達が門に着くと、兵士達は一斉に睨み付けるように見てきた。
「何だお前ら、もしかして要注意人物の二人じゃないか?」
初対面に対して失礼な言い方だな、とティードは少し腹が立った。
「要注意人物?いえいえ、私達はフレッチェルンの民です。鉱物の調査をしながら旅をしてきて、先日戻ってきました。旅先で手に入れた鉱物を売買しに伺いました。」
「ん?確かに首に巻いているスカーフはフレッチェルンの証だな。」
ウェル達はルネから借りたスカーフを巻いていた。ルードに行くときによく利用すると、ルネから伝えられていた。
「鉱物調査に行っていたらしいが、証明出来る物はあるのか?」
「はい、これはべノクロスという珍しい鉱物です。」
ウェルはピカピカと輝いている灰色の石を見せた。
「俺にはよく光っているだけのアイアンに見えるが?」
「そうですね、アイアンと間違うかもしれないものですが、ベノクロスはアイアンに比べて十倍程度の硬度があり、重さも違います。」
「なるほど、いちど持ってみても良いか。」
「ええ、どうぞ。」
ウェルは石を兵士に渡すと、兵士はびっくりした表情をした。
「なんだこの重さは!アイアンとはまったく違うな。」
「分かった、通っていいぞ。ここに名前を記載しろ。」
「ありがとうございます、失礼します。」
ウェル達はそれぞれ偽名で記入し、門をくぐった。すぐに大きな橋があり、橋下は結構深い掘があった。城壁を越えても簡単に攻め込む事が出来ないようにしている。
「問題なく入れましたね。」
「魔法で艶や重さを変化させるなんて流石だ。よし、とりあえず街の様子を探るか。」
橋を越えると、一目見ただけでムシャールより広いと分かる街並みが広がっていた。
まだ朝も早いというのに、中央の大通りは人でいっぱいだった。
「朝市をやっているようだな。」
「皆の生活源ですね。」
二人は人ごみの中に入り、朝市の品物を眺め歩いた。並んでいるのはほとんどは食材で、工芸品なども並んでいた。
「あそこに置いている人形、変わってますね。」
ティードが指差した人形は、とても長い黒髪と鮮やかな色の着物が特徴的だった。
「あれは東方の人形じゃないかな。以前、ロウがああいう格好をした女の子の写真を見せてくれる事がある。」
「なるほど、東方の。あんな繊細な人形を作れるなんて東方の技術は高そうですね。」
「そうだな、手先が器用な奴が多いのかもな。さて、少し腹を満たす事にするか。」
「肉ばかり食べていたので魚介類を食べたいですね。」
「ふむ、魚介類ね。安く食べれるといいが。」
「そうですね、あそこなんて良いんじゃないでしょうか?」
ティードが見つけたのは魚のマークが描かれた出店だった。見るとパンを売っていた。
「いらっしゃい、ついさっき採れたの魚をはさんだよ。」
「酢漬けされた魚のパンが美味しそうです。これ食べたいです。」
「良さそうだな、じゃあこれとそれを頂けるか?」
「はいよ、ありがとうね。」
ティードは魚のパンを、ウェルはベーコンと卵のパンをそれぞれ頂いた。
「新鮮な魚でとても美味しかったです。えっと、これから知り合いに会いに行くんですよね?」
「そうだ、協力を頼みに行く。昨日も言った通り、夜は別々に行動する事になるから魔法の扱いには気を付けろよ。」
「分かってます、どうしてもという時以外は使いません。」
「身の危険を感じたら迷わず使え。あと、他の奴とは仲良くしろよ。」
「優しい人ばかりだと期待しておきます。」
二人は街の北側にある集会所みたいな所に入った。
「ベルドイはいるか?」
ウェルの大きな声に集会所の中にいた全員が二人を見た。それぞれが睨みつけるような視線を送っている。一番奥に座っていた一人の男が立ち上がった。
「その姿。もしかして、ウェルか?」
男はよく響く低い声を出した。声だけで威厳がありそうだとティードは感じた。
「久しぶりだなベルドイ。」
「一体どこに行ってたんだ、少しは手紙くらいよこせ。あれだけの事をしたんだ、心配させてるってのがわかるだろ?」
「悪い、その後も色々とあってな。」
ベルドイと呼ばれた男は、ウェルと握手を交わした。
「あれだけの事?」
小さな声でウェルに話し掛けるティード。
「まあ、後で話す。」
「このチビは一体誰だ?」
ベルドイは目を丸くして、ティードを観察する。
「こいつの妹が城にさらわれたみたいでな、助けにきたんだ。」
「さらわれた?どういう事だ?」
ウェルはベルドイに今までの経緯を話した。しかし、魔法については一切出さなかった。
「ふむ。こいつの妹さんが何かのキーだという事はわかった。それで、俺達に協力が必要なんだな?」
「話が早くて助かる、騒いで兵士達をかく乱してほしい。」
「その程度の事で良いのか?」
「一応作戦は考えてきた。」
「全員集合!」
ベルドイは大きな声で集会所にいた全員を近くに集めた。ウェルは皆に作戦の内容を話した。
「どうだ?この作戦に参加しない者はいるか?」
ベルドイの確認に対して、誰も返答しなかった。
「じゃあ、役割を決めるか。」
小一時間ほど作戦について検討し、それぞれの役割を確認し合った。
「よし、これで大丈夫そうだな。」
「ありがとよ、協力してくれて。」
「本当にありがとうございます。」
「実行時間の夜まで各自用意だな、時間になったらそれぞれの配置につけ。」
皆は一斉に出口から出ていき、ベルドイとウェル達だけが残った。
「また貸しが出来てしまった。」
「いいって事よ、久しぶりに腕を振るう事が出来る。」
「皆さん普段は全然違う生活をしているんですね?」
「そういう事だ、身体が鈍ってしまうぜ。じゃあ用意をしてくる、これが終わったら宴会だ。」
「ほどほどにな、じゃあまた夜に。」
それぞれ集会所から出て、別々の方向へと歩いた。
「皆さん良い人ですね。」
「まあ見た目はな。ただ、本性はなかなか恐ろしいぞ。」
「そうは見えませんけど。知り合いが多いって良いですね、僕もたくさん作りたいです。」
「そうだな。これが終わったら、旅でも考えるか。」
「シェリーと相談です。」




