25.逸る気持ちと休息
三人がトルネードフラワーを手に入れている頃、ムシャールにある洋館にシャピオンが飛来していた。
中庭に降りてきたシャピオンに気付いたリネアは、急いで中庭へと向かった。
「こんな時間に戻ってきたのは、問題があったとしか…」
中庭に出てシャピオンに近づくリネア、先ずシャピオンに怪我が無いかを確認した。
「大丈夫そうね、アルネア様はどうしたの?」
「ガル…」
シャピオンは哀しそうに一声上げた。
「あなた一人で戻ってきたという事は、そういう事ですね。状況は分かりました、あなたは棲みかにお戻りなさい。」
「ギャオ」
そう叫ぶと、シャピオンはバッと飛び立ち、山の方へと飛んで行った。それを見送ったリネアは洋館の中に入る。
「こんな事考えている場合じゃないけど、主様がいない時間に来てくれてよかった。さてと、アルネア様から言われた通りに準備をしないと。」
リネアは少し急ぎ足で自室に戻る事にした。
三人は来た道を引き返し、山の麓まで下りてきた。空は赤く染まってきており、陽も山の向こうに隠れようとしていた。
「ルードへは、もう少し戻った所にある十字路を西に向かえば行くことが出来る。」
「そういえば十字路があったな、そこから先は一本道なのか?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「もしかしたら罠がしかけられている可能性もあると思ってな。」
「そうだな、警戒した方がいいが行くしかない。ティード、足は大丈夫そうか?」
ティードは二人の急ぎ足に着いていくのが精一杯だったので、汗も沢山かいて疲れている様子だ。
「シェリーのためです、これくらい問題ありません。」
「自分に回復魔法が使えないのか?」
「体力を回復するには、それに特化した精霊の力が必要です。この辺りにはいない様子ですね。」
「倒れられると大変だからな、少し休憩しよう。」
「夜になるから今日はもう休もう、野生動物や山賊達が行動し始めるからな。朝使った小屋とは別の、私が使っている休憩場所に行こう。」
「そうだな、助かる。ティード、ルード行きは明日にするぞ。」
「…わかりました。」
ティードは少し残念に思った。
「急ぎたい気持ちはわかるけどよ、休む事も重要だ。」
陽が落ちてまもなく、ルネが利用している休憩場所に到着した三人は、すぐ食事の準備に取りかかった。
一日中携帯食しか食していなかったので、とてもお腹が減っていた。
食事は先ほど見つけたリトルボアの肉と、ルネが持っていた少しばかりの野菜とドライフルーツ、それとパンを食べることになった。
「こうやってスープにして食べると美味しいんだ。」
ルネは湯を沸かし、そこにリトルボアの肉と野菜を入れて煮込んだ。立ち昇ってくる湯気から良い匂いが広がってくる。
「とても美味しそうで、お腹が満たされそうです。」
「それにしても、よくこれだけの食材を持っているな。」
「今回みたいに何日間も村に帰らないことはよくあるからな。食材は十分すぎるくらいに用意している。」
肉野菜のスープが完成すると三人は勢いよく食べ始めた。
「リトルボアの肉が良い出汁になっていて最高ですね。」
「この中にパンをつけて食べるがまたいい。」
「食事が終わったら、すぐに出発しようと思う。」
ルネの発言に疑問を感じるウェル。
「おいおい、夜は危険じゃなかったのか?」
「それはこの辺りに慣れていない旅人だったら、という話だ。この辺りは私の縄張りみたいなものだ、何も問題ない。それと、夜の方がヘムリットを抜けやすいと思う。」
「そうだな、兵士達の隙が大きくなりそうだ。でも無理はするなよ、あんたに倒れられるのも非常に困る。」
「それは十分に分かっているさ。」
「ルネさん、本当にありがとうございます。」
「人を助ける、私は当たり前の事をしているだけだ。」
ルネは食事を済ませると、急いで荷物をまとめた。
「じゃあ行ってくる。」
「戻ってくる時はロウと一緒で。」
「ん?村の人達に必要な方を連れてくるのはマズいだろう。」
ルネは首を傾げた。
「そういう事になるだろうと、ロウはきっと準備していると思う。シェリーちゃんを助けるために、少しでも戦力を増やした方が良い。」
「確かにそうだな、了解した。」
「村にはシェリーを連れ去った者の手先がまだ徘徊してるかもしれません。」
「そうだな、気をつけるよ。ありがとうティード。」
ルネは外へ出ると、ウェル達の方へ向き直してコクリと頷いた。それに返事するようにウェル達も頷く。
そしてルネは歩き出し、闇の中へと入って行った。二人だけになった休憩所の中は食事の匂いが残っていた。
「ティード、シェリーちゃんの救出は大変になると思う。」
「そうですね。すぐにやらなかったのは、事情が変わったという事でしょうし。守りは堅そうです。」
「そこでだ、俺なりにシェリーちゃん救出作戦を考えた。」
「どんな作戦ですか?」
「この作戦に対して、ティードからの意見も聞きたい。」
二人は小一時間ほど作戦を練り合った後、明日に向けて十分な睡眠を摂ることにした。
「こっち側にも見張りがいる、二手になる事を予測されていた?」
ルネは木の影から、へムリット洞窟道の入り口に立っている兵士の様子を窺っていた。
兵士は二人いて、それぞれ入り口を挟んで左右に立っている。
「なるべく危険な事はしたくはないが…仕方がない。」
ルネは気づかれないように少しずつ移動し、洞窟側面の岩壁を鉤爪を使って登り始める。
「どうしてこっち側の見張りもしないといけなくなったんだ?王都から離れるから必要ないはずだったのに。」
「よくは知らないけど、王子の命令みたいだぜ。不審者が多いから警戒を増やすとの事らしい、まったく困ったもんだよな。」
兵士の頭上まできたルネは、仕掛けるタイミングを窺う。
「そのまま呑気な会話をしててくれ。」
ルネは投げナイフと透明色の液体を含ませた布を用意し、素早く兵士の背後にそっと飛び降りた。
「ん?」
ルネはサッと一人目の兵士に布を被せる。すると兵士はすぐに眠ったように倒れた。
「何奴、ぐっ!!」
二人目の膝にナイフを投げつけ、それに痛がっている隙に、ルネは一人目と同じように兵士を眠らせた。
「急所を外したから死ぬ事はないはずだ。これも人助けのため、悪くは思わないでくれ。」
ルネは眠っている兵士の膝に刺さったナイフを抜き取り、止血を施した。
また、傷薬を机の上に置いて、ルネは洞窟へと入っていった。




