22.二人の協力とティードの力
エビ型生物の高く振り上げたハサミが地面に振り落とされる。
大振りな動作のため、ウェル達は簡単に躱す事が出来たが、ハサミが地面に衝突した勢いで地面が揺れだし、よろめき倒れそうになる。
予想外の状況にエビ型生物も少しよろめいていた。ウェルはその隙を見逃す事なく、エビ型生物の目を狙って矢を放つ。
矢はまっすぐに目に向かって飛んでいく。エビ型生物は飛んできた矢に気付き、とっさに目を瞑り殻のようなまぶたで目を覆い、矢を弾いた。
「そのまぶたは鬱陶しいな、むやみに矢を放てない。」
ウェルの行動に合わせてルネも動き、エビ型生物の懐に入り込む。
勢いよく足を三、四回ナイフで切り刻むが、固い殻が少し傷つく程度でほとんど効果がなかった。
それでも、ルネの攻撃が鬱陶しかったのか、エビ型生物はハサミでルネを払い飛ばそうとした。
「動きが遅いからよく見えるよ。」
ルネはハサミをジャンプで避け、エビ型生物の腕に飛び乗る。
「こいつでも食ってろ。」
エビ型生物の口が空いているのを確認し、ルネはそこにナイフを放り投げる。
異物が入ってきたと判断したのか、エビ型生物はナイフをバリっと歯で噛み砕いた。
「なかなか手強い奴だな。でも、お前を倒してここを通らないといけないんだよ!」
ウェルはエビ型生物の足元に、小さな球体を二、三個投げつけた。球体は地面に当たった瞬間、大きな音を立てて破裂した。
その破裂に驚いたエビは少しよろめいた。
「大地に生まれし灯火よ、その命の強さをここに見せつけたまえ。」
ウェル達の後ろに控えていたティードは、呪文を唱えながら手を地面に押さえつける。
「立ちはだかる壁を砕け、フレイム二ードル!」
手を当てた地面が赤く光った。次にエビ型生物の足元から幾多もの火柱が立ち昇り、高熱を与える。
熱いのにはさすがに弱いのか、エビ型生物は少し大きな雄叫びをあげる。
「ナイスだティード、その調子でドンドンやってしまえ。」
ウェルはエビ型生物の隙を狙って攻撃を仕掛け、ティードの呪文詠唱を援護する。
「荒れ狂う稲妻よ、その華麗な踊りを我の前に…」
今度はエビ型生物に指を差す。
「スパイダーボルト!」
ティードの指先から蜘蛛の巣状の電撃が発生し、エビ型生物の身体に絡み付く。
電撃を浴びたエビ型生物の動作は鈍くなり、まるでスローモーションを見ているかのような動きになった。
「すごい電撃だな、俺らがくらうと一撃だろうな。」
鈍い動きになったエビ型生物だが、泡や水鉄砲でウェル達に攻撃する。
しかし、その動作も遅くなっていたので、躱すのは容易だった。
「しぶとい奴だなぁ。」
「でも、この動きならそろそろ倒せるだろう。」
「少し勢いのある魔法をぶつけようと思いますので、少し時間を作ってください。」
「わかった。ウェル、催眠薬の類は持っているか?」
「まあ、人に効果がある程度の物ならあるぞ。」
「多分問題ないだろう。」
ルネが何を考えたのかウェルには分からなかったが、リュックの中から白い袋を取り出し、ルネに投げ渡した。
「ウェル、奴の目に矢を打ち続けてくれ。」
「了解。」
ウェルは矢の残数を確認して一発目の矢を放つ。飛んでいった矢は先ほどと同様、固い殻によって弾かれる。
無駄打ちかもしれないと思いつつ、二本目、三本目と続けざまに矢を弓にセットして放つ。
その結果、矢は連続して飛んでいくので、エビ型生物は目を閉じ続ける状態になっていた。
ウェルがエビ型生物を攻撃している間に、ルネは鉤爪が付いたロープを使って天井に張り付いていた。
そして、ウェルから渡された白い袋を開けて、中の粉をエビ型生物の頭めがけてゆっくりとかけ始めた。
目を閉じていたエビ型生物は粉を躱す事が出来ず、みるみるうちに頭が白くなっていく。
攻撃をしばらく続けると、エビ型生物の足取りがふらふらし始めた。それを確認したウェルは矢を放つのを一旦やめる。その結果、エビ型生物の目は次第に開いてきた。
「ウェル、いま奴は混乱しているはずだ。これで矢を当てることができるはずだ。」
「まかせておけ。」
ルネは天井から大声で合図する。合図を受けたウェルはしっかりと狙いを定めて矢を放った。
瞬時にもう一方の目にも矢を放つ。矢は見事にエビ型生物の両目に命中し、目から大量の体液が噴出した。
「よし、やったな!」
「……、我が身の助けとなりて、その誇大な力を見せつけたまえ。」
ティードの周囲に青白い光の渦が発生していた。そしてティードは両手をエビ型生物の方に向ける。
「光の十字架で切り裂け!ホワイトクロス!」
ティードの目前に魔法陣が発生する。その魔法陣は真っ白に光り出し、光の中から人型の物体が出てきた。
その物体は大きな剣を持っており、背中には白い翼が生えている。
大きな剣が光を出し始めると、翼人は剣を十字に振りだした。すると、剣先から大きな衝撃波が発生し、その衝撃波はエビ型生物に飛んでいく。
白い粉とウェルの攻撃に弱っていたエビ型生物は、衝撃波を防ぐ事が出来ずに受け止める事になった。
衝撃波はエビ型生物の身体を十字に切断し、そのままの勢いで壁にぶつかって消滅した。
「よっしゃあ!」
「なんとかなったな。」
「ふぅ、頑張りました。」
三人は集合して、戦闘に使用した物を片付けた。少し休憩したのち、目の前にあるエビ型生物の残骸を確認した。
「とても大きい奴だな、こいつのおかげで先に進めないじゃないか。」
「触りたくないが、仕方がないな。」
ウェルとルネはエビ型生物の残骸を手分けして道の端に移動させた。
「本当に魔法ってすごいもんだな、助かったぜ。」
「そうだな、こんな巨大な奴でもやっつけてしまうのだからな。」
二人は交互にティードの頭をポンポンと叩いた。
「子供扱いしないでください〜。随分と頑張ったので、もうヘトヘトですよ。」
平然としているティードに見えたが、額は汗だらけになっていた。
「これを飲め、少し身体が軽くなるはずだ。」
ルネは自身のリュックからビンを取り出し、ティードに渡した。それをすぐに飲み込むティード。
「ありがとうございます。回復薬でしょうか、少し楽になりました。」
「それにしても、なんでこんな場所にエビなんていたんだろうな。ルネは見たことがないって言っていたよな。」
チラッとエビ型生物の残骸を見ながら話すウェル。
「そうだな。何度か来た事あるが、一度も見たことがないな。」
「可能性の話ですが、誰かが僕達の行動を邪魔してたりするかもしれませんね。」
ティードは額の汗をタオルでふき取りながら話す。
「悪い事は考えないでおこう。とにかく邪魔者はいなくなったんだ。早く花を見つけに行こう。」
「そうだな、こんな所で時間を潰してる場合じゃなかったな。」
三人は急ぎ足で歩き始めた。




